【短編】一時間の予言
(この作品に限った事ではありませんが)もし誰かが同じような話を書いていても大目に見てください。
よく晴れた日曜日の昼下がり。
明日からの憂鬱な仕事のことを思い出すにはまだ少し早い時間だ。こんな時は、窓から入る陽射しを浴びながら寝転がるに限る。
そんな事を考えていると、部屋の隅で何かがぼんやりと光ったような気がした。
どうやら太陽の光ではないらしい。戸惑っていると、光はやがて翼を持った何者かへと変わっていった。
「我は予言の神。人間の中には、ヨゲンノトリと呼ぶ者もいるな。そなたは厳正なる抽選の結果、一億人にひとりの『予言当選者』となった。感謝するが良い」
驚く僕に向かってそれは言った。
「予言当選者・・・。それで、いったい僕にどんな予言を伝えてくれるのですか」
何でそんな事あっさり信じられるんだ、と思われるかもしれないけど、「部屋が突然光る」というこの世ならざる現象を見た時点で、どんな事も受け入れられる精神状態になるらしかった。
「うむ。そなたには、この一時間の間に起こりうる最も幸福な出来事と、最も不幸な出来事を教えて進ぜよう。ただし、教えられるのはどちらか一つだけだ」
少し迷ったけど、後者にしようと思った。不幸な出来事をあらかじめ知って避けられるのなら素晴らしいじゃないか。
「じゃあ、不幸な出来事の方を教えてください」
「本当にそれでよいな?ならば教えよう。そなたはあと30分もすれば外に出かけるつもりであったろう。そこで、財布を落としてしまうのだ」
「財布を・・・。じゃあ、外出を控えたなら・・・」
「うむ。財布を落とすことはないであろう。予言は伝えた。では、さらばだ」
そう言って、予言の神は消えていった。
仕方ない。日曜日の街の賑わいを感じられないのは残念だけど、今日はずっと家にいて過ごそう。
まあ、財布と言っても大した金も入ってないけど・・・
いや、待てよ。日曜日と言えば・・・。
僕は、新聞を手に取るとTV欄を見て「競馬中継」の文字を確認した。
神の、「一時間の間に起こりうる最も幸福な出来事」という言葉が頭をよぎる。
僕の心臓が激しく高鳴る。
僕は、ずっと前に登録したものの、まったく当たらなくて放置した競馬予想サイトの存在を思い出した。
今なら、まだメインのレースには間に合うだろう。あの神に聞けば、きっと今日の当たり目を教えてくれるはずだ。
僕は何て馬鹿だったんだろう。ずっと部屋の中にいて賭けていれば、財布も落とさずに尚且つ大金も手にすることが出来るじゃないか。
だが、僕は一億人にひとりのチャンスを手にしたんだ。チマチマと不運を避けてばかりの毎日とはおサラバするんだ。
「神様!やっぱり変更させてくれ!競馬の当たり目を教えてくれるんだろ!?お願いだ!帰ってきてくれ!」
だが、何度呼びかけても神は再び現れない。もう、壁はもとの壁のままだった。
やがて時は経ち、僕はすべてを諦めて横になった。
そしてこの日、僕は一攫千金の夢と引き換えに財布の中のはした金を守り抜いたのだった。