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07 私と彼女の差は一体どこに ※(アレクシア視点)

 私アレクシアは、現商務省長官バーデンフェルト侯爵の長女です。

 家族は父母と、弟が二人います。


 父は学院時代から有能で知られていたようで、前々長官に是非にと請われ、学院を卒業後すぐ商務省で働くことになり、今は省の長官を務めています。


 私は父の様に国政に携わるよりも、小さい頃から領地経営の方に興味があり、

 家庭教師を探してもらって勉学に励んでいると、どこで王族の目に止まったのか、8歳の時にエドゥアルト第二王子殿下の婚約者に選ばれました。



 エドゥアルト殿下は、第一王子ヴェンツェル殿下に何かあった時の、いわばスペアの位置づけです。

 ヴェンツェル殿下はエドゥアルト殿下の7歳上ですが、それでも立太子、御成婚、そして御子様がお生まれになり、エドゥアルト殿下がスペアの役割を終えるまでは長い期間がかかります。


 その間も何かあったときのために王族教育は必要ですし、臣籍降下した場合も考えて領地経営の勉強も疎かにできません。



 私にとってそれらの勉強は非常に有意義だったのですが、エドゥアルト様にとってはそうでもなく、むしろ勉強が苦手なようで、度々怠け癖が顔を出しておられました。


 当時は婚約者の私への気遣いも信頼を築こうという姿勢も好ましいもので、怠け癖さえ直れば真面な方だと思っていたのですが・・・。



 結局殿下の怠け癖は悪化していき、揃って学院に入学した頃には、二人の間に学習の度合、質にもだいぶ差がついてしまいました。

 殿下につけられた側近の方々も散々お諫めしたのですが一向に直らず、段々と側近を辞退される方が出始め、今では3人しか残っていません。


 この頃には、私と殿下の差がコンプレックスになってきたようで、婚約者としての交流も、段々と等閑(なおざり)にされはじめました。


 生徒会などの、自分が目立てる活動だけは真面目にされていたのですが、以前はあまり顔を出さなかった傲慢な面も見え始めました。

 時折その傲慢さによりトラブルも起こし始め、私が事態を収拾する羽目にもなり、どうしたものかと思っていました。


 王妃様やお母様に相談しても、殿下を()()するのは私の役目だと言われますが、殿下はもう私の忠告には耳を貸しません。

 このままでは、殿下に振り回され、仕事を押し付けられるばかりの未来しか見えません。



 そうしているうちに最終学年になった頃、王族教育の一環として各領地の決算報告書を見ていたら、ある子爵領の決算報告書が目につきました。


 新規の特産物開発や、その流通先の開拓などが実を結び、現当主に交代して3年後くらいから、急速に伸び始めているのがわかります。

 しかも現当主はまだ若い女性のようです。


 そんな若い女性当主で、目覚ましい成果を挙げていらっしゃるお方が居ることに驚き、これはぜひお話を伺いたいと思いました。

 そこでお父様や学院長にも相談の上で、領地経営の実践についてご教授頂くため、件の領主の方をお招きすることになりました。

 それがリッペンクロック子爵家当主、イルムヒルト様でした。


 実績を考えて、若いといっても20歳代後半くらいの方を想像していたのですが、お会いしてみるとまさかの2歳下の15歳。1年生として学院に籍はありますが、当主実務の他にも事情があって学院には通っていないとの事です。

 見た目は珍しい群青色の髪の小柄で可愛らしい方で、とても辣腕の当主には見えません。


 彼女に父親は居らず、8歳の時に母親と祖父母を相次いで()()()亡くし、そこから当主として領地経営に奔走されていると聞き、衝撃を受けました。

 本人曰く「他に選択肢が無かったから」とのことですが、当主代理も代官も置かず、8歳から当主として領地経営を行って成果をあげていくのは、並大抵の事ではないのです。



 あ、そういえば殿下の側近ヨーゼフ様がお付き合いされている方って、メラニー・リッペンクロックと名乗っていらっしゃったはず。

 イルムヒルト様と縁のある方なのでしょうか。


 尋ねてみると、メラニー様はお父様と別の方の間で生まれた子供とのこと。お父様は亡くなったわけではなく、事情があってお母様と結婚後も同居せず、お父様ともメラニー様とも会ったことがないとのこと。


 お母様が先代当主だったということは、お父様は入り婿ってことね。

 でもメラニー様って私と同学年ではありませんでした?

 外で作った子供の方が2歳年上って・・・おっと。これ以上、憶測だけでご家庭の事情に立ち入るのは止めましょう。



 彼女に領地経営の実際をご教授頂くと、驚きばかりでした、

 自分の足で領地を回り領民の方々と話をして得た「地に足の着いた情報」と、商取引動向や国全体の動きなどの「大きな流れ」、それらをどう結び付けて領地に益をもたらすか、という内容で、イルムヒルト様が実際に御経験されたことを交えて教えて頂きました。


 思えば高位貴族の領地経営は、地域毎に置いた代官を通じた間接経営が一般的で、そこでは「いかに報告書から実態を読み取るか」が重視されます。

 王族教育でも「いかに大局的に物事を捉えるか」という視点が加わるくらいです。

 それはそれで、大事なのですが。


 侯爵家の場合は領地が広大で、自分で全て見て回って情報を得るのは現実的ではなく、下位貴族家だから出来るのかもしれません。

 それでも、自分の目で確かめた情報があると無いとでは、領地経営の実務の内容は大きく変わってくるでしょう。


 女性の身で頻繁に領地を視察して回るのは困難ではあります。馬車の運用もそうですし、女性の場合は特に護衛が多く必要でしょう。

 ただ、自分の目で確かめるという考えが抜け落ちていた私には目から鱗でした。


 どうしてそれだけの広い視野と情報網をお持ちなのかと伺うと、領地経営だけではなく、領地の事業を軌道に乗せるために商会を作ったり、市場調査などで王都に調査の手を伸ばしたりなど、色々手腕をお持ちのようです。

 それも全て、イルムヒルト様が当主になってから手掛けたとのこと。


 また、馬車で頻繁に領地を回ったり王都に度々出てくるのは大変では、と訊くと、馬車はあまり使わず、なんと自ら馬を駆られているそうで。日を跨ぐ場合は、護衛と共に野営も辞さないとのこと。流石にこれは女性だけでなく、普通の貴族領主でも早々真似できません。


 学院の成績も最上位の成績をあげ、王族教育でも王妃様から褒められたりして、私もそれなりに自負はありました。

 そんな私など、王都で天狗になっていたに過ぎない事を自覚させられました。


 自分の努力で駆け上っていらっしゃる彼女には、尊敬の念しか起こりません。

 私と彼女の差は、一体どこにあるのでしょうか。



 今後もご教授頂きたく、是非またお招きしたいと、文字通り伏してお願い申し上げました。


「そ、そんな、第二王子殿下の婚約者ともあろう方が、そこまでされなくても!」


 と大変恐縮していらっしゃいましたが、私にはそれくらいの方だと思います。

 イルムヒルト様には、再度のお招きを快諾頂いたばかりか同年代の御友人がいないため、是非友人になって頂きたいと仰られました。

 思ってもない申し出に余りに感激して、ちょっと泣いてしまいました。


アレクシア視点はもう少し続きます。

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