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53 王宮内のお茶会にお呼ばれされました (後)

 私達がお茶会を辞しようとした所を慌てて制止したドロテーア様は、こほん、と咳をして一息つき、()()()()()を話し出します。


「・・・折角御二人が謝罪を受け入れて下さったのです。アレクシア様、今までの事は水に流して、エドゥアルトとの縁をもう一度結んで下さらない?」


 やはり、ドロテーア様の目的は思った通りの様です。

 アレクシア様がドロテーア様の方を見つめて発言します。


「王妃様。殿下に先程謝罪頂いた以上の事・・・正確には聞かされておりませんが、父の様子からある程度推察できます。先ほど殿下は、その事についても謝罪しようとされていた様ですが、王妃様がそれをお止めになったのは何故でしょうか?」


「そ、それは・・・。」


「殿下が装飾品を売って得たであろう金額と、競馬場で散財した金額が全く合わないのです。残りをどこで使ったか・・・父が私に言えない場所など限られます。まして父は王家との交渉に際し、()()()()()()があると言っていました。

 それが何なのか・・・聞かずともなんとなく分かります。」


 殿下の顔色は蒼白になり「まさか・・・エッダが?」と呟いています。それは私が侯爵様に提供した()()・・・色町で殿下が懇意にしていた方ですね。今まで殿下には知らされていなかったのでしょう。

 ドロテーア様も蒼白になっていますが、アレクシア様は続けます。


「そもそも、先の婚約白紙に伴う王家と侯爵家の間の賠償交渉は済んでおりません。それを差し置いて、肝心な事を私に隠してこの様な場を設けられる王妃様には、信用が置けません。お断りさせて頂きます。」


 アレクシア様の拒絶に鼻白みましたが、ドロテーア様は直ぐに立ち直って私の方を向きます。



「・・・そ、それじゃあイルムヒルト様はどう? 殿下との縁を結んで下さらない? 今はアレクシア様の弟さんと婚約されていると伺っているわ。でも王家との縁を結べる機会よ?」


 厚かましくもドロテーア様は矛先を私に向けてきます。


「王家との縁? 冗談じゃありません。そんな物願い下げです。

 だいたい、ドロテーア様の魂胆は見え透いているのですよ。

 ヴィルフリート国王・・・いえ、アレは近衛騎士団の支持を失って、王太子殿下の命令で謹慎中ですよね? 全貴族家に招集を掛けて、殿下は王位の交代を宣言される筈です。

 このままだとアレの蟄居に伴って、ドロテーア様は王宮を追い出されるでしょうね、立場を失いそうなドロテーア様は、さぞ焦ったのではありませんか?」


「な、何で貴女如きがそんな事を知ってるの・・・!」


 それには答えず、先にドロテーア様の魂胆を暴露しましょう。エドゥアルト殿下はアレの謹慎すら知らなかったようで、驚きの表情をしています。


「何とか王宮での立場を作りたいのでしょうが、頼みの綱の殿下は醜聞のせいで、新たな婚約者は見つかりません。

 困った貴女は、殿下とアレクシア様とを復縁、それが無理でも商会を成功させた私と縁を結ばせて、王子妃教育にかこつけて王宮に残ろうと画策したのでしょう?

 殿下が結婚すれば流石に王宮に残れませんから、その時は殿下にくっついて婚家に()()しながら、悠々自適の生活をしようと?」


「ご、誤解よ・・・」 


 ドロテーア様は弁解しようとしますが、表情は悔しそうです。

 

「私がアレの謹慎を知っているのは、王太子殿下がアレを断罪した場に同席したからですよ。

 そもそも謹慎の理由は、私の母に対するアレの所業だとか、子爵領乗っ取りを仕掛けたリーベル伯の背後でアレが色々暗躍していた事が発覚したからです。」


「え・・・ヴィルフリートの、所業?」


 謹慎の理由までは、詳しく聞かされていませんでしたか。


「事の発端は20年前。母が学院に入学した後・・・当時の王太子ヴィルフリート殿下が母に言い寄って、体の関係を迫った事です。

 あの時王太子の婚約者だったドロテーア様は、王太子を諫めるどころか、母の事を売女だ娼婦だと罵り、学院から排除しようと取巻きを使って母を責め苛んだ。」


「そ、そんな昔の話をされても憶えてませんわ・・・。」


「あの時ドロテーア様が、王太子を諫めて止めて下さっていれば、その後アレが図に乗って()()()()()を出さずに済んだかも知れません。

 ですが当時、貴女が結果的に、王太子に加担する形で母を学院内で孤立させた事は、私としても許せません。」


 アレを諫める事を怠ったことが、その後のアレの所業に繋がったと思えば、ドロテーア様を許す事などできません。だから私はアレクシア様と違い、彼女を王妃様と敬えないのです。


「更なる、被害ですって・・・?」


 恐らく、ドロテーア様はアレの失脚の顛末を聞いていないのでしょう。

 私はその後に何が起きたか・・・母の結婚式後の初夜にアレが割り込んで母を二日間も苛んだ事。8年前も母がアレの元に誘拐されそうになり、結果殺された事。これらを暴露します。

 ドロテーア様とエドゥアルト殿下は二人共蒼白になります。


「そ、そんな・・・それじゃあ貴女は・・・!」


「そんな、アレに散々母を苦しめられた私が、王家と縁を結ぶ?

 どの口がそれを言いますか!」


 私はドロテーア様を睨みつけながら言い放ちます。ドロテーア様は苦々しい顔をされます。


「それじゃあ、妾の子と言ったことを謝罪しろ、と君が言ったのは・・・。」


「母はアレに言い寄られた時もずっと断り続けました。それなのに・・・薬で眠らせ四肢を拘束した上で、アレは母を無理矢理辱めたのです。

 殿下はそんな積りで言ったのではない事は分かっています。ですが・・・ですが、そんな目に遭った母を、妾であるかのように言われて怒らない筈がありますか!」


「・・・確かに、君の言う通りだ。

 そのような積りではなかったとは言え、君と母君の名誉を深く傷つける発言をしてしまった。申し訳なかった。」


 私が怒っていた本当の理由を知ったエドゥアルト殿下は、深く頭を下げ、膝をついて謝罪します。


「エドゥアルト!」

「義母上! こんな所で何をしているのです!」


 そんな王族らしくない謝罪をする殿下を咎めるドロテーア様の声に重なって、別の女性の声が私達の後ろから聞こえます。

 振り返ると、金髪碧眼と王家の特徴を兼ね備えた女性が近衛騎士達と歩いて来ます。


「ツィツィーリエ! 貴女には関係の無い事です。」


「謹慎中のエドゥアルトを勝手に連れだして何を言っているのです。

 どうせ、リッペンクロック子爵かアレクシア嬢をエドゥアルトと縁づかせて、王宮に留まろうと画策していたのでしょう。ですがそんなことはさせません。

 義母上にも謹慎して頂きます。」


 女性はツィツィーリエ第二王女殿下・・・やはり王太子殿下の妹君でしたか。ツィツィーリエ殿下はドロテーア様に謹慎を申し渡します。


「貴女にはそんな権限無いでしょう!」


「いえ、兄上・・・次期国王陛下から権限を頂いていますよ。」


 そう言ってツィツィーリエ殿下は、2枚の命令書を見せます。1枚はツィツィーリエ殿下をヴァルトフォーゲル女大公に叙する事、もう1枚はドロテーア様への謹慎の申し渡しです。謹慎命令書の遂行責任者に、女大公の名が記されています。


「義母上には兄上の御命令により、当面自室で謹慎して頂きます。・・・二人を連れて行きなさい。」


 近衛騎士達が二人を拘束します。ドロテーア様は抵抗しながら、エドゥアルト殿下は大人しく、それぞれ別の方向に連れて行かれます。




 二人が充分に離れた後、私はアレクシア様の車椅子を動かしツィツィーリエ殿下の方へ向け、二人で殿下に礼をします。


「楽にして良い。貴女達が義母上に茶会に招かれた事はパウリーネ殿とマリウス殿から聞いた。慌てて兄に連絡を取ったら、兄が直ぐに命令書を発行してくれたよ。あのまま貴女達が断っていたら、義母上に監禁されていたかも知れないしね。」


 パウリーネ様とマリウス様に来てもらったのは、ドロテーア様への牽制と、何かあった時の王太子殿下への連絡の為でした。でも王太子殿下はお忙しいので、ツィツィーリエ殿下に連絡したのはパウリーネ様の機転でしょう。


「有難うございます、女大公殿下。」


 アレクシア様がお礼をしますが、女大公殿下は首を振ります。


「そんな他人行儀はよしてくれ、アレクシア嬢。以前の様に名前で呼んでくれると嬉しい。子爵も名前で呼んでくれたら有難いが・・・父の事で王家への不信感があるだろうな。」


「ではお言葉に甘えて、以前の様に呼ばせて頂きます、ツィツィーリエ様。」

「助けて頂き有難うございました、ツィツィーリエ様。」


 初めて殿下・・・女大公殿下にお会いしますが、アレクシア様との距離の近さや口調からして、かなり気さくな人柄を感じます。


「二人はこのまま王宮の外まで近衛に送らせよう。パウリーネ殿とマリウス殿も途中で合流してもらう。

 あと兄が王位を継承する事と、私が女大公に叙された事はまだ内密にして欲しい。本当は両方とも同時に発表する事になっていたんだ。」


 アレクシア様も私も頷いて、口外しない事を了承します。


「アレクシア嬢も子爵も、後日改めて私からお茶会に招待したい。義母上の様に貴女達二人だけこっそり呼んで、何かをお願いする訳では無い。改めて王家からの謝罪だと思ってくれ。

 その際にはパウリーネ殿やマリウス殿も招待する積りだ。特に子爵には、父の事で多大な迷惑を掛けているしね。」


「そういう事でしたら、是非お伺いさせて頂きます。」

「ツィツィーリエ様の御招待、有難くお受けします。」


 私とアレクシア様は了承します。


 その後近衛達に連れられた私達は、ツィツィーリエ様に見送られ王宮を後にしました。



 馬車の中で、今回の顛末をパウリーネ様とマリウス様に報告します。


「パウリーネ様、有難うございました。

 お陰で無事、ドロテーア様の元を去る事が出来ました。」


「二人が無事で良かったわ。偶々王太子殿下の執務室近くをツィツィーリエ殿下が歩いておられたのが幸いしたわね。」

「王太子殿下に連絡が取れなくてどうしようかと思ったよ。」


 ツィツィーリエ殿下からお茶会の招待が後日御二人に届くだろう事を告げると驚かれていました。


「それ、大丈夫なの?」


「殿下からは、今回の事に対する王家の謝罪の為と伺っています。私の事は別途王太子殿下から正式に謝罪があると思いますから、あくまで今回のドロテーア様の件だと思いますよ。」


「子爵とアレクシアだけではなくて、私とマリウスも招待されているなら、今日みたいなことにはならないでしょうね。」


 正式に招待状が届けば、皆で一緒に行こうという事になりました。



 今回の事で漸く、私のドロテーア様への(わだかま)りに一区切りつけられました。

 ドロテーア様からは謝罪されていませんが、その分何らかの報いは受けて頂くことになるでしょう。それで留飲を下げる事が出来るといいのですが。もし不十分なら、私の王家への信頼が損なわれたままになるだけです。

 その事は、明後日の王太子殿下との面会で伺いましょう。

 

 ドロテーア様が謹慎となった事で、喫緊の脅威が片付いて一安心です。

 安堵しながら帰宅の途につきました。



あと2~3回で終わる予定です。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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