23「男の子には誰もが通る道があるんじゃね?」②
七森千手は動揺を飲み込みながら、柏原保の話を聞き続けた。
普段の千手なら「勇者じゃねえし!」と勇者扱いであることに全力でツッコミを入れているはずだが、今はその余裕はない。
精神的に弱ってしまっているのだ。
その理由は、――かつて自身が考えた最強のキャラクターと組織が目の前に現れてしまったからだ。
「まだ結成して日が浅い組織ではありますが、我々の中で最も強く、人望に厚い者を『皇帝』とし、我々が支えているのです」
「ぐぁああああああああああああああああああああ!」
千手が胸を押さえて苦しみ出す。
虎童子が保を睨んだ。
「――ダーリン!? お前、何をした!」
「……いえ、何も。本当に何もしていないのですが……持病でもありますか? よろしければ我々帝国の中に『聖女』の地位を持つ者がいるのですが、仲間になってくれるのであれば紹介しましょう」
「ぐっ、あぁああああああああああああああ!」
千手はさらに苦しみ出す。
かつて千手がノートに書いた設定では、「帝国」という組織のリーダーが「皇帝」であり、秀でた治癒能力を持つ者を「聖女」としていた。
他にも、剣に優れている者を「剣聖」「騎士団長」、戦い全般を得意とする物を「将軍」、他にも「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」「騎士」と力によって立場を割り振ったのだ。
すでに、「帝国」「皇帝」「聖女」が出てきてしまった。この流れであれば、続きも出てきそうで怖い。
「――さすが保さんだぜ! 何もせずに敵を苦しめるなんて! いや、違う。俺にはわかる。何もしていないと言いつつも、俺には見えない何かをしているんだ!」
少年は保に尊敬の眼差しを送っていた。
キラキラした瞳を向けられた保は「いえ、本当に何もしていないのですが」と困惑気味だ。
「あなたの調子も悪いようなので、話はこのくらいにしておきましょう。さすがに今、この場で我々帝国に加わることを決めるのは酷でしょう。後日、また会いにきます。その時に、良いお返事を聞かせてくれると嬉しいです。――が、そちらの鬼はここで倒しましょう」
「そうこなくっちゃ!」
この場で虎童子だけは倒すと決めた保に、少年が喜んだ。
力を得て使うことが楽しい、そんな印象を彼から受けた。
「ダーリン、あたいは戦うから、休んでいて」
「いや、待て。違う。別に俺は何かあったわけじゃない。いや、何かあったにはあったんだが、問題ない」
千手は精神を落ち着かせるために電子煙草を吸い始める。
サングラスを外して、胸ポケットに入れると、首を鳴らした。
「虎童子は手加減できないだろうから、俺が相手をしてやる。ふたりまとめてかかってこいや!」
「ダーリンっ、あたいのためにそんなにやる気マックスになって!」
「ちげえよ!」
「もう、照れちゃってかわいいー!」
「マジで、ちょっとツッコむ元気がないから、やめて」
(――とにかくこいつらを倒さなければ。倒して、組織を壊滅させるんだ。俺の黒歴史が現実になる前に、なんとかしないといけないっ!)
「鬼に誑かされた同志を救うのも我々の役目です」
「保さん、俺に任せてください」
「――いいでしょう。では、いきなさい、ぱおん」
「はい!」
おや、と千手と虎童子が揃って首を傾げた。
「……ダーリン、今、あの男、ぱおん、って言ったよね?」
「言ったな。どういう意味だ? 急に語尾をつけたのか?」
「それはそれで痛々しいんですけど!」
「同感だ!」
ふたりのやりとりが聞こえていなかったのか、少年は意気揚々と前に出た。
「俺が子供だからって舐めていたら殺すぞ。俺は、鉄剣の勇者にして、帝国騎士――斑目ぱおんだ!」




