21「厨二病って後で振り返ると羞恥心えぐくね?」④
よし、逃げよう。
千手は決めると早かった。
虎童子の腕を掴み、保とは反対方向に走ろうとする。
「あれぇー、なんで保さんについていかないんだよ?」
しかし、千手たちの背後には中学生ほどの少年がいた。
「――マジかよ」
「とらぴー気づかなかった。ごめんね、ダーリン」
「いや、いいさ。俺も同じだ」
年齢は夏樹や一登と同じくらいだろう。
ブリーチを重ねて傷んだ金髪に、ライダースジャケット、これでもかと穴が開いたダメージジーンズを身につけた少年が千手を睨みつけている。
「保さんがわざわざ声をかけてくれたっていうのに、逃げようなんて考えたら……殺すぞ、この野郎」
「――面倒臭えことになりやがって。こういうのは由良が担当だろうに」
千手は舌打ちをした。
幸いにして、少年はさほど力を感じない。背後を取られたのも、一般人くらいにしか思わなかったからだ。
彼が異世界帰りの勇者だろうと、なんだろうと、虎童子と一緒に力任せに推し通ることができると判断した。
「駄目だよ。彼らは私のお客さんだ」
「……す、すみません、保さん」
先を歩いていたはずの保が戻ってきてしまった。
足音を立てずに、いつの間にか密着できる背後にいたのがいやらしい。
(――上下関係は柏原保の方が上か。この手の生意気そうなガキは年上とか関係ないと思うんだが、おそらく力が上なんだろうな)
千手は年若いからと弱いなどと愚かな判断はしない。
今までで一番やばい奴が現役中学生なのだ。
「強さ」に年齢は関係ないと痛いほど知っている。
「まさか逃げようとするなんて残念だ。鬼を庇ったのか、仲間に助けを求めようとしたのか……初対面で難しいかもしれないが、私を信じて欲しい。仲間に酷いことなどしないよ」
保の声は穏やかだ。
むしろ心地よささえある。
だが、眼帯と腕に巻いた包帯のせいで、キャラ作りをしているような痛々しさが全面にくるので胡散臭い。
「……わかった。話を聞いてやる。今度こそ、ついていくからさっさと案内しやがれ」
「お前、保さんに」
「気に入らねえなら、それでいいぜ。俺は帰るだけだ」
「――っ、お前!」
「やめなさい」
「保さんっ! でもっ!」
「話に応じてくれるというのならば、我々が誠意を見せよう。私も君も、異世界での経験で心が荒んでいたが、仲間たちが真摯に接してくれたおかげで立ち直れたじゃないか。なら、私たちもそうするべきだ。違うかな?」
「……その通りです」
「うん。いい子だ。さあ、七森千手、そして鬼のお嬢さん。今度こそ、着いてきてくれるよね?」
「さっさと案内しろ」
「ははは、これは手厳しい」
(……こいつ、本当になんか嫌だ。なんだ、この嫌悪感は? 過去にあった……いや、そんなことはない。なら――っ、そうだ、そうだ、こいつは!)
ポケットに手を突っ込んだまま千手はスマホを操作していた。
一登に、勇者を名乗る不審者と出会った、それだけを送ったのだ。
なぜ一登かというと、信頼しているからだ。
「じゃあ、行こうか。できれば冷静な話し合いができると好ましい。私は、この身に宿す呪われた力を使いたくはないからね」
そう言って再び歩き出す保のあとを千手と虎童子は今度は追った。
(……この男、どこか既視感があったと思ったら、昔、中学校の授業中に書いた俺の厨二病設定がそのまま出てきたようだ!)
信じられない偶然に、千手はただただ震えた。




