12「お別れの時間はいつだって寂しんじゃね?」
「とりあえず、海の神さん、大地さん、炎の神さんとここにはいない風の神さんは新たな神々じゃないから新たな神々関連にはノータッチってことでオーケー?」
「オーケー! 身に降りかかる火の粉を払うくらいはしちゃうけど、基本的には自由気ままに生きるよ。それに、俺たちの力は年々弱まっているから、力の無駄遣いをしたくないんだよねぇ」
「……それで?」
「うん。これでー」
夏樹は笑えなかった。
海の神たちの実力は計り知れない。
魔王サタン、サマエル、リリスのような格上よりも存在そのものが大きいとわかるというのに、弱まっているとは思えなかったのだ。
「俺たちは自然そのものだからねー」
「信仰を集める神とは違う。ゆえに俺たちは日に日に弱まっていくんだ」
「いつか存在そのものが消える日もくると思うよ」
「……それって、ヒューマンたちのせいですか?」
「ははは、別にそういうわけじゃないさ。人間もまた自然から生まれたものだからねー。誰かのせいってわけじゃないんだよー」
「人間たちが俺たちをどう思っているのかはさておくとして、俺たちは人間を愛している。それだけは揺るがない、変わらない」
「だから、新たな神々が人間を害するのであれば、手を貸したくはなっちゃうんだ」
「というわけで、今回夢の中にお邪魔しました」
「お邪魔されました」
彼らが自然そのものであれば、弱まっているという言葉も嘘ではないと察することはできる。
人間の暮らしは年々良くなっていく。
しかし、その対価は常に払っているのだ。
意図したわけではなくとも、自然には多くの問題が起きている。
そして、その問題に人間も関わっている。
「気にすることはないんだぜ、なっちゃん。神々の信仰がいずれ廃れてしまうかもしれないように、俺たち自然のことなんて誰も考えなくなる日がくるだろうさ。その時には、ま、さようならってことで」
「……軽く済ませていい問題じゃないんだけどなぁ」
「人も、自然も、この星も、宇宙だっていつかは死ぬさ。そんなもんだよ」
「スケールが大きすぎてわかんね。とりあえず河童大神様と海の神たちが同じ存在なのはわかったけど」
「……そんな自然あったっけ?」
「あるよ!」
「……なんて澄んだ瞳。なっちゃんがそういうのなら河童大神という自然もあるんだろうな」
「いや、ないだろう」
「ないよ」
海の神と違い、大地の神と炎の神は河童大神に対して懐疑的のようだった。
「さてと、いつまでもお邪魔しても悪いし、そろそろお暇しようかな」
「そうだな。由良夏樹もいつまでも寝ていたら授業に遅れるだろう」
「うん。……そういえば、風の神が売店から戻ってこない」
「あー」
思えば、風の神の姿は夏樹もまだ見ていなかった。
本当に夢の中に来ているのかさえわからない。
「とりあえず、なっちゃんに預かってもらうってことで」
「嫌だよ!? 知らない神様を俺の中に置いていかないで!?」
「大丈夫大丈夫、姉ちゃんとも顔見知りだし、もしかしたら上手く取りなしてくれるかもしれないって」
「……ならいいかな……とは言わないよ!? ちゃんと連れて帰ってね!?」
「なっちゃんったら、わがままだなぁ」
「俺の方が悪いの!?」
「海ジョーク! 風の神も俺たちのマハロだからちゃんと連れて帰るって。なっちゃんが風の神とフラグ建てて姉ちゃんがお怒りになったら困るしね!」
「そういう冗談、なっちゃん嫌いかもっ!」
「うぇーい! 冗談冗談、自然ジョーク!」
「付き合ってられん。さっさと片付けて帰るぞ」
「うん」
大地の神と炎の神がてきぱきと片付けをする。
もともと持ち込んだものは少ないので、あっという間に大地の神のふんどしの中に収納された。
「そうだ、由良夏樹。佐渡祐介に伝えておいてくれ。いずれ会いにいくと」
「はーい」
「私も、三原一登きゅんに会いにいくね」
「うぃーっす!」
「俺も由良夏樹くんに会いにいくねー」
「って、もう会いにきとるやないかーい!」
「うぇーい!」
「うぇーい!」
お約束と言わんばかりの海の神と夏樹がハイタッチした。
大地の神は呆れ、炎の神が苦笑した。
「そうだ。やはり渡しておこうと思う。俺としても、由良夏樹と我らの海の関係が良いものになることを祈っている」
大地の神はそう言って、ふんどしからウィジャボードを取り出すと夏樹の手に握らせた。
「……なんかホカホカしゅる。しっとり、ぬっとりしてりゅ。……ありがとうございましゅ」
「礼はいらん。では、またな」
大地の神が夏樹の肩を叩き消えた。
「あの、よかったら、これ」
「ありがとうございます、炎の神様!」
なんとも言えない顔をした炎の神が夏樹にウェットティッシュを渡してくれたので、心から感謝した。
「ん」
炎の神は頷くと小さく手を振り、消えていった。
「んじゃ、なっちゃん。元気で。まじでリアルでも会いにいくからさ。今回、時間がなかったから姉ちゃんに関しては中途半端になっちゃったけど、いずれちゃんと間を取り持たせてよ」
「まじでよろしくお願いします!」
「おっしゃ! 約束ってことで! 俺たちは新たな神々や人間に肩入れはしないけど、なっちゃんはマハロだからいつでも頼ってくれよね! んじゃ、アロハ!」
「アロハ!」
夏樹と海の神はまたハイタッチをした。
満面の笑みを浮かべて、海の神は消えていった。
「……それで、俺はどうやって目覚めればいいのかな?」
ぽつん、とひとり常夏のビーチでウィジャボードとウェットティッシュを握りしめた夏樹が残されてしまった。
さてどうしよう、と考えた時、
「うぇぇえええええええええええええええええええ!? みんな帰っちゃったんですかぁあああああああああああああああああ!? せっかく焼きそばを買ってきたのにぃいいいいいいいいいいいいいい!」
少女の悲鳴のような声が聞こえた。
「もしかして風の神さん!? そういえばいたよねっていうか、結局俺の中に売店があったの!? 店員さんいたのか詳し――」
夏樹の意識は言葉の途中で途絶えた。




