18「厨二病って後で振り返ると羞恥心えぐくね?」①
「とりあえず、場所を変えないかい?」
「ふざけんな。俺は今からイタリアン食うって決めてんだ。勝手に現れて、俺の都合を変えるんじゃねえよ」
千手としては、この手の輩とは関わり合いになりたくなかった。
霊能力者というだけで基本的なスペックは平凡である千手は、新たな神々だけではなく神や魔族、果てには人類にまで喧嘩を売るような言葉を吐く男と仲良くなりたいとは思わない。
それ以上に、腹ペコな虎童子に早く飯を食わせなければいけないのだ。
もう少しで店が開く。
わくわくしている虎童子だからこそ、目の前の青年が現れても不機嫌にならずに済んでいる。
だが、もし、食事が邪魔されたらどうなるのかと考え、千手は嫌な汗をかく。
腹が減った鬼など厄介極まりない。
虎童子が人間を襲って食うなどとは微塵も考えないが、目の前の青年を殴り飛ばすくらいはするだろう。
基本的に平和主義の千手としては、その展開は望まない。
「そもそも背後を取るような真似をしやがって。一般人もいるだろうに、配慮ってもんはねえのか?」
「あなたは不思議な人だ。我々のような選ばれた存在がなぜ有象無象の人類に配慮しなければならないのかい?」
「……うわぁ」
「……うわぁ」
千手と虎童子が揃って変な声を出した。
青年の台詞は、痛々しかった。
自分のことではないのに、千手は羞恥心を覚えてしまう。
「う、うん、そうだね。あんたはそうかもしれないけど、俺はそういうのは嫌だな」
「……そうか。あなたは心優しい人だ。いや、まだ自分が選ばれた人間であることの自覚がないだけなのかもしれないが、私は好ましく思うよ」
「……どうも」
「ひとつ誤解を解いておこうと思う」
「あん?」
「私は君をつけたわけではないし、背後を取ったわけではないよ。たまたまイタリアンを食べに来たら先にあなたが並んでいた。それだけのことだ」
「…………」
「もっとも近日中にあなたに会いに行く予定ではあったけど、ね」
(……ちょいちょいうぜえなこいつ。停止させちまうか……いや、一般人に見られるのは流石にまずいな。どうにかしてここから逃げ出すか)
本意ではないが、一般人を巻き込んでしまうことを考えたらこの場から去るのもひとつの選択だ。
(イタリアン食いたがっている虎童子には悪いが……って、なんで俺が虎童子を気遣ってんだよ!?)
心の中でもツッコミを入れた千手が、虎童子をなんとか説得してこの場から立ち去ろうと考えた時、
「――お待たせしました。開店です!」
お店が開いてしまった。
「ちょ、待」
千手が止める間もなく虎童子が千手の腕を掴んで店内へ。
「ははは、微笑ましいですね。では私も」
青年も店内に入り、千手たちとは離れたテーブルに座るとランチセットを注文した。
どうやら本当にイタリアンを食べに来ただけだったようだ。
(……わかってるぜ、どうせ店から出たら揉め事なんだろう? そして由良が来てめっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃになるんだよな!)
千手は、今後の展開は流れに任せようと決めてピッツァを注文した。
虎童子はパスタとピッツァを注文し、意外と何も起きない普通の昼食の時間を送るのだった。




