表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/61

54 事件の後始末が進みました

 翌々日、王太子殿下の召喚状に従い再び王宮に行きました。

 今回は内密の話という事で、マリウス様を伴わず私一人で来て欲しいとの事です。王宮に到着すると、殿下付きの侍従達が別の場所へ向かって私を案内します。これはひょっとして、また文書保管室に向かっている?

 ということは、余程の内密の話をする事になりそうですね。


 果たして、文書保管室の奥まで案内され、一番奥の扉を侍従がノックします。

 扉の中にいたのは王太子殿下と、フォルクマン老侯爵、そして扉を閉めたのはツィツィーリエ殿下です。


 ツィツィーリエ殿下は私に席を勧め、私が着席後に王太子殿下の右側の席に座ります。殿下は私の向かい側、老侯爵は殿下の左側に座っています。


「子爵、呼び立てて済まない。

 本日は捜査状況の共有と、一つ、子爵に内密の話がある。」


 私は念のため、王太子殿下に質問します。


「一つだけ確認させて頂けませんでしょうか。

 ・・・今回は文書棚の奥にどなたも居られませんよね?」


「・・・子爵にはお見通しだったか。

 機密情報なのでどこに扉があるかは言えないが、今回は誰も隠しては居ない。」


 ・・・多分、殿下の背後側だと思いますが、敢えて言いません。

 ここは殿下を信用しましょう。頷いて話を促します。


 殿下からは、まず捜査状況が共有されました。

 《梟》の後継者ルノー君の協力のもとでプレトリウス奉仕会に調査に入り、裏帳簿を提出させたそうです。確認すると、アレや宰相、軍務省長官、リーベル伯爵だけではなく、他に数人のアレの側近達が裏金をプールしている事が記載されていたそうです。

 それを王都に持ち帰り、アレが謹慎した事も併せて伝えると、リーベル伯はとうとう観念して白状し始めたそうです。その内容は概ね、私がアレに詰め寄った話で間違い無いとの事でした。

 そして持ち帰った裏帳簿を元に、元宰相や元軍務省長官、新たに拘束したアレの元側近達の追及を始め、彼等は少しずつ供述を始めている様です。


 《梟》については子爵邸を襲撃したメンバーの処罰は必要ですが、殿下はルノー君を臣従させて、残党を王家の影の組織に組み込もうと考えている様です。これについては、老侯爵が影の組織を統括しているようで、処分含め老侯爵および後継者へ一任するそうです。

 ルノー君が私への謝罪をしたいと申し出ているそうですが、既にゲオルグ・・・ジョルジュを討ち果たした今、《梟》への恨みはもう無く、会う必要を感じません。

 彼等には、王家に仕え、()()()()()()()()()()()国の為に働いてくれればそれで良い。そう、ルノー君に伝えて貰うようお願いしました。


 ドロテーア様の件は殿下から謝罪されました。ドロテーア様付きの侍従達を尋問したら、最後の手段として私達を監禁して言う事を聞かせる積りだったようです。侍従達は、そこまで事が及ぶと王太子殿下やツィツィーリエ殿下へ御連絡する積りだったと供述している様ですが、本当の所は分かりません。



 最後に殿下から話されたのは、今回の事件の決着についてです。


 王太子殿下からは、流石にアレの所業を公にすることは出来ない。と言われました。そこで殿下から提示された筋書きは・・・リーベル伯は実行犯であり、伯の裏で商会の解体と利益分配を目論んでいたのは宰相と軍務省長官、他の側近はその協力者だった。そんな内容でした。

 アレの所業や、《梟》の存在を表に出せない以上、こういう筋書きになるのは仕方ありません。


 だが、と王太子殿下は続けます。


「万人に納得させる筋書きはこれしかないだろう、だが――何より、君の母君や、君自身が納得できるだろうか。

 そう思った私達は、貴女達への王家の謝罪として・・・2つの選択肢を考えた。」


 そうして殿下は沈痛な面持ちで、その2つの選択肢と、その前提条件を私に提示しました。


「これでしか、貴女やお母様への謝罪にはならないと思ったの。

 どちらであっても、私達にとって結果は変わらない。後は、貴女がどうしたいか・・・。どちらを選んでも構わないわ。」


 ツィツィーリエ殿下が王太子殿下の後を受けて発言します。

 選択肢もそうですが・・・その前提条件無しでは、私の母は浮かばれず、私の王家への信頼は得られない。御二方はそう考えたのだと思います。王太子殿下の表情は固く、沈痛で・・・両手は白くなるまで固く握られています。横を見るとツィツィーリエ殿下も同様です。

 この方々は内心の葛藤を押し殺し、王たるべき、王族たるべきとされているのでしょう。


 この時初めて――この御二方なら、王族として信頼しても良いのではないか。そう私は思いました。

 そして、私が選んだ選択肢は――。




 2日後、王太子殿下は王宮の大広間に、全貴族家の代表を集めました。

 学院の卒業パーティーが開かれたこの場所が、今度大人の貴族達で溢れかえっています。

 私はあの時とは違い、こそこそ隠れている必要が無くなりました。私はマリウス様を婚約者として伴い王宮へやって来ました。


 やがて、王太子殿下とツィツィーリエ殿下が壇上に現れます。王太子殿下はまだ最上位の二段下・・・パーティーの時と同じ登壇位置。ツィツィーリエ殿下はその一段下です。


 ここで殿下達は、まずリーベル伯爵の子爵家乗っ取りの事件について発表します。先日殿下達と打ち合わせた通り、リーベル伯が実行犯、主犯が宰相と軍務省長官と判明し、関連する上級貴族も数名拘束した事。まだ罪状を精査中のため、処分内容は後日発表する、という事でした。


 次に第二王子殿下の正式な処分として、辺境で兵役に5年間就くことが発表されました。赴任先はドロテーア様の御実家バッケスホーフ辺境侯領ではなく、現在紛争の多いラックバーン辺境侯領だそうです。5年間の兵役後のエドゥアルト殿下の扱いは、別途定めるとされました。


 最後に、国王ヴィルフリートが病に倒れた、と殿下は発表しました。ここで会場内に大きなどよめきが起きます。国王陛下は継続して国政に携わることは難しく、早急に王位継承に向けて準備を行い、戴冠式については3か月後に行う予定である事を告げます。

リーベル伯の件で拘束された面々が国王の側近達の為、国王が関与していたのではないか、との憶測が貴族達の中で流れている事が。周囲の話し声から窺えました。



「王太子殿下、万歳!」

「万歳!」

「万歳!」


 誰かの掛け声に合わせて、王太子殿下を称える声が広がります。やがてその声は会場中に広がっていきました。私自身は称える声は上げませんでしたが、周りに合わせて殿下への拍手を送りました。



 後日、ツィツィーリエ殿下からお茶会の招待状が届き、パウリーネ様やアレクシア様、マリウス様と共に王宮に上りました。

 殿下からはドロテーア様の前回のお茶会の事についての正式な謝罪を受け、皆はそれで水に流すことにしました。その後は和やかにお茶会が進みましたが、お茶会後に殿下に内密に呼ばれました。


「イルムヒルト様、今お話しする事ではないかも知れないのですが、知っておいた方が良いと思いまして。実は――。」


「・・・ええっ!」


 ツィツィーリエ殿下から聞いた話は、私もすっかり考えの外にあった事で・・・いざ()()()()()()になったら、確かに何かしらの対応策を考えないといけません。しかも、私一人では対処できないでしょう。

 とはいえ大分先の話になりそうですが・・・。

 その場合は内密に連絡をするよう言われ、一も二も無く了承しました。


―――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇―――


 王太子殿下が発表を行って1か月後、事件の結果と処分が発表されました。


 主だった所だと、前宰相デュッセルベルク侯爵、前軍務省長官バルヒェット法衣侯爵、リーベル伯爵エッグバルトは、いずれも爵位剥奪の上で斬首刑。

 彼らの一族や、他に関与のあったアレの側近達など、多数の者が貴族籍剥奪の上、罪状により斬首や、流刑、労役刑などが追加で科せられました。ちなみにエーベルトと妻アレイダは、共に20年の労役となっています。メラニー様の名前は有りません。


 爵位剥奪により没収された彼らの資産の中には歴史的・文化的価値のある資産があり、それは王家で引き取ることになりましたが、他の不動産を除く実物資産は全て現金化して、子爵家や、アレクシア様の件でのバーデンフェルト侯爵家への補償に充てられる事になりました。

 デュッセルベルク侯爵領とリーベル伯爵領は一旦王家直轄領となります。恐らく侯爵領の方は王都に近い事もあり、ツィツィーリエ殿下が女大公に就任する際に与えられる事になるでしょう。リーベル伯爵領はその内功績を挙げた貴族家に分け与えられる事になると予想されます。



 そして事件の後始末として・・・三人の処刑が執行されます。

 王太子殿下からは、立ち合いは別にしなくて良いと言われたのですが・・・事件の当事者として、また私の中で一連の事に区切りを付けたいので、立ち合いを希望しました。


 斬首刑の場合、見せしめと大衆の娯楽として民衆の前で行われた時代もあったようですが、今は王宮の奥にある刑場でひっそりと行われます。今回は特に、彼らに()()()()を喚き散らされ、それが大勢の耳に入っても困るので、ごく限られた関係者だけで立ち合う事になりました。


 三人が刑場に引っ立てられて来ました。案の定、私を目敏く見つけては口汚く罵って来ます。当然ながらアレが母にした事まで(あげつら)ってきますが・・・ここで立ち合うのはそれを知る者達――王太子殿下、ツィツィーリエ殿下、フォルクマン老侯爵、そして私だけです。


 そうして、彼らが断頭台の露に消えるまで――私はただ黙って、彼等を見届けました。



いつもお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

PTRX-18.jpg

― 新着の感想 ―
[良い点]  ようやくゴミ掃除が一段落。  クズはやっぱり最後までクズだったか。  まー貴族か人としての矜持があればアレの取り巻きなんぞやらないよな。   [気になる点]  「選択肢」と「その事態」。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ