106「月読先生でもびっくりじゃね?」②
(……なんだか変な気分だな。月読先生の腕が入ってくりゅぅぅぅってなっているのに少しくすぐったい感じだ。ていうか、腕突っ込まれて平気なんだ。てっきりアヘ顔ダブルピースな展開になると思っていたんだけど)
「……由良夏樹」
「はい?」
萌葱に声をかけられ、顔を向ける。
「月読先生が微動だにしないんだが」
「そうなの? あ、本当だ。なんで?」
「……月読先生は由良夏樹の内部を探ろうとした。難しいように聞こえるだろうが、月読先生ほどの神ならば一瞬で事が済むはずだ。しかし、間違いなく意識を持って行かれている」
萌葱が月読の前で手を振るが、彼は瞬きさえしない。
意識がどこかに飛ばされているのだと夏樹でもわかった。
「何かが逆に月読先生に干渉したのだろう」
「……何かって、何?」
「私が知るわけがないだろう。ただ、話の流れからすると、由良夏樹に宿る海の力だろうな」
「……つまり、月読先生は急にホラー映画の世界に取り込まれたってこと?」
「自分の潜在能力をホラー映画扱いしたいのなら、まあ、構わないが」
「だってホラーだもん! このアザ見てよ!」
夏樹は首以外の腕や足首にくっきりついた手形を見せる。
うわぁ、と萌葱が引いた声を出した。
「うん、まあ、首の手形だけでも怖いが、腕と足まで見せられると、怖いを通り越してやばいな」
「でしょう!?」
「……なるほど。ということは、月読先生は現在進行形でホラーな目に遭っているのだな」
「俺と同じならね」
「ふむ。もしかすると、触手に襲われている可能性もある、ということか」
「ないでしょ!? 俺の中に触手はないでしょう!? さすがにそういう趣味はないよ!?」
「ないのか?」
「ないよ! ちょっと難易度高いよ!」
「……まだまだだな」
「なんで上から!?」
そんなことを言っているので少し気は紛れているが、実際問題として月読が大丈夫なのか心配になる。
夏樹も自分のことが心配でもあった。
月読の腕が胸の中に挿入っているのだ。
この状況が続くと、何か害があるのかないのかわからなくて怖い。
「……これはチャンスではないか?」
「あ、なっちゃん知ってる。萌葱先生、絶対アホなこと考えている!」
「無礼者! 私はただ、月読先生の意識がない間に顔に落書きをしてみたいだけだ!」
「俺でもやらないよ!? そんな命知らずなこと!?」
「え? 命取られる案件?」
「絶対、命取られる案件。俺なら、塵も残さないレベル」
「……冗談だ。学校の神ジョークだ! 尊敬する月読先生に私がそんなことするわけがないだろう!」
「大きな声出して誤魔化そうとしているぅ」
不思議なことに、学校の神の言動はどこかで見たことがあるような気がする。
だが、すぐに気のせいと思うことにした。
「純粋な疑問なんだが」
「うん?」
「人がいないからと職員室で月読先生が由良の中に太いものを挿入れてしまったのだが」
「……うん、言い方ね。銀子さん喜んじゃうからね」
「他の先生に見られたらまずくないか? 懲戒免職ものではないか?」
「――確かに! 月読先生が誤解されちゃう!」
慌てる夏樹と萌葱だが、残念なことに「そんなことねーよ」とつっ込んでくれる者はいなかった。
「とりあえず奥の部屋に移動しよう」
「俺、胸に月読先生の逞しいものが挿入されたままなんですけど!?」
「……気合いでなんとかしよう」
「気合いじゃ無理だよぉ! こわいよぉ!」
「ええいっ、男の子だろう! なんとかするんだ!」
「むーりー!」
胸に腕が刺さったまま動きたくない夏樹が抵抗しようとした時、月読の目が開いた。
「―――――――――ぴえっ」
そして、なぜか白目を剥き、泡を吹いて失神した。
「月読先生ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「何が起きたんだぁああああああああああああああああああああ!?」




