009話 オカマと煽られたので、つい本気を出してしまったと後で聞いた
-アルテナ森林 盗賊砦-
人質住民の避難はシノブ殿が滞りなく終了させる。
流石はシノブ殿だ。
拙者は正面入り口から盗賊幹部が居ると思われる。
砦中央の石造りの建物へと歩いて行く。
周囲を見渡すとゴキブリホイホイに掛かった様な感じで【麻痺粘着罠】に掛かったモブ盗賊が多数見受けられた。
今日の早朝自分はあんな情けない感じだったのかと少し心が沈んだ。
現役女子高生が黒猫のコスプレして同じ部屋で寝ていたら、つい寝顔を眺めたくなるのは男なら誰でも・・・・そう、魅力的だったから仕方が無い。
いかん、いかん・・
作戦行動中だったのを思い出して両手で頬を思いっきり叩き気合を入れ直す。
幹部の建物の前に着いた所で正面の扉が開いて、幹部らしき人物達が姿を現した。
強者の雰囲気漂う3人と、数人の武装した盗賊が姿を見せた。
ゲーム内で実装されていたレアリティの低い両手剣を携えた6人の盗賊が自分を中心に円形に素早く取り囲んで来た。
正面には微レア装備に身を包んだ褐色の女性が2人。
アフリカ系の美人モデル並みのスタイルを有した女剣士2人と、中央に銀色に輝くレアナックルを装備した頭頂部を剃った筋骨隆々大柄の男が此方を威嚇するような表情で睨んでいる。
両脇の美人女剣士はカマルとカガシで、中央の筋肉ハゲが盗賊団統領の拳聖バロウキンだろう。
中央のハゲ親父には興味は無いが、両脇の女性2人のスタイルにはどうしても目が行ってしまう。
「これも男のSAGAと言う事か・・・。」
チェーンソーでバラバラにされそうな台詞を言ってしまった。
死亡フラグでは無いと思いたい。
「お前は何者だ?もしかして労働組合から派遣でもされて来た冒険者か?それとも人質の家族か何か?」
中央の筋肉ハゲが顎を吊り上げながら、不気味な笑みを浮かべて話し掛けて来る。
他の盗賊連中も一様にニヤ付いた表情で此方を見つめて来る。
拙者の性別が女性と言うだけで軽視している様だな、油断しているのは好都合だ。
バロウキン、カルマ、カガリの頭上には黒色の犯罪者印が浮かんでいた。
良く見ると取り囲んでいる連中にも数人白色、黒色の犯罪者印が浮かんでいた。
何人殺したか知らないが、この連中なら殺してもペナルティは受けないと分かりこちらも口の端が上がる。
「何が可笑しい!」
おっと、表情がつい緩んでしまった、正面のモブ盗賊が威嚇してくる。
「いや、なんでも無いでござる」
言葉を返した瞬間、盗賊団の面々が訝しげな表情になった。
ああ、この世界に来てから喋る度にこの表情を浮かべられる。
この姿で男の地声と言うのは、どうも締まらない。
この場にシノブ殿が居たら、背後でニヤニヤしているに違い無い。
自分ではもう気にならないが、やはり他人からしたら不気味なのだろう。
どうして設定声優機能が切れているのだろうか?今までバレない様に女性を演じてきたのだが異世界転移で全て台無しだ。
元々「ござる口調」だから疑われる事も少なかったのになぁ・・・。
「なんだお前は、もしかしてオカマか?」
失敬なヤツだな、拙者は男だ!体は女だけど心は男だと言っても伝わらないし、何より面と向かってオカマと言われると腹が立つものだ。
プロフィールを偽っていただけで心まで女性になっていた訳では無い。
なのでオカマ呼ばわりされると腹が立つ、今の時代性別の事柄はジェンダー的な観点から問題になるんだぞクズめ!
「オカマが何の用だ?オカマの警備員は募集してないぞ!ギャハハ!」
正面でニヤニヤしながら煽ってくる犯罪者印のモブが笑い飛ばし、周囲の連中も同調して笑い出す。
低俗な煽りに本当にイラついてきた。
リアルでもこの手のタイプの人間は嫌いだった。
会社の上司もコレ系のノリの人間だったな。
拙者は表面的に大人しいタイプだから、この手の輩はイチイチ相手にしないのだ。
しかしこの世界では、犯罪者相手に手加減する必要は無い。
相手は所詮NPCだしな。
ザンッ!
ノーモーションからの高速斬撃で正面の犯罪者印の付いたモブの首が飛ぶ。
血の滴る刀を地面に向けて一振りし、刀に付いたモブの血を払う。
あまりの速さに周囲のモブは何が起きたか理解が遅れている。
唯一目で追えていたのはバロウキンだけだろう。
「キサマ・・・ただの冒険者ではないな。」
「どうでござろうな?」
「このっ!かかれ!」
あっけに取られていた周囲のモブが一斉に斬りかかってきた。
周囲を円形に囲んで居た5人のモブは犯罪者印が2人、残り3人は無印・・・
この3人を斬り殺すと自分にも犯罪者印が付く。
瞬時に冷静な判断をし利き手とは逆の手に持った濡れタオルで無印の3人を気絶させる。
印の有る2人は刀を全力で斬り込み、容赦無く相手の剣ごと横薙ぎで斬り捨てる。
モブ6人全員を倒すにものの2分もかかってない。
「なっ!コイツ!」「行くぞ!カガシ!」
成程、そっちがカガシでこっちがカマルね。
銀髪褐色の女性は双子なのか見た目が似ている。
だが犯罪者に容赦する気はサラサラ無い。
たとえ美人でスタイルが良くて、健康的な褐色で胸が大きくて尻や太ももの肉付きが良くて気が強そうな切れ長の目つきが・・・最高でござる!
両サイドからの斬撃を回避し濡れタオルを構える。
「ふざけるな!」
「くっ!キサマ女だと思って舐めているのか!」
出来る事なら舐めた・・・いや、何を考えているんだ。
ふと周囲に気を向けるとバロウキンが気配を消しつつ摺足で間合いを詰めてきている。
フッ・・・見え見えでござる。
「これで十分でござる」
「このカマ野郎がぁぁ!」
カマルの剣が一瞬輝き炎を纏った。
これは特殊技能【魔法剣】。
激しい炎を纏った剣を刀で捌き濡れタオルで腹部に一撃を加え意識を刈り取る。
手加減したけど内蔵大丈夫かな?犯罪者とは言え女性に手を上げるのは抵抗が有る。
後方よりカガシが時間差で斬り込んで来るが、即座に足を捌き背中に濡れタオルで追撃する。
カガシが気絶し倒れ込む瞬間に、突然眼前にバロウキンが高速移動で迫る。
特殊技能【縮地】か、回避が間に合わない。
褐色の美人剣士2人に多少の邪な妄想は抱いていたが、決して油断はしていなかった。
腹部に強烈な激痛が走り、後方に派手に吹き飛ばされる。
レベル固定ダメージの特殊技能【聖拳突き】、防御力に関係無く「使用者のレベル」×「攻撃力」のダメージを与える。
レベルアップやステータスポイントを「力」に振る事等、自身の成長と共にダメージ量が向上する特殊技能だ。
最大HPの3割程度持っていかれたイメージだ、もの凄く痛い。
鈍痛って言うのだろうか、リアルで殴り合いの喧嘩なんてしたことが無いのでこの痛みは精神的衝撃がでかい。
さっきまでの敵はレベル差から余裕があったが、MAXレベルの自分にダメージを当ててくる人間と対峙すると多少の恐怖心が湧いてくる。
・・・まだ大丈夫だ。
PVPなら追撃し連撃で詰めてくるはず。
ゆっくり立ち上がりバロウキンを睨むと相手の表情が驚きに変わるのが分かった。
恐らくバロウキンの渾身の一撃必殺技だったのだろう。
並みの人間なら粉々に弾け散るレベルの打撃を受けて立ち上がったのだから驚いて当然だ。
「すぅ・・・はぁ~~~」
深呼吸をして刀を鞘に納め居合切りの体制で構える。
一点に相手を見据え自分の中に芽生えた恐怖の芽を一つ一つ静かに摘み取るように呼吸を整える。
鈍痛が気にならない位の集中。
「おぉおおおおぉおおおぉおおおおお!」
バロウキンの体が輝き赤い光の粒子が全身を覆う様に舞う。
特殊技能で能力向上魔法を発動し、獣の様な雄叫びに似た咆哮で高速突進してくる。
思考が加速した様な感覚で相手の動きがゆっくりと確実に見える。
次にどんな動きをするのか、対処法はどうするか・・・
ゲームの中で得た経験が考えるよりも先に体を動かす感覚。
「ふぅ・・・剣技!【朧三日月】!」
最高速の横薙ぎの軌跡はまさに夜空に輝く三日月の様に鮮やかに輝く。
切っ先は視覚で捉えられない程に速く刀は霞の如く消える。
まさに一撃必殺の居合い特殊技能。
シノブ殿位回避に特化したキャラクターでなければまず回避出来ない。
バロウキンの拳がサクラの頬を掠め上半身と下半身が刀により切り裂かれ絶命する。
刀の刃が通った軌跡には、遅れる様に桜のエフェクトが舞い散っていた。
気分が高揚して気が付かなかったが、今自分の手で何人もの人を斬り殺した。
これはゲームとは明らかに違う感覚。
いつかこの重みや罪の意識に耐え切れなくなる時が来るのだろうか?
それともゲームのNPCと思って割り切る事が出来るのだろうか。
複雑な気持ちを覚えつつ拙者は踵を返し砦の入口で待つシノブ殿の元へと歩き出していた。
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