99「力に振り回されていてはまだまだじゃね?」④
「ごめんごめん、なんか悪夢のせいで寝た気がしなくて、つい」
「……そうじゃったな、こっちも怒鳴ってすまんかった。しかし、夏樹の話をしているんじゃから、本人が真面目に聞かんと行かんじゃろうて」
「大丈夫、聞いていたよ。こう見えて、睡眠学習は得意なんだ! えっと、つまり河童大神様への供物は生クリームを塗りたくったきゅうりってことでいいよね!」
「それは、今、おどれが見ていた夢の話じゃろう!? おるかおらんかわからんが、河童大神も生クリームを塗ったきゅうりとか泣くじゃろう! せめてそのまま捧げたほうがまだ心遣いがあるじゃろうて!」
てしんっ、と夏樹の頭を小梅が引っ叩いた。
残念だが、睡眠学習は失敗していた。
「このマモンが、話をまとめてまもんまもんと伝えようではないか!」
「よろしくお願いしまーす!」
「まもんまもんまもんまもん!」
「――まもん?」
「まもんまもん、まもん、まもんまもんまもん!」
「……なるほど。海の力と向き合うか……せめてホラーな演出をやめてくれればいいんだけど、夢の中で気を失うと強制的に起きちゃうんだよねぇ。せめて、もっと可愛い夢ならいいのに」
「……いや、まもんまもん語便利すぎじゃろうて。なんで通じるんじゃ!?」
「ふっ、俺はマモンさんと拳で語り合ったからね、まもんまもん」
「心の拳の一撃は、千の言葉よりもまもんまもん」
ぐっ、と夏樹とマモンは親指を立てた。
サタンが、「ね? こんなん規格外な人間の力を封じるとかできるわけないでしょ?」と言っていて、小梅たちが頷いてしまった。
「ところで、真面目な銀子さんからの助言というか、なんというか、もう手遅れ的なお知らせっすけど」
銀子が時計を指差した。
「――夏樹くん、遅刻じゃないっすか?」
「あ、やべ」
絵に描いたような優等生の夏樹は、さすがに焦った。
■
学校の神にして、現在は向島第一中学校で教師をしている萌乃萌葱は職員室でお怒りだった。
「由良夏樹め、学校はきちんときているので感心していたが、ついにサボりか。こうなったら、放課後の指導だな。おっと、止めてくれるなよ、月読先生。時には厳しく、時には愛情深く接するのが私の教育方針なのだから!」
「……指導内容によっては止めますから。如何わしいこと考えているでしょう。鼻血が出ていますよ」
「おっと、失礼した。つい、な」
「令和の時代に、妄想をした挙句鼻血を出す人を初めて見ましたよ。あ、いえ、褒めたわけではないのでドヤ顔をしないで結構です」
月読は呆れた顔をしてティッシュを萌葱に手渡した。
「昨日は死の神と会ってしまい気が張ったのでしょう」
「あいつか。数える程度しかあったことはないが、よくわからん奴だが……それゆえに恐ろしい。死の力を持ちながら、明確な目的も考えもないように思えた」
「一応聞いておきますが、あなたに死の神を倒せますか?」
「まさか。私は学校の神だ。死に抗う術などない。ああ、だが、同じくらい強い奴だと無条件に死を与えることはできないと聞いたことがある。事実かどうか試すには、リスクが多いがな」
「……そう、ですね」
新たな神々の中でも厄介な神である死の神への対策を、月読は持ち合わせていなかった。
「――では、私は放課後のレッスンの準備があるので失礼する」
「させませんからね!」




