105「月読先生でもびっくりじゃね?」①
「――――これは、驚きました」
月読命は、世界が一瞬にして変わったことにただ驚嘆していた。
「まさか夏樹くんの具合を探るだけでしたが、逆に干渉されてしまうとは思ってもいませんでした。事前に話を聞いていたので、警戒はしていたはずなのですが……」
月読は夜の海にいた。
水面は、膝よりも少し高いくらいだ。
陸地は見当たらない。
少し暖かい海水と、むせ返りそうな潮の香り、そしてざあざあと波の音が聞こえている。
頭上には満点の星々と満月が浮いている。
「――なんと美しい世界か。これが由良夏樹くんの心の風景なのですね」
魔力も濃く、どこか心地よさを覚える。
失礼な考えになるが、普段の夏樹の言動を見ている限り、星々が輝く穏やかな夜の海が心の中に広がっているとは思わなかった。
勝手ながら、嵐の中の夜の海を想像していたのだ。
「本来は、夏樹くんは穏やかなんでしょうね。異世界での過酷な経験が彼を変えてしまった。いや、彼は変わるしかなかったのでしょうね。誰にも頼らず、強くあろうとした」
目を瞑り、この世界を探った。
幸いとして、死の神の影響は皆無だった。
夏樹自身が抵抗できたのか、それとも内に秘めている力が守ったのか、さすがにそこまでは月読にもわからない。
この世界は、海と、星、そして膨大な魔力で形成されている。
他にもいくつか気になる力がある。
海は、海の勇者としての力だろう。
星は、夏樹が契約した蒼穹の星槍だろう。
どちらも強力な力だ。
それこそ、神や魔族に匹敵するはずだ。
由良夏樹の名は、神々にも魔族にも、そして新たな神々にも轟いている。
幾人かがすでに興味を抱き行動をしている。
雷神トール、北欧のオーディンはすでに接触をしていた。
特に雷神トールと戦い勝利したことで、夏樹への神々の興味が強くなっていた。欧州面ではオーディン、ゼウス、ポセイドン、ハデスのおかげで手を出す神はいないが、時間の問題かもしれない。
日本でも、素盞嗚尊が接触したが、戦った挙句親友になってしまったのでよくわからない。だが、おかげで日本の神々が夏樹によからぬことをすることはないはずだ。
ただ、夏樹によって被害を受けた神々からはすでに苦情が届いているが、担任というだけで自分に苦情が来るのは月読としても解せぬことだ。とはいえ、可愛い生徒のことだ。いずれ胃痛で倒れるかもしれないが、盾となろうと決めている。
「問題がないようで何よりですね。では、私もこの場から戻りまし――――――――ひゅっ」
ゆっくり目を開けた月読眼前に、濡れた女がいた。
年齢は、二十歳に届かないくらいだろうか。
顔は、濡れた黒髪に隠れて見えない。
潮の匂いを纏った女性は、白いワンピース姿だが、やはり服も濡れている。
まさか目を開けた瞬間、件の女性がいるとは思わず月読思考が恐怖で止まった。
女のひび割れた唇が大きく開かれた。
「あの子の中から出て行けぇぇええええええええええええええええええええ!」
「―――――――――――ぴ」
月読命は気絶した。




