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09 生まれる前からの因縁を明かしました

 パーティーから3日後、再び王宮に来ています。今回の用件は二つ。


 一つは、パーティーの場で拘束されたリーベル伯の件。

 この件の捜査の最高責任者に王太子殿下が指名されたので、事情を聞かせて欲しいと王太子殿下から招集状が届きました。

 他にも何人か、関係者が集まるそうです。

 恐らく、私の『行方不明』の経緯を聞かれるのでしょう。


 もう一つは、エドゥアルト殿下の件。

 リーベル伯の件が終わってから、アレクシア様の父君・バーデンフェルト侯爵と王太子殿下とで会談を行うとのこと。

 私には最初だけ同席してほしいとのことです。



 王太子殿下の招集状を持って馬車で王宮に行きます。馬車止めからは、流石に私の従者は連れられません。王宮の従者に書類鞄を託し、王太子殿下の執務室まで通されます。


「リッペンクロック子爵イルムヒルト、(まか)()しました。」

「入り給え。」


 王太子殿下の許可により、執務室の中に通されます。

 中には王太子殿下の他、五人の重臣の方々が会議卓に着いておられます。


 うち三人は、何度かお会いしている方々なのでわかります。

  貴族省長官ミュンゼル法衣侯爵

  商務省長官バーデンフェルト侯爵

  第三騎士団長エルバッハ法衣侯爵

 あと二人はどなたでしょうか。


 貴族省長官は、『行方不明』中に私を当主として認めて頂くための手続きについてなど、何度か直接打ち合わせさせて頂きました。

 商務省長官も、アレクシア様の件だけでなく、商会の立ち上げや、領地間の不当な取引条件の是正について等、こちらも何度か打ち合わせをさせて頂いてます。

 第三騎士団長殿は、メラニー嬢の件と乗っ取りの件で相談しています。


 国の重臣の方々が多く緊張します。

 でも『アレ』はこの場にはいませんので一安心です。



 会議卓の、王太子殿下の正面の席に通されます。席に着くと殿下から話し始めます。


「子爵、良く参られた。

 本日は、先日拘束されたリーベル伯爵エッグバルトの件についてだ。

 

 貴族家乗っ取りの私的な企ては重罪であり、本来は陛下の直属案件になる。ただリーベル伯は陛下と学院時代から関係があり、忖度が働く危険性がある。その為、この件は陛下は関わらず、私が責任を持つことになった。」


 それは良い知らせです。

 王太子殿下に、少しは期待して良さそうでしょうか。



「リーベル伯本人は未だ否認しているが、そなたの父エーベルトやメラニー嬢への危害を装ったメイド、その他関係者の証言からリーベル伯が長年、子爵家の乗っ取りを企図していた節がある。

 其方が7年以上行方を晦ませていた点、この件とも密接に関わると思われる。リーベル伯の乗っ取り疑惑について、事情を聞かせて頂きたい。」


 敬礼をすることで、了承する旨を伝えます。


「同席している五人は、この件に関連する調査を行う省庁の長官である。貴族省長官、商務省長官、第三騎士団長の三人は御存じだろう。残りの二人は、宰相と軍務省長官である。」


 列席する五人全員と礼を交わします。

 なるほど、宰相デュッセルベルク侯爵と、軍務省長官バルヒェット法衣侯爵ですか。

 今回のような貴族家乗っ取りの調査では、場合によっては強権の発動が必要です。国王が責任者であれば、強大な国王権限で動かせるものは多いですが、王太子殿下が責任者なので、権威を補い強権発動の後ろ盾を担うため宰相も呼ばれたのでしょう。


 軍務省は、騎士団以外の軍の管理を行う役所です。貴族家乗っ取りの関係者として、高位貴族家の分家等の関係者全員を一斉に検挙する場合など、人員を一気に投入する場合があります。

 第三騎士団はあくまで王都内を活動範囲としていますので、領地まで捕縛の手を伸ばすのは無理です。そこで、リーベル伯の分家筋一同を一斉検挙する可能性を考慮して長官が呼ばれたようです。


「では、早速始めたい。リーベル伯による子爵家の乗っ取りについて、子爵が把握している最初から話して頂けるか。」


「はい。最初というと先代から聞いた話なので、確たる証拠はないのですが。――17年前、先代と父エーベルトの、結婚式でしょうか。」


 御歴々の全員が目を剥きます。そんなに前から、と呟くのは王太子殿下です。

 本当はもっと前からあるかもしれません。

 でも不確かですし、もっと前となると『アレ』の話もしないといけません。


「父エーベルトはリーベル伯の末弟で、子爵家当主であった母に婿入りする形での結婚でした。

 当然、結婚式は子爵家にて行う筈が、ここにリーベル伯が横槍を入れ、弟を盛大に祝いたい、資金は出すと言って、子爵家に近い伯爵家の別荘地での開催に無理矢理変更させました。


 そして、いざ結婚式に向かいますと、子爵家側の列席者は様々な理由で伯爵家の領内で足止めをされて会場へたどり着けず、子爵家側からは母と祖父母の一行だけが会場に入りました。

 式は先代と祖父母を除いて、伯爵家の関係者のみで占拠されました。列席者からは、まるで伯爵家が当家を取り込んだような扱いを受けた、と。これは亡き祖父母から聞きました。」


 伯爵家の関係者全員、取り調べ対象となりそうだ、と軍務省長官が呟きます。


「式の後、先代と祖父母は子爵家へ帰ったあと、伯爵家に抗議文を送り、国へも申し立てを送りましたが、受理されませんでした。

 当時、子爵領は作物の病害で大打撃を被り、支援金込みの父の婿入りだったので、支援金を返せばいいだろう、というのが不受理の理由でした。

 農務省に支援を要望すると、高位の貴族家への支援で一杯で予算がない、と支援を受けられませんでした。

 支援金を返すあても無かったので、先代は父と離縁もできませんでしたが、せめてもの抵抗で、籍を入れたまま父を子爵領から締め出しました。

 ここまでが、私が生まれる前の話です。」


「農務省側の当時の支援申請と審議履歴の照会は、私の方で手配する。

 貴族省長官、当時の申し立てと、それに関する審議の記録は洗えるか。担当者が残っていなくても、贈収賄に絡む人物だったかどうかは確認すべきだろう。」

「了解致しました。」


 王太子殿下の指示に、貴族省長官は承諾をします。

 話を聞くだけで有耶無耶にされたらどうしようと思っていましたが。そういう積りが無さそうで良かったです。


 王太子殿下が続きを促してきました。

「失礼した。続けてくれ。」


「はい、話を続けます。

 結婚式の翌年に私が生まれましたが、伯爵とは特に接触はありませんでした。

 先代が私を産んでから体調を崩しがちになり、私が生まれてからは祖父母が領政を代行していましたが、先代の体調面と私の養育、それに伯爵を警戒していたので、祖父母もあまり先代のもとを離れない様にしていました。


 3年経って、ようやく領の回復が見込めるようになってきた頃、伯爵が次の手――伯爵領を通る商人に、通行料を課し始めました。

 野盗が現れるためとして治安維持を名目に課されましたが、対象は子爵領から伯爵領に入った場合のみです。

 子爵領に来る商人は、領で商売をした後そのまま伯爵領の方へ行っていましたが、これにより、それらの商人はルートを変更したため、子爵領へ商人が来なくなり領内の景気が一気に悪化しました。」


 王太子殿下が商務省長官に問いかけます。


「それは、子爵領を狙い打ちにした通行料と見て間違いないだろう。商務省長官、伯爵領から通行料の申請が恐らく出ていると思うが、確認できるか。」

「13年前ですか・・・保管庫の奥かもしれませんが、確認してみます。」


 王太子殿下が商務省長官に指示されます。

 

「しかし野盗については・・・その程度の治安維持活動は各領地の領分ですし、13年前では今から調べるのは難しいですな。」


 そういえば、記録は残っているので、これを提出しましょうか。

 持ってきていた書類鞄から、祖父の日記を取り出します。


「一応、伯爵領の野盗について、当時祖父母が伯爵領へ出入する子爵領民に聞き取った記録が残っております。祖父の日記であり、書類の類ではないのですが、ご確認されますか?」

「是非確認させて頂きたい。」


 侍従が進み出て来て、日記を受け取り殿下に渡します。


「・・・ああ、この部分か。これを読む限り、死者やけが人は出ておらず、多少の金品を取られたのが数回。それも少人数でいるところしか襲われない。

 つまり、野盗の実態は大したものではなかったのだな。普通、この程度では通行料の申請に許可は下りないだろう、商務省長官。」


「拝見します。

 ――ええ、実態を知らされていれば、この程度では絶対許可は下りません。では、記録確認の後、贈収賄の線でも当たってみます。」


 王太子殿下がこちらに向き直ります。


「それと子爵、申し訳ないがこの日記を預からせて頂きたい。調査に必要な個所だけ写しを作成すれば、速やかに子爵へ返却しよう。」


 大丈夫でしょう、見られて困るものは残ってないはず。

 日記の最後の方に、母のことで記載がありましたが・・・余り知られたくないことが書かれていたので、ページごと抜いてあります。


「ええ、それは構いません。宜しくお願いいたします。では、続けさせて頂きます。

 

 リーベル伯爵領での通行料については、そこから3年程も続きました。放っておくと、子爵領がすぐに立ち行かなくなるのは目に見えていました。

 そこで祖父は、領外で買い付けた生活必需品を領内で販売する商会を立ち上げ、子爵家を通過する商人に頼らない商流を作り、ひとまず危機は去りました。

 危機は去りましたが、受けたダメージは大きく、それから領地経営は各地をきめ細やかに見ていく必要に迫られ、先代と祖父母が私を連れて馬車で各地を頻繁に回ることになりました。」


 ここで、一息ついて続けます。

 あの時の事を思い出すと、今でも――(はらわた)が煮えくり返ります。


「――私が8歳のときです。先代の体調が悪くなり伏せることも増えた為、この頃から私も領地経営に一部携わっていました。

 その頃は、隣国との国境地帯で小競り合いが頻発して、戦争が起きるかどうか、という緊迫した事態になっていたかと思います。」


 当時の事を思い出したのか、軍務省長官は苦い顔をしています。


「そんな中、子爵領とリーベル伯爵領の境界近辺に、100人規模の野盗集団が突如出没し、子爵領および伯爵領を荒らし始めました。

 伯爵領は独自で傭兵団を雇って討伐を開始したようでしたが、子爵領の方はそんな余裕もなく、軍務省に討伐依頼を申請しました。

 しかし、如何せん時期が悪かったです。軍務省側も国境紛争で手一杯だったようで、討伐人員が確保できない、と申請は却下され、代わりに傭兵の雇用申請を出すよう通達されました。


 しかしこうしたやり取りで徒に時間を浪費し、被害が拡大したためまたもや領地が窮地に陥りました。」


 この時は、ちょっと軍務省を恨みました。

 軍務省長官がばつの悪い顔をします。確か、当時から長官職でしたね。


「そこで仕方なく、子爵家で借金して資金を集め、伯爵領側で雇われた傭兵団に子爵領側での野盗討伐を併せて行って頂くよう交渉しました。赤字経営ですが、背に腹は代えられない状況まで追い込まれたのです。

 何とか交渉は成功し、順調に被害が減り始めた頃、心労で祖母が倒れました。


 傭兵団の活躍で野盗の討伐も進み、事態は沈静化に向かっていたので、家族で少し静養しようということになり、領内の静養地に向かいました。

 被害地域から大分離れ、あと少しで到着するだろう、という山の中で――


 ()()()()()()の、30人程の一団の襲撃を受けました。」


過去語りはまだ続きます。


リーベル伯絡みの話メインなので、次回もまだ『アレ』は出てきません。

『アレ』の話はもう少し先で。

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王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

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