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06 殿下の愚行を暴露しました

 第二王子エドゥアルト殿下、側近の宰相子息ウェルナー様、そして先ほど復活したリッカルト様。


 3人に対峙するのは

 殿下の婚約者アレクシア様、

 ウェルナー様の婚約者、ラナクロフト侯爵令嬢クリスティーナ様、

 リッカルト様の婚約者、ウォルドルフ伯爵令嬢カロリーナ様。


 ちなみにアレクシア様とクリスティーナ様は卒業生、カロリーナ様は私と同じ1年生。

 3人とも、この1年で懇意にさせて頂きました。


 私は当事者ではないので、一歩下がって見守ります。



 代表してアレクシア様が話し始めます。


「メラニー様の件の調査ですとか、市井の方々から学ぶためとか、色々理由をつけて頻繁に王都へ出ておられましたね。

 最初は、メラニー様を元気づけようと王都に繰り出して息抜きさせるために出ておられたのは知っております。」


「そ、そうだ、メラニー嬢も落ち込んでいて息抜きは必要だったんだ。」


 弁解の口実を見つけた殿下は返しますが、アレクシア様達3人の目線は冷たいままです。


()()()、と言いました。

 そのうち、学院外で襲撃される事がないと気付いたヨーゼフ様とメラニー様は、王都に出た後はそのままお二人でお出掛けになってしまわれるようになったとか。度々王都にてデートに勤しむお二人の目撃談が聞こえてきまして。それはそれで、どうかとは思いましたが・・・。

 その時、殿下はどちらへ?」


「ちょ、調査とか、護衛だ。メラニー嬢が襲われる可能性もゼロではなかった。」


 殿下は悪足掻きをしますが、全部知った上でこの場を設けています。

 クリスティーナ様が発言します。


「・・・この1年、王都の()()()()()に、大男の護衛を連れた若い二人の青年が度々お見えになるとか。平民の身形(みなり)をしているそうですが、妙に服の仕立てが良くて貴族の子息がお忍びで来ているのでは、と。」


「・・・」


 殿下とウェルナー様は既に顔色が蒼白。リッカルト様は諦めた御様子。

 クリスティーナ様が続けます。


「普通、そのとある場所に若い方が来られることは少ないようですが、偶に若い方が居られる場合でも、少額のお小遣い程度の金額で遊ばれる事が多いそうです。

 でも、その護衛を連れたお二人連れは、大人顔負けの多額のお金をつぎ込んでいらっしゃるとのこと。」


 殿下とウェルナー様は蒼白のまま答えません。

 ここでアレクシア様が、1個目の爆弾を投入されます。


「殿下、ウェルナー様。市井の生活を学ぶと仰っておられましたが、その成果を教えて頂けますか。

 ――()()()で、一体何を学んだのかを。」


 若いうちから競馬場に入り浸るのは、仕事をしない放蕩者と見られる行為です。殿下とウェルナー様の二人に会場中から冷ややかな視線が浴びせられます。


「・・・そ、それは誰かが、私達の振りをしていたのだ!陰謀だ!」


 殿下が下手な言い逃れを始めます。

 でも私は殿下のようなヘマはしませんわ。私が後ろから援護射撃します。


「その方々、最近『現場』でヨアヒムという商人の令息と親しいそうで。

 ――実はあの方、うちの手の者ですの。」


「!!!!」


 心当たりのある殿下とウェルナー様の顔は引き攣っています。


「競馬場に出没する時は、その方々は変装していますが、殿下とウェルナー様、護衛のリッカルト様で間違いない、とヨアヒムからは報告を受けてますわ。

 リッカルト様は護衛ですから、その様な遊びをしていないことは把握しております。護衛は仕事ですからね。」


 リッカルト様は頷きます。

 でも、それが却って殿下が遊んでいた事の裏付けになるのです。

 カロリーナ様が発言します。


「リッカルト様、今頷いたということは、お二人がそのような場所に行っていたと認めるという事ですわね。」

「!!!・・・はい。」


 リッカルト様は項垂れ、殿下とウェルナー様はリッカルト様を睨みますが、今更ですよ。

 アレクシア様が発言を続けます。


「だいぶ競馬場で()()されたそうですが、殿下もウェルナー様も相当の資産家でいらっしゃるのですね。王族の使用するお金は全て予算化されているはずなのですが、競馬場で散財するお金が予算化されているとは聞いたこともございません。

 一体、そのお金の出所はどこなのでしょうかね。」


 王族の使うお金は、元は税金です。

 国の運営のためとして、国政を司る各々の役所と同様に予算があり、その予算内で、決められた用途でしか使えません。

 目的外使用されないよう、用途を厳しくチェックされるので、王族の方が自由に使えるお金はほとんど無いのです。

 ここから、アレクシア様がもう1つの爆弾を投下し始めます。


「この1年、殿下はご自分の予算で婚約者向けにプレゼントを購入された金額が少々、()()()()()()金額になっているそうで。請求書が大量に送られてくると伺いました。


 ですから、王族の方々の予算を監督している宮内省の財務部から私がお叱りをいただいてしまいましたわ。

 殿下にあまり高価なプレゼントをおねだりしないでくれ、ですって。

 

 ですけどこの1年、殿下からは手紙1枚貰っていませんわね。

 その、お買いになったという贈り物は、いったい何処に消えているのでしょう。」


 ウェルナー様も目を逸らしていますが、他人事ではありませんよ。

 クリスティーナ様が続けます。


「あら、私も宰相閣下と、ウェルナー様のお兄様から同じことでお叱りを受けましたわ。あまりの購入額の多さにお二人がご本人に訊いたら、私がどうしても、とおねだりしたことになっていて。余りに多額のプレゼントをねだるようなら、私に請求しますよって。

 私、吃驚して、正直にお答え致しましたの。

 ウェルナー様からこの1年で頂いたものといえば、毎月のお茶会で御自宅のお庭から花を少々お持ちになるくらいですわね、と。」


 殿下とウェルナー様は引き攣り、顔を蒼白にしたまま、何も話せません。


 最初にこの話だけ聞けば、二人が婚約者を蔑ろにして誰かに貢いでいるかのように聞こえます。最初はアレクシア様もそう考えたようですし。

 でも、競馬場での散財の話と結びつけると、また違ったものが見えます。


 話を結びつける、最後の爆弾がこれから投入されます。

 あ、とカロリーナ様が今気づいた風に声を上げます。


「そういえば、子爵家や男爵家の貴族令嬢の方々は、そう何着もドレスや装飾品を買えないので、質流れ品から出物を探すこともある、と聞いたことがありますわ。

 それが最近、質流れ品の中に、明らかに高位貴族から流れたと見られる高級装飾品を数多く見かけるそうですの。」


 アレクシア様が続けます。


「そうそう、余りに高級な品が質に大量に流れているようだから、調査として一度見てきて欲しいと父に頼まれまして。クリスティーナ様とご一緒しましたの。

 見ればとても質の高い品々の装飾品が多かったですわ。

 既製品とは思えない素晴らしい出来栄えの品々で、オーダーメイド品が流されていると思いましたわ。」


 クリスティーナ様が続けます。


「ええ、そうでしたわね。でも不思議に思いましたの。

 高位の貴族家が何らかのトラブルに遭って、資金繰りが怪しくなった時には、その貴族家が所持する宝飾品が多数市場に流れることがあると聞きます。

 でも、そんな資金繰りの怪しくなった家の話、最近社交の場で噂に上ったことはありませんでしょう。」


 会場のあちこちから、あれは不思議だった・・・等と聞こえます。大量の宝飾品の質流れは結構な噂になっていたようですね。


「こ、高位貴族なら、資金繰りの悪化は醜聞だから、こっそり売った家がどこかあるんじゃないか?」


 ウェルナー様、言い逃れしていますが表情が誤魔化し切れてません。

 カロリーナ様が続けます。


「もし高位貴族が資金繰りのために資産を放出したのでしたら、宝飾品の付いたドレスなども大量に買取に出されてもおかしくありませんわ。

 でも衣装は、高位の方は大抵オーダーメイドですので、そのまま質に出すと誰が流したかわかってしまいます。ですので、衣装の場合は素材に分けられてから、業者の間でオークションに掛けられるそうですわ。

 そうなると、買い取られる金額は素材分なので、装飾品ほどの金額にはならないそうですね。


 それでも資金繰りに困れば売るのでしょうけど、量が多いと出回る量が需要を上回って、高級素材の取引相場が下がってしまうそうですわ。相場が下がったという話も聞きませんので、衣装の方は装飾品ほど数が出されていないようですわ。


 となると・・・衣装より手早くお金になりそうな装飾品を狙って流しているみたいですわね。」


 また会場の皆様が騒がしくなります。

 ドレスの値段も下がってないし・・・という声も聞こえます。いくら高位貴族の方でも、予算はありますから相場は気にするでしょう。


 クリスティーナ様が後を続けます。


「そもそも、そういう資金繰りの怪しくなった高位貴族が宝飾品を売りに出す場合、大抵は意匠が古かったりして、価格が抑えめになるでしょう。

 ところが、最近出回っているのは、オーダーメイド品でも 王都で()()()()()意匠が施されたものばかりですわ。

 見る人が見ればどの店の品物かわかるどころか、販売店の担当者が見れば いつ誰に販売したものかすぐわかるくらい最近の品物だそうで。いくら資金繰りに困っても、買ってすぐ質に流すなんてね。

 あ、流した人は足がつかないつもりだったのかしら。当然、そんな代物が売りに出されたら、誰がそんな真似をしたのかすぐにわかりますし、店は販売した相手に苦情を出すでしょう?」


「え・・・」


 殿下とウェルナー様が驚きます。

 こんな杜撰なやり方、バレないと思っていました?


 カロリーナ様が話を繋げます。


()()()()()()()()()()だと、購入の際にはいずれの場合も若い男性が二人連れで店を訪れたそうですわ。それぞれが、婚約者への贈り物として最初は既製品の装飾品を購入しようとされたそうなの。

 お店の方は、それぞれの方の婚約者様をよくご存じだったそうで、お立場を考えますと、既製品では色々不都合がおありでしょうと、店の方からオーダーメイド品を提案したそうね。」


 高位の貴族ほど、婚約者を既製品で飾っていると、それだけ家に力が無いと侮られてしまいます。


「それに高位の方々はお若くても御忙しい方が多いですから、メッセージカードを代筆して添付し、華やかな包装をして御婚約者の方にお送りするまでが、販売店側のサービスですね。

 でも不思議なのは、彼らのオーダーは包装の指定も最低限でカードもいらない、しかも毎回店まで受取に来たそうよ。高位の方が婚約者に渡すものですから、幾ら手渡しでも、品物の格に相応しい包装は普通致しますし、カードも毎回不要というのは変だと、店側も思ったそうね。」


 殿下とウェルナー様は既に土気色です。

 アレクシア様が続けます。


「そうそう、そういった経緯で購入された品物が、かなりの割合で質に流されたそうで。お店の方は、偽者に騙されてしまったと思った所もあったそうですわ。

 

 でもそういうお店ですと、契約が無いお店で買う場合は貴族であっても、高級品になればなる程、即金でお支払いが前提になりますでしょう。店とお客様の間の信用の問題ですもの。 

 被害にあったお店は、その方々の家と契約のあった店だそうで、契約に基づく符丁も正しく交わされていたそうよ。ですので、偽者の線は置いておいて、まずはその購入された方々の家に問い合わせをしよう、となったそうですわ。

 販売店としてはかなりお怒りだったそうなのですが、なにせお相手が高位のお家の方々だったそうで、お怒りを前面に出すこともできず、ただご事情を説明差し上げて、釘を刺して頂くようやんわりお願いするのが精一杯だったそうね。

 それを聞かされたお家の方々は どちらも大変驚いて、事情確認と再発防止を約束して、販売店の方々に平身低頭、謝罪されたそうよ。」


 アレクシア様が一呼吸おいて、締めくくる。


「つまり、その方々のご家族も、事情は()()把握しておられます。殿下、ウェルナー様。状況はおわかり?」



 パーティーはその後すぐに王太子殿下が登壇し、卒業パーティーは近いうちに改めて開く旨を伝え、解散を宣言されました。裏で成り行きを見ていたのでしょう。

 王太子殿下が退出されて、ふと気づくと、大勢の貴族の方が私の方へ来ます。


 うわああ・・・!


 殿下のせいでかなり目立ってしまいましたし、子爵家当主であることも明らかになってしまいました。そんな私に挨拶と、顔つなぎをしようとしている方々が多いのでしょう。

 小娘と見て与しやすいと思っている方も割と居そうです。


 でも、私はもう、今日は打ち止めです。

 『あの男』、リーベル伯が拘束された安堵感と達成感はありますが、それ以上に『アレ』が居る王宮に来ること自体、私を消耗させます。


 皆様の前で退出する旨を告げ、逃げるように大広間を後にし、宿について、侍女たちにソファーで一息つくよう促されてから――


 ――翌日の昼にベッドで目覚めるまで、その間のことは、何も覚えていません。


アレクシア達が説明的に喋っているのは、どういう背景があって、どんな影響が

出ているか、殿下達にはここまで言わないと因果関係がわからないだろう、と

思っているからです。


主人公の目下の問題は片付く目処が立ちましたが

『アレ』とかは影も出てないので、話はまだまだこれからです。

引き続き宜しくお願いします。

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王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

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