231話 喜びと絶望
「シノブは不用意に突っ込むな、最後の1撃まで温存するんだ。サクラ!行くぞ!」
「了解!」
「了解でござる!」
私はミカさんの指示で中距離に待機する。
すぐさまミカさんとサクラが【縮地】で突進する。
破壊神ヨグトスは両手を広げて装備を生成しようとする。
しかし、ゲームの読み込み速度が落ちた様に剣の柄の部分からゆっくりと姿を現している。
逆にミカさんとサクラの敏捷性が各段に上がっている。
装備の強化だけでなく身体能力にも能力向上魔法が掛かっている様だ。
「剣技!【朧三日月・極】!」
「剣技!【アルマナスラッシュ】!」
剣の生成が間に合わない破壊神ヨグトスの両腕を2人の剣技が両断する。
今まで攻撃が当たらなかったのが嘘の様にクリーンヒットする。
ドス黒い血液が周囲に飛び散り、剣の柄を握った2本の腕が地面に落ちる。
ミカさんとサクラの攻撃はまだ終わらない。
体を翻し多方向から連撃を加える。
破壊神ヨグトスは表情一つ変える事無く回避行動を取っているが、その動きは明らかに鈍くなっている。
斬撃が何度も破壊神ヨグトスを斬り裂き、同時に再生もする。
すごく異常な状況だ。
その状況を見るに破壊神ヨグトスには相当の能力弱体魔法が掛かっている様子だ。
今までの圧倒的な威圧感は無い。
強いレイドボス的な感覚まで弱体化しているのが伺える。
・・・これはいける!
「これは・・・ハーデスのお陰で【イグナイトストライク】の再充填時間が溜まっている。」
「良いですね、私達も少し前進しましょう。」
「うん、装備品が出来上がる前に決着を付けよう!」
中距離位置から少し前進し、私は【影分身】を使用し3体の分身体で攻撃に向かう。
以前の戦闘で気付いたのだが【破壊刀イレース】は分身体の攻撃では本来の特殊能力は一切発現する事が無く、通常の刃物としての攻撃力しか無いらしい。
その為、【村雨】よりも攻撃力自体は低い感覚だ。
両腕を斬り落とされた破壊神ヨグトスは魔法攻撃に切り替えて戦闘を行っている。
極大攻撃魔法や状態異常魔法を連続使用しているが黄金色の粒子を纏ったミカさんとサクラには、全てのダメージ軽減と状態異常無効化がされている様に見える。
なるべく分身体で2人を庇う様に動き、対応する。
ダメージ超過により分身体は消滅するが、こちらへのダメージ軽減にはなったはずだ。
「サクラ右へ飛べ!剣技!【原初の光】!」
光り輝く大剣の突きが破壊神ヨグトスの首を飛ばし、胸部を貫通しその部分を丸ごと消滅させる。
上位能力向上魔法と上位能力弱体魔法の効果は絶大だ。
「ミカエル回避だ!シノブ、咲耶行け!」
DOSの叫びと共に長銃【アグネイヤ】から【イグナイトストライク】を放つ。
螺旋状の光線が放たれる。
美しい光の軌跡を作る銃弾が破壊神ヨグトスの斬り飛ばされた顔面に直撃し貫き頭部が弾ける。
咲耶が「きたねぇ花火だぜ」と宣う。
なんか漫画で読んだ台詞だな?
・・・誰の台詞だったっけ?
残った肉体をこの刀で斬り裂き完全消滅させる!
SPは95パーセント残っている。
・・・最大火力で斬り裂く!!
咲耶が能力向上魔法と防御障壁を展開したのを確認し、私は【縮地】で距離を詰める。
「これで終わらせよう!」
『これで終わらせよう!』
全てのSPを【破壊刀イレース】に込めて、破壊神ヨグトスの残りの肉片を全て斬り伏せる。
ブロックノイズ状にテクスチャが崩れて全て消滅する。
「よおし!」
「勝ったでござる!」
「終わりだ!」
「・・・・終わった。」
皆が口々に勝利を宣言する。
勝った、勝ったんだ!
物凄い高揚感と興奮が体の隅々を流れる。
これで皆と現実世界に戻れる。
嬉しさの余り感極まり、笑いと涙が溢れる。
その時、耳元で自分の声が聞こえた。
録音した自分の声を改めて聴く様な・・・
似ているけど他人の様に感じる自分自身の声・・・
その声は抑揚から嬉しさが溢れる様な・・・
我慢して我慢して、ようやく発した様な喜びに満ちた・・・
そんな嬉しさといやらしさを孕んだ・・・
邪悪に満ち満ちた、とても感情の籠った歓喜の声。
その声は私の耳元でこう囁く・・・
『だ~れだ♪』
自分の声質に近いその声は艶めかしく甘ったるい様な喋り方だ。
そして私の肩から首筋に掛けて体温の無い冷たく白い腕が抱き着く様に現れる。
ええ!?
何?何?何?
ホラー映画の1ページの様なシーンに心臓が高鳴り、喜びから絶望へと突き落とされる様な感覚を感じる。
恐る恐る振り向くと、何も無い空間から現れた真っ白な人間状の上半身が私に抱き着いていた。
ああ・・・あああ。
恐怖で体が震え、思わず刀を地面に落とす。
皆が私を目掛けて走って来るのがスローモーションの様に見える。
なんだろう。
・・・凄く眠い。
まるで強力な睡眠魔法を掛けられた様な感覚だ。
とても目を開けていられない。
私はもの凄く暖かい何かが体全体と包み込む様な感覚を感じながら、深い深い眠りに落ちた。
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