104「月読先生が苦労しすぎじゃね?」
こほん、と月読が咳払いをした。
「そのアザに関しては少し心当たりに聞いてみます」
「よろしくお願いします! マジでよろしくお願いします!」
「あ、あまり期待しないでくださいね。ところで、他に問題はありませんでしたか?」
はて、と夏樹は首を傾げた。
とても怖い思いをした以外、問題はない。
その唯一の問題が、大問題であるのだが。
「特にないですね。寝るのが怖いくらいです」
「それはそれで問題かもしれませんが、そうではなくてですね。昨日、死の神と邂逅したのですから、何かしら身体や心に影響がないか心配だったのですが」
「……うーん、特にその辺りは問題ないんじゃないですかね」
「少し調べてもいいですか?」
「……調べるっていうのは?」
「あなたの身体の中を少し探らせてください」
「もしかして、俺の性癖が月読先生にバレてしまうとかはないですよね!?」
「そんな展開にはなりませんし、私も生徒の趣味嗜好を知りたくはないのでご安心ください」
「……由良夏樹、お前は何を心配しているんだ。――っ、まさか私のことが大好きだとバレてしまうのが怖いんだな! 仕方がない奴だ。放課後、保健室で待っているぞ」
「あ、そういうのいいんで」
「つーれーなーいー!」
瞳を輝かせる萌葱に夏樹はテンションを下げた。
人柄としては萌葱のことは嫌いじゃない、むしろ好きだが、恋愛面ではちょっと違う。
あくまでも良き先生――か、どうかはさておくとして、良き友人くらいがちょうどいい。
「萌葱先生、ほどほどに。本当に何度も言いますが、ほどほどに」
「う、うむ。すまん」
「ていうか、萌え萌え先生って教師としてやばくない? 親御さんから苦情とか来ないの!?」
「いえ、その逆です。お礼の電話がとても来ます」
「――まじで!?」
「大変不思議ですが、本当にっ、不思議なのですが、萌葱先生のおかげで息子が目を血走らせて机に齧り付いています、と。なんでも成績が上がったら特別レッスンをしていただけるようで、成績も上がり、男としてレベルも上がるとは大変嬉しく、と」
「中学生の下心パワーはわかるんだけど、その保護者はおかしい! 萌え萌え先生が意味深な個人レッスンするのをなんで肯定しているの!? あれ? これ、俺がおかしい?」
「いえ、教師として言ってはいけませんが、保護者がおかしいです。最悪の場合、私の責任問題になるんじゃないかと、最近、胃が痛いんですよ」
「……月読先生っ」
ぶわっ、と夏樹が涙を流した。
苦労が多いとは知っていたが、まさか自分以外の生徒や、同僚からも苦労させられているとは、あまりにも不憫だった。
「ははは、怒られるようなことはしないさ。ただ、純情な少年たちを手玉で転がす悪女としてちょっとやらかしてしまうかもしれないがな」
「……萌乃萌葱先生、そろそろ温厚な私もキレ散らかしますよ?」
「す、すまん、冗談だ。個人レッスンというのも本当に変な意味ではなくてな、私も一応は学校の神だ。生徒の人生を歪めることはしない!」
「ならいいのですが。はぁぁ」
大きなため息をついた。
いずれ本気で叱らなければならない日が来るかもしれない。
ただ、学校の神として子供たちを見守り、ずっと一緒に過ごしたいと願っていた彼女の念願が叶ったのだから少しくらい大目に見てはあげたかった。
無論、生徒の貞操は守らなければならないが。
「すみません、話がそれましたね。では、夏樹くん――少し探りますね」
「はーい」
月読の手が伸び、夏樹の胸に触れるとそのまま奥に腕が沈んでいく。
「つ、月読先生が俺の体内に挿いってきちゃうぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ!」
「ちょ、間違ってませんけど、大きな声出さないでください! 本当に!」




