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青春は恥ずかしい




 セロとの出会いから7年。成長した私達は、王立学園への入学を間近に控えていた。


「楽しみね。私は魔法薬クラブに入るわ。セロはどうするの?」


 問い掛けると、長い前髪が揺れてコクンと頷きが返ってくる。


「本当?一緒に入ってくれるの?嬉しい!」


「…………」


「ふふ、セロも楽しみなの?私達、本当に気が合うわ」


 手を取って微笑むと、コクコクと頷く彼。同じように浮かれてくれているのが解って余計に嬉しくなる。


「ねぇ、学園では恋人同士はお揃いのミサンガを着けるのが流行ってるんですって。お互いの髪の色とか、瞳の色とかを織り交ぜたものをね。私達も作ってみない?」


 小説の中でも主人公が王子とミサンガを着ける着けないですれ違っていたのを思い出しながら提案すると、セロはいそいそとポケットから何かを取り出した。


 パッと手渡されたのは、黒と緑が織り交ぜられたミサンガが2つ。


「嘘!作ってくれたの?ありがとう!セロ、大好きよ」

「…………//」


 頬にキスをすると、耳まで真っ赤になった私の婚約者様。色白だから、赤面すると余計に目立つのよね。可愛い。


 差していた日傘を折り畳んで、受け取ったミサンガを彼の手首に結んであげる。


「卒業までに切れなかったらずっと一緒にいられるんですって」

「…………」


 同じように私の手首にミサンガを結んでくれる彼。目が合わなくたって、喋らなくたって、表情筋が死んでいたって。何を考えてるのか解ってしまうのだからどうしようもない。


「そうよね。これが切れても切れなくても私達はずっと一緒よね」


 笑顔で答えてぎゅっと腕に手を絡めると、私の代わりに日傘を差してくれる。こういう優しいところも好き。


 お揃いの全身黒コーデに、黒いレースの相合日傘。お決まりスタイルの私達を、伯爵家の使用人達が微笑ましく見ていた。


 今日はセロのお母様、シャロン伯爵夫人にティータイムのお呼ばれをしていた。今や彼の家族どころか、親戚一同まで私の味方。特にお姑様とは良好な関係を築かないと。


「セロ、私どうかしら?変なところはない?」

「…………」

「やだもう。セロったら」

「…………」

「うふふ、流石に繰り抜いたばかりの新鮮な眼球の白眼部分より色白でスベスベで綺麗、は言い過ぎよ」

「…………」

「あなたもとっても素敵」

「…………」

「そうね、早く行きましょう?」



 ただ、どうしてだろう。基本は微笑ましく見守ってくれる伯爵家の使用人達だけど。たまに恐怖に引き攣ったような顔をする事があるのよね。お腹でも痛いのかしら?



「アリスちゃんがいてくれて本当に良かったわ。この子1人でだなんて、学園に通えないでしょう?

 だって喋らないんですもの。アリスちゃんの通訳がないと他者と意思疎通ができないんだから」


 席に着くなり、夫人がそう愚痴を言うので、思わず反応してしまった。

 

「そんな事ありませんわ、おば様。セロはとっても素敵ですもの。きっと学園でもモテてしまいます。私、今から心配しておりますのよ」


 すると、隣にいたセロが私の手を掴む。


「…………」

「そうは言っても、周りのご令嬢があなたを放っておかないわ」

「…………」

「セロ……」

「…………」

「私だってそうよ。同じだわ」

「…………」


 彼の強い想いに感動して手を取り合い見つめ合っていると、コホンと咳払いが聞こえてハッとした。


「あー、アリスちゃん?知らない人が見たら独り言を言っている頭の狂った子に見え……ゴホン、いえ、何でもないわ。セロはなんて?」


 引き攣った笑みの夫人に、私は慌てて彼から離れた。


「あ、その……私以外は人として認識していないそうです。蜘蛛の巣に引っ掛かっている干からびた虫の死骸程度の興味すら沸かないんですって」


 照れながら答えると、夫人は更に顔を引き攣らせて微笑んだ。口元がピクピクしてる。


「あなた達は本当に怖……ゴホン、仲が良くて何よりね。

 アリスちゃんがいなかったら、セロに嫁いでくれるような悪趣味……ゴホン、珍妙……ゴホン、変態……ゴホン、寛容なご令嬢はいなかったでしょうね」


「おば様、先程から咳が多いようですが、体調がお悪いのですか?」


「いいえ、何でもないのよ。心配してくれてありがとう。お茶を飲めば治りますからね。

 それより、結婚式の日取りは学園卒業後すぐがいいと思うんだけど、どうかしら?」


「少し早すぎる気もしますが……お任せします」


「そう!だったら、今から決めておきましょう!こう言うのはなるべく早い方がいいわ。一人息子のセロがこんな社会不適合者で我が家門にとっては死活問題だったところに現れたアリスちゃんは救世主。あなただけが唯一の希望の光……何があっても絶対に逃がすもんですか。ゴホン、失礼。

 セロ、あなたはどう思う?」


「………….」


「ふふ、やだ。セロったらもう」


「……セロはなんて?」


「今すぐがいいって言うんですよ。学園になんか行かずに私を監禁したいって。この人、最近冗談を言うんです。可笑しくって」


 笑っていると、何故か夫人はホラー映画を観ているような顔をしていた。幽霊でも見えたんだろうか?



「アリスちゃんも大概……ゴホン、……まあ、血筋さえ存続させてくれたらもうそれでいいわ……」


 遠い目をした夫人の言葉の意味はよく解らなかったけれど、新手の冗談だと受け取って取り敢えず愛想笑いを返しておいた。


















 学園の入学式が終わった放課後。


 クラスメイトへの自己紹介という陰キャにとっては苦行でしかない地獄イベントで意地でも喋らなかったセロは教師に呼び出されてしまい、仕方なく教室で待っていると。唐突に声を掛けられた。


「アリス・オルレアン。やっと君の名前を知ることができたな」


 めちゃくちゃ馴れ馴れしいその態度に、思わず舌打ちが出そうになった。なに?誰?


 見上げると目が焼けるような金髪金眼のキラキラくんが、鳥肌が立つような爽やかスマイルで私を見ていた。こわっ。


「小さい頃から君とは縁があっただろう?何度も偶然出会い、助けられたり、助けたり、一緒に踊ったこともあったな」


 キモ、と鳥肌が立ったのは仕方ない。だって何の話だか意味が分からなかったんですもの。新手の呪いかなんかを掛けられてるんじゃなくて?


「……申し訳ありません、人違いではないですか?」


「君のような愛らしいピンクの髪と新緑を思わせる瞳の色のご令嬢が他にいるとでも?本当に覚えていないのか?俺が街で迷っていた時、マカロンの材料を買いに来ていた君に助けられた」


 薄ぼんやりと、何となく心当たりがあった。セロの好物であるマカロン作りを極めた8歳の頃、食材を吟味しに街へ出た時、やたらキラキラした男の子が迷子になっていて警備隊のとこに連れて行ったような。

 あまりにもキラキラしていて視界に入れると目が痛んだので顔は覚えていない。


「そのあと、王城の中庭でガゼボを探していた君に声を掛けられた」


 シャロン伯爵にセロのお守りとして連れられて行った王城で、日光に弱いセロの為に日陰を探した事がある。人に聞こうにも近くにはキラキラした男の子しかいなくて、仕方なく声を掛けたような。


「三度目は10歳の時だ。王立図書館で人目を避け踊る君と一緒に踊った」


 本に埋もれて陰気さの増したセロが可愛くて、堪らなくなって図書館の隅で小躍りした事がある。気付いたらキラキラした男の子が傍に居てホラーだったのは覚えてる。


「その後も、カフェで隣の席だったり。夜市ですれ違ったり。こんな偶然が続くのかと、運命のようなものを感じていたんだ」


 申し訳ないけど知らんわ。とは、言い出せそうにない雰囲気だった。

 それに何やら嫌な予感がする。こんなにキラキラしてる人が、ただのモブなわけがない。



「まさかこうして同じ学園で再会するとは。やはり我々は不思議な縁で結ばれているのかもしれないな」



 爽やかなキラキラ笑顔を向けられたストレスで唐突に閃いてしまった。私はこの7年、憑依した意義をセロと恋することだけに見出していたからすっかり忘れていたけれど。


 そもそものこの物語の主人公とヒーローは悪役令嬢と王子。そして王子は金髪金眼のキラキラ野郎。


 こいつだ。間違いない。私の勘がそう告げている。こいつがヒーローだ。


 関わらないようにしようとしてた主要人物に、うっかり関わっちゃうっていう王道パターン。

 それも子供の頃から?何度も?嘘でしょ!立たないはずのところに勝手にフラグが立ってるなんて!これが物語の強制力ってやつなの!?


 予期せぬ事態に慄いていると、ぬっと私の手を引く何か。驚いて振り向くと、見た事ないくらい冷たい目をしたセロがキラキラくんを睨み付けていた。かっこいい。


「セロ!戻ってきたのね。寂しかったわ。先生のお説教は終わったの?」

「…………」

「大丈夫よ。少し話してただけ」

「…………」

「そうね。帰りましょうか」



「……えっと、そちらは?」


 セロと帰り支度をしようとしたところで、まだ居たらしいキラキラくんが何とも言えない顔でこっちを見ていた。


「彼は私の婚約者でセロ・シャロン。シャロン伯爵の御子息ですわ」


「……婚約者、」


 何故かショックを受けたようなキラキラくん。えーと……名前は何だったかしら。この国の王子……王子……


 思い出せないので、取り敢えず愛想笑いを浮かべておく。



「それでは私達は失礼致しますわ。また何処かで偶然お会いしてもお気に留めないで下さい。私、キラキラしたものは苦手なんですの」


「なっ、待ってくれ!」


 なおも呼び止めてくるキラキラくんに腹が立つ。そもそもあんた、この小説の主人公で悪役令嬢な婚約者がいるでしょーが。


「一つだけ。無礼を承知で申し上げますけれど。婚約者のいる方が他の令嬢に運命だの不思議な縁だの、無責任なことを仰るのは如何かと思います。

 どうかご自分の婚約者様を大切になさって下さいね」



 セロの腕に手を絡めて、絶句するキラキラくんに背を向けた。何だかセロが首を180度くらい回して背後のキラキラくんを睨み続けているけれど、そんな人間離れしたところも可愛くてきゅんとしちゃう。


「うっ……!?……っ!……ン〜!!!」


 何やら背後から変な声やら音やらが聞こえるけど気のせいでしょう。誰かが窒息の魔法を掛けられて苦しみ悶えている音のように聞こえるけど、そんな楽しい展開あるわけないし。



 その後、王子の元に夜な夜な呪いの手紙が送られて来たとか来ないとか、変な噂が立ったらしいけど。私の知ったこっちゃありませんわ。



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