22「男の子には誰もが通る道があるんじゃね?」①
千手と虎童子は向島市にある廃工場にいた。
裏手が山で、周囲は田畑に囲まれており、人通りも少ない。
荒事をしたいわけではないが、万が一を考えると、ちょうどいい場所だ。
相手がどう出てくるのかわからないため、付いては来たが警戒心を緩めることはしていない。
信頼する三原一登にメッセージを送ったので、最悪、位置情報からこの場に誰かしらが助っ人に来てくれるはずだ。
「申し訳ありません、こんな場所で話をすることになってしまうのは私としても望まなかったのですが……」
「気にすんな。こっちもてめえらが何かを仕掛けてくるのなら、市街地よりもやりやすい」
「そーだそーだ!」
「お前っ、保さんがそんなことするわけがねえだろ!」
「知るかっ!」
どうも少年は柏原保に一定の信頼を寄せているようだ。
(このガキも異世界帰りの勇者なのか……判断ができねえな。由良や佐渡のようにぶっ飛んでいればすぐにわかるんだが)
「椅子はないので立ったまま話をしましょう。改めて、私の名前は柏原保です。異世界に勇者として召喚されて、数々の戦いをくぐり抜けた魔眼の勇者です」
「知っているようだが、七森千手だ」
「妻の七森虎童子だ!」
「……おい」
「ダーリン、話を進めることが今は大事!」
「くそっ、あとで覚えていろよ!」
「いちゃついていんじゃねえよ!」
「このクソガキ! 今の俺たちのどこにいちゃついた要素があったんだ! ああっ!?」
隙あらば妻であると主張する虎童子とのやりとりを「いちゃつく」扱いされた千手は、少年に対し本気でキレたが、彼は気にした様子もなく鼻を鳴らすだけだった。
「それで、その勇者様がなんのようだ」
「元、ですよ。先ほども言いましたが、スカウトに来ました。その前に、あなたへの誠意として、僕の境遇をお伝えさせてください」
「そりゃどうも」
興味がない、と一蹴できたが情報を得ることは大事だ。
ここはあえて、「聞く」という選択肢をとった。
「詳しい詳細は仲間になっていただいた後にゆっくり話をしましょう。なので、簡潔に。異世界に勇者として召喚されましたが、異世界はゲームや漫画のような楽しい世界ではありませんでした。私は、そんな世界でも懸命に生きる人たちのために勇者として敵対種族と戦ったのです」
「魔族ってやつか?」
「いえ、人間以外のすべての種族です。エルフやドワーフ、獣人などですね。彼らは彼らの国を持ち強かった。対して人間は、スペック的に劣っていたのでどうしても虐げられていたのです。そんな仲、希望を込めて私が呼ばれた――――というのが、私を召喚した人間たちの言い分でした」
「つまり、違ったってことか」
「残念ながら」
お約束のようですよね、と保が苦笑いをした。
「当時の私は何も知らず、戦い続けました。人間を勝利に導きました。その時には仲間も共にいて、家族と思える人もいたのですが……全員に裏切られたのです。彼らの言い分としては、強すぎる力は新たな戦いを呼ぶとのことですが、体良く利用されただけですね。一番ショックだったのは、家族同然に接していた者たちも私を裏切ったことです」
「そりゃ残念だったな」
「いえ、気にしてはいません。全員殺しましたから」
「――っ」
「その時、私は気づきました。人間のような愚かな種族は、我々のような選ばれた存在が導かなければ駄目なのだ、と。私を利用した人間を全て殺し、帰還方法を見つけて地球に帰ってきました。その後、あの世界がどうなったのか知りませんし、興味がありません」
本当に興味がないのか、保はあくまでも「過去にこんなことがあった」くらいの感覚で話をしている。
悲壮感も、憎しみも、感情に表れていなかった。
「しかし、地球に戻ってきたからといって残っていた力があの異世界での日々が本物だったと思い知らされました。ならば、同じ失敗はしないように、世界を相手に戦いを挑もうとしたのですが――そんな時に、同じ境遇の仲間と出会ったのです」
「んで、仲間集めか」
「はい。我々は異世界帰りの者、転生者、生まれながらの力を持つ者を探し、集めています。同時に、我らを利用しようとする勢力、特に新たな神々と呼ばれる連中から仲間を守るための組織です」
「ちなみに、組織名は?」
「――帝国」
「――だっさ!」
素直な虎童子は、本音を隠すことなくはっきりといってしまった。
(……おいおい、やべえよ。なんだよ、俺の考えたキャラが、俺の考えた組織名を名乗りやがった! 間違いねえ、奴らのトップは皇帝を名乗ってるぞ! なんで俺はこんな痛々しいことを考えたんだ! もう十年前のことだぞ、今更古傷を抉るように……マジで勘弁してくれ!)




