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Epilogue ある暖かな春の日 ※(マリウス視点)

本日は二話同時投稿です。

前話をご覧になっていない方は、前話からどうぞ。

「うわー! きれーい!」


 娘エルヴィーラの3歳の誕生日。暖かい春の日差しの中、私達は領都の西の方、炭焼き小屋近くの草原にやって来た。

 ここは丁度今の季節、白いネモフィラの小さい花が沢山咲き誇っている。イルミの母君、亡きヘルミーナ様が、小さい頃大好きだったという場所だ。

 娘は大はしゃぎで、青い髪を靡かせながら花の絨毯の中を駆け回っている。


「エル、足元には気をつけなさいね!」


「うん、わかった! おかーたま!」


 娘はまだ舌足らずだが、イルミに元気よく返事を返す。

 私の隣で、イルミは生まれて数か月の息子ユストゥスを抱きながら、エルヴィーラが楽しそうに駆け回る姿を嬉しそうに眺めている。




 アレ・・・前王ヴィルフリートは、ヴェンツェル新国王の戴冠式の半年後に病死と発表された。この時以降、イルミとアレの話をする事は無い。

 

 イルミに婚約を申し出ていた幾つかの侯爵家・・・ラックバーン辺境侯爵家やコルルッツ侯爵家、リッテルシュタッツ侯爵家には、各家の事情を調べた上でアイディアを提供しアドバイスを令息達に伝える事で、それを元に各家の財政を立て直した各家からの信頼と、婚約に対する支持を逆に得る事ができた。

 アイディアを練る際に父や姉上のサポートを得たが、なるべくイルミに頼らずにやり遂げた事で、イルミからの信頼がかなり増したのを感じた。

 

 そうして、学院卒業後に父がイルミに意思を再確認した際、イルミから私との婚約継続を逆にお願いされた。その場で私はイルミにプロポーズし・・・学院卒業後半年経った頃に、彼女と結婚式を挙げた。

 結婚により婿入りし、マリウス・リッペンクロックという名前になった後、私は子爵領に入り、子爵領の事を覚えつつ、彼女の領主業務を補佐している。


 ちなみに姉上は私達より前に、父上の最先任補佐官アッシュと結婚した。アッシュ殿は姉上の8歳上で、父によって優秀さを認められ補佐官に抜擢された後、父の前任の長官の法衣侯爵家に養子に入った。

 アッシュ殿は年齢的にはもうとっくに結婚していたものと思っていたが、平民出身の為に婚約者もなかなか現れなかったらしい。

 そして姉上は本格的に侯爵家を継ぐ決意を固め、侯爵家の領地に帰り、母上や叔父上から色々学んでいる所らしい。

 ただ、旧リーベル伯領の一部が父上に下賜された為・・・。



「お母様。私も遊んできていい?」


「ええ、行ってらっしゃい。エルちゃんの事もちゃんと見てるのよ?」


「わかった、行ってくるね! わーい!」


 その飛び地の視察に来る度に、姉上は子爵領に遊びに来る。今日は4歳になる姪アマーリアも一緒だ。姉上の許可を得たアマーリアも花絨毯へ駆けていく。

 見ている内に、イルミの腕の中で眠っていたユストゥスがぐずり出した。傍で控えていた乳母のロッティがスッと出てきて、ユストゥスを預かって馬車の方へ向かう。


 ロッティは領政補佐のオイゲンの子息オリヴァーと共にイルミの従者を務めていて、いつしかオリヴァーと恋仲になっていたらしいが、アレの事が片付いてから漸く結婚したそうだ。

 自分のせいで結婚を遅らせてしまったとイルミは二人に謝ったが、二人はアレの事が片付いて良かったと喜んだらしい。彼女は今は3人目の子供と共にユストゥスの面倒を見てくれている。


 そして、息子ユストゥス。

 以前、ヴァルトフォーゲル女大公殿下が懸念してイルミに話したらしい事が、息子ユストゥスに現れてしまった。

 ユストゥスは、金髪碧眼・・・王家の血筋によく現れる外見的特徴をもって生まれて来た。

 王族に生まれた女性が嫁入りした高位貴族家に、時々現れることらしいけど・・・子爵家にこれが現れてしまうと、色々と面倒な事になる。


 どのように対処するか、女大公殿下と手紙をやり取りして協議している。今の所は、王家の遠い血筋が子爵家と侯爵家の両方に混ざっているため、突然変異的に現れた、と言う話にしようか、と検討している所だ。



 花絨毯の方に目を向けると、アマーリアとエルヴィーラはしばらく二人で駆け回ったあと、走るのを止めてしゃがみ込んだ。


「ねー、エル。 一緒にかんむり、つくらない?」


「うん! ちゅくりかた、おしえてくれりゅ?」


 どうやら二人で花冠をつくってみることにしたらしい。



「ごめん、マリュー。・・・ちょっと背中、貸して。」


 そう言ってイルミは私の背中に抱き着き、地面に敷いた敷物の上に座る私の背に顔を押し付けて来る。

 どうやらイルミは、以前老侯爵から聞いた、母君ヘルミーナ様の幼い頃の話・・・この花絨毯を駆け回り、花冠を作って遊んでいた話を思い出して感極まったらしい。嗚咽と共に、背中が静かに濡れていくのを感じる。

 そして姉上は、そんな私達を微笑ましそうに見ていた。



 もう、イルミや家族の事を脅かす者達は居ない。

 こんな平穏な日々が続けばよいな・・・背中の温かさと、娘たちの楽しそうに遊ぶ光景を見ながら、そう思った。



―― Fin ――



本筋としてはここで終わりです。


話の本筋でない事で削った話が幾つかあるので

補遺(Appendix)として追加していくかも。


評価を付けて頂ければ、次回作を書く際の励みになります。

画面下の☆をクリックして頂ければ有難いです。


お読み頂きありがとうございました。

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王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

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― 新着の感想 ―
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[良い点] 素晴らしいお話でした。人間の執着心は本当に恐ろしいもので、色んな人達の人生を狂わせ不幸にしてしまうものです。権力を持つモノであれば、このお話のようにとんでもない災厄となり多数の人々を絶望と…
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