19「厨二病って後で振り返ると羞恥心えぐくね?」②
「あー、美味しかった! とらぴーは乙女だから、ダーリンの前では腹八分目っ!」
「……ピッツァ二枚とパスタ二皿食って、デザート三つもぺろりと食べたのにまだ八分目か。……指摘はしたくないが、腹が出てるじゃねえか」
「もうっ、ダーリンったら。これはダーリンとのベイビーじゃん」
「おい、やめろ。マジでやめろ。ほら、すれ違った気の良さそうなおばあちゃんがあらまあ素敵ねって微笑んでるじゃねえか! いえ、違います。違いますから。恥ずかしがっていませんから。誤解です。ねえ、聞いて!」
イタリアンレストランから出た千手と虎童子のやりとりは、犬の散歩をしていた品の良い老婦人が微笑ましく見守っていた。
明らかに誤解をされているので、なんとか言葉を重ねるが、老婦人からすると千手が恥ずかしがっているように見えたのだろう。
手を振り去っていく老婦人に虎童子も元気よく手を振っている。
「誤解を解け!」
「別にいいじゃーん! あたいとダーリンのベイビーがおぎゃあするのは遅かれ早かれなんだからぁ!」
「よくねえ! ……はぁ。だが、今はいい。それよりも、だ」
千手は苛立ったように髪をかくと、背後を振り返る。
「なんでてめえは俺たちのあとをついてくるんだ?」
「ははは、誤解です。私もこちらに用事があるだけです」
「……そうか。ただ、一応、言っておく。俺はお前たちの仲間になるつもりはない」
「……なるほど。どうして、とお尋ねしても構いませんか?」
千手の背後を歩いていた青年は、拒まれても笑顔を貼り付けたまま態度を変えることはなかった。
それがどこか不気味だ。
「てめえがどこの誰で、誰と仲間なのかは知らないし、知りたくもない。興味もない。俺は、俺の仲間たちと一緒に今までと変わらない日々を送るだけだ」
「――そういえば、名乗っていなかったですね。これは失礼しました。私は、柏原保。地球ではない別の世界、つまり異世界で魔眼の勇者をしていました」
「…………なんだと?」
無視をしたかったが、「魔眼」という単語につい興味を覚えてしまう。
それ以上に、異世界で勇者という言葉に、驚きを禁じ得なかった。
「驚くのは無理もありません。まさか自分以外も異世界で勇者をしていたとは思いもしなかったでしょう。私も同じです」
「待て待て待て! 俺は異世界で勇者なんてやってねえ!」
「え? では、異世界には」
「……異世界には行った」
言葉というのは難しい。
千手は決して勇者として異世界に召喚されたことなどないが、異世界に勇者と一緒に行っている。
だが、丁寧に相手に伝えてやる義理はない。
「誤魔化さなくてもいいんですよ。警戒はわかります。私は味方です。あなたが理解してくれるまで、何度も会話をしましょう。ツッコミの勇者七森千手さん」
「……会話ができてねえじゃん。てめえは思い込みと独りよがりで喋っているだけじゃねえか」
「そうだ、会話の続きでしたね。私が勇者であることはお伝えしましたが、他にも勇者はいます。異世界帰りの勇者以外もいますし、転生者もいます。知っていますか? あなたが思っているよりも、ずっと地球はファンタジーなんですよ?」
「てめえよりは知っているよ!」




