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王宮には『アレ』が居る(WEB版)  作者: 六人部彰彦
本編

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43/61

42 子爵邸・それぞれの戦い (1) ※(別視点)

(???視点)


 軍や各所の騎士団に潜ませていた腕利きには休暇を取らせ、里の防衛に残していたなけなしの戦力を増援に頼んだ上で、王都近くのとある山中に戦力を集めた。

 ここで待っていれば王都内の子爵邸までの手引きをしてやる、とアイツは言っていたが・・・。


「頭、軍の兵士が2騎、こちらに向かっています。」


 それが手引きの使者なのだろう。兵士を私の所に案内させた。

 使者が私の所に来て言うには、山の麓に軍務省長官が一隊を率いて来ているので降りてこいという事だった。


 里の者を連れて山を降りると、我が方の倍は居ようか、中隊規模の軍勢が待っていた。その中で一人だけ軍服を着ていない身形の良い男の元に案内される。この男が軍務省長官・・・途中でアイツに寝返った奴か。


「例の屋敷まで案内しろとあの御方が言われたのは、お前達か。あの邸までは手の者が案内してやるが、邸の中は何とかしろ。」


 やけに俺達に対して居丈高な態度をとる奴だな・・・。俺たちの素性をアイツから聞いて馬鹿にしている口か。内心の憤懣を隠しつつも回答してやる。


「あの邸の手勢はどうなっている。」


「屋敷の護衛が10~20、老侯爵と長官達の護衛が5から10ずつ、第三騎士団の連中が20程か。

あの御方の御命令だから第三騎士団の引き離しを図っているが、上手くいくかどうかは分からん。

 しかし、失敗した所で奴らは互いに連携が取れん烏合の衆だろう。邸の中も単純な構造だった。精々あの御方の為に励むことだ。」


 そうか、こいつは一度あの邸に入り込んだか。


「単純な構造?」


「玄関ホールから入って、真っ直ぐ先に控室、その先が当主執務室だった。俺が分かっているのはそれだけだが、標的は執務室に全員居る筈だ。」


 予想以上に構造が変わっている事に内心驚く。前は執務室こそ無かったが、居室や寝室は2階にあった筈だ。

 ただ真っ直ぐ突っ切れば良いのであれば、力押ししてもいけるだろう。



 王都に移動中に手順を確認した。

 王都内に入ったら俺達は邸へ移動し、軍は遅れて邸を取り囲む。制圧し終わったら軍に使者を出して俺たちは邸を逃亡する。俺たちはその際素通りさせてくれるらしい。

 筋書きとしては、俺達は捕らえられ護送される体で王都内に入ってから逃走、子爵邸に押し入り中の連中を皆殺しにして立て籠もる。軍が取り囲み、邸に押し入ると囲みを破って逃走し、行方を晦ませるという事らしい。


 移動中に連絡が入り、子爵の邸から出てきた貴族省長官とその手勢を捕らえたらしいが、第三騎士団の手勢の引き離しは失敗したとの事。邸の手勢は大きくは減らなかったか。



 軍関係者用の門から掌紋認証なしで王都に入り、俺達は途中で軍勢と離れて子爵邸へ移動する。子爵邸に着くと外に騎士団の見張り等が立って居らず、窓は全て鎧戸が下りている。

 何か嫌な予感がする。連中は俺達の動きに気付いて待ち構えているんじゃないか? 聞いた人数が全員邸の中に入って守りを固めていると見て良いだろう。


 前庭に入り、全員を集めて作戦を検討する。人数はこちらの方が多いし、時間も余り掛けられない。玄関扉と1階の鎧戸を手分けして当たり、各所を破って侵入するしかない。


「モルガン!玄関扉はお前がぶち破れ。他の窓は3人ずつで打ち壊せ。破ったら一斉に突入する。」


 一番膂力のあるモルガンが玄関扉にハンマーを打ち付け。その間に各所の窓を手分けして当たる。

 しかし玄関はともかく、他の窓は窓の上の壁が徐々に倒れて来る。


「危ない!窓から下がれ!」


 壁は地響きを立てて倒れ、慌てて叫ぶも何人かは倒れた壁の下敷になってしまった。今の仕掛けは予め用意していた物だろう。城攻めじゃあるまいし、どんな仕掛けをしているんだ、この邸は。

 先にモルガンが玄関扉を破ったので手勢を中に入れると、玄関ホールどころか正面は壁で塞がれ、左右に細い通路が伸びているらしい。やはり一筋縄ではいかない。

 

 確認すると窓は開いていない為通路は暗い。壁は叩いてみたがハリボテでは無くそれなりに固い感じがするが、厚みはそれほど無い。

 通路には仕掛けが施されている可能性があり、窓は内から開けながら慎重に進むように指示し、残りの手勢で外の木を1本倒して枝を落とし、急拵えの破城槌を作る様指示する。


 左右の狭い通路は人一人しか通れない程の幅で、どちらも先に進むと落とし穴や、穴から越えた所や窓を開ける際に窓の反対側には槍が飛び出る壁、跳ね上がって落とし穴に戻される床の仕掛けなどがあり、何人も犠牲が出る。

 更に通路を抜けた先には少し広い場所があり、狭い通路から出て来る俺達を其々5人程が待ち構えているらしい。


 そのまま突っ込めば犠牲が増えるばかりなので一旦下がらせ、急遽作った破城槌で玄関扉正面の壁にぶち当てる。

 思ったより容易く壁は破れた。中には玄関ホールらしき広間があり、奥に10人程が待ち構えている。蝋燭が何本も焚かれており視界に問題は無い。

 邸には色々と仕掛けがありそうで慎重に行こうと思ったが、何人も犠牲を出し頭に血の上った配下達は、初めて現れた敵の姿に制止も聞かず広間に雪崩れ込んだ。だがまたしても、ある程度人数が入った所で広間の天井から大きな石が降り注いだ。


 再度下がらせ、隊の状態を確認する。これまでの犠牲は15人。命は失わなかったものの、怪我を負い戦える状態にない者も同数程。悔しいが、俺達はここで連中を始末しないと後がない。

 里の増援を連れて来たルノーを呼び寄せる。


「ルノー、お前は怪我人を連れて離れていろ。5人程護衛も残す。

 俺達は突入するが、万一の事があったら後を頼む。・・・以前話した通りに。」


「父上・・・いえ、御頭。御武運を。」


―――◆――――◆――――◆――――◆――――◆――――◆――――◆―――


(第三騎士団長視点)


 ホールの天井から石を落とした後、連中は一度撤退した。連中が一度撤退した隙に、ホールに散乱する石を脇にどけ、巻き込まれて怪我を負ったり命を落としたりした奴らをホールの外に出す。


 子爵が予め玄関ホールに用意していた仕掛けは使い切った。上から石壁を落として正面から玄関ホールに入る道を塞ぎ、残った両脇に抜ける通路には落とし穴や壁の槍衾、跳ね上げ床などの仕掛けで行く手を阻む。ホールに突入したら上から石を落とす。石壁と落石の仕込みのために2階部分を使えなくしていた様だ。

 役には立ったが、城攻めを受けた城側が守りの為に使う様な仕掛けばかり設置されていた。これを乗り切ったら、子爵が何を考えてこんな仕掛けを邸に施したのかちょっと問い詰めたい。


 此方の被害を出すことなく連中の数を減らせたが、それでも見た所まだ半分も減っていない。

 人数的には不利だが、後ろには老侯爵や商務省長官とその家族、子爵と使用人達が居る。我々は騎士団だ。矜持に掛けて、ここを突破される訳には行かない。

 連中の動きを見ていて分かった。連中は個人の技量は高いかもしれないが、集団戦には慣れていないと思う。


「密集隊形を取り、正面からの敵に備えよ! 俺は後詰に入る。」


 破壊された壁からの敵には20人程の部下を密集隊形で備えさせ、俺は数人の側近と奥へ続く扉の前で後詰をする。 連中は破城槌で壁に開けられた穴から突入しようとするが、一度に大勢通れないため、密集隊形を取る我らを突破できずにいる。


 しばらくは持ちこたえられるかと思ったが。突然どこからか轟音が聞こえた。何事かと思った途端、ホール横の壁が破壊され、巨大なハンマーを持った見た事も無い大男と後に続く集団が突入してきた。

 奴ら、無理やり壁を破壊して来やがった! 正面は陽動か!


 止めないと不味いと判断した俺は集団に対峙した。大男が振るうハンマーは俺が間合いに踏み込んで止めたが、側近達は他の連中に蹴散らされ20人程が奥へ突入していった。 残った連中のうち10人程が逆に奥への扉を塞ぎ、我らの奥への増援を妨害する。

 口惜しいが、大男を奥に行かせてはまずい。大男と対峙していると残りの連中が俺を取り囲もうとする。いよいよ俺も不味いなと思っていると、大男を背後から刺す人影が見えた。


「ぐあぁぁぁぁ!!!」


「このデカブツは引き受けた!

 Viens ici, bâton de bois!」


「Quel, Ce salaud!」


 その何者かは大男に向かって別の国の言語と思われる言葉で何かを叫んだ。大男は激高してその何者かへ向かっていき、そのまま誘導され外へ出て行った。

 何者かは知らんが有難い。おかげで俺は窮地を脱し、取り囲もうとした連中を薙ぎ倒した。その頃には蹴散らされた側近達も復帰する。


 正面の穴からはまだ連中が攻めて来ていて、密集陣形を取る部下達は手が離せない。横穴から入りホールに残った連中はあと15人位。こっちは側近達を入れて5人。少々数が多いが、こいつらを蹴散らし、正面の敵も蹴散らしてやる。早く奥に加勢に行かねば!


―――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇―――


(ハルトヴィン視点)


 邸の仕掛けで思った程は奴等の人数が減らなかったようなので、イルムヒルトに断って前室の防衛に向かった。だが儂だけでは奴らを防げない。目的はイルムヒルトが言う『ゲオルグ』・・・奴等の頭であるジョルジュの足止めだ。


 前室に入り天井に隠れる。ここは家具類でバリケードを築いていて、そのすぐ手前に落とし穴が設置してある。だがここで落ちる様な奴等ではないだろう。

 天井裏を前室の入り口近くまで移動する。ふと気づくと両脇にデニスとレオニーが居る。


「テオバルトはどうした?」


「兄者はデカブツと外で遣り合ってる。」


 ・・・あの大男か。奴にも何度か煮え湯を飲まされたな。


「で、お前らは?」


「俺は細男、レオニーは仮面の女の足止め。

 あいつらも手強いだろう? 師匠の敵討ちの邪魔はさせませんよ。」


「いや、儂じゃもうジョルジュには敵わん。敵討ちはイルムヒルトに譲るが、一矢は報いてやる。・・・そろそろ来るぞ。」


 あの時ですら敵わなかった。衰えた今では敵討ちなど無理だ。

 どこか怪我でもさせて、イルムヒルトの敵討ちのお膳立てくらいはしてやる。


 扉を蹴破る音がして連中が部屋に雪崩れ込む。バリケードだけで待ち構える戦力が無い事に驚いた様子だが、直ぐに罠の存在を疑い床や壁を調べ始める。狙い通りジョルジュと側近二人は扉近くから動かない。

 ジョルジュ達と他の手下が充分に離れた所で、3人で天井から飛び降り、各々の標的に組み付く。儂はジョルジュに組み付き縺れ合う。


「久しぶりだな、ジョルジュ!」


「貴様、あの時の老いぼれ!・・・お前達、良いから先に行け!」


 ジョルジュと組み合っていて周りの様子が見えないが、物音からデニスとレオニーも目的の人物に組み付く事は出来た様だ。他の手下連中は、3人を置いてバリケードを飛び越え執務室の方へ向かっていった。


 儂はジョルジュと縺れ合ったまま前室の扉を抜け、廊下の方へ転がって行った。右手でナイフを持ちジョルジュを刺そうとするが、奴の膂力の方が上で、逆に儂の首の方にナイフを押し返される。くっ・・・!

 左膝を奴の脇腹に何度か入れるが、それ程効いた感じがしない。じわじわと右手のナイフが首に近づいてくる。


「さっさとくたばれ、老いぼれぇぇぇぇ!」


 ジョルジュの顔と右手のナイフが間近に迫って来る。顔なら届く! 唾を奴の目に吹き付け、一瞬怯んだ隙に左足で奴の右足を跳ね上げる。そしてがら空きになった奴の右脇に、左足の靴先に仕込んだ刃先を捻じ込む。


「ぐあぁぁぁぁ!」


 力が緩んだので奴を押しやり、天井へ飛び上がる。右腕に激痛が走るが、儂では奴の相手にならん、傷を負わせたので今は充分だ。痛みを押してそのまま離脱した。


―――◆――――◆――――◆――――◆――――◆――――◆――――◆―――


(ジョルジュ視点)


 くっ・・・! 脇腹に付けられた傷は内臓には達しなかったが、少し動きに支障が出そうだ。

 だがお返しはしてやった。次はあいつの首を落としてやる!


 前室に戻ると、俺の横についていたロベール、ソランジュの姿が無い。あいつ等も上から飛び掛かられたのは見えたが、部屋の隅の壁に穴が開いており、穴の向こうから争う音が聞こえる。

 分断されたか。だが今は、奥の奴等の始末が先だ。手下を追って奥の部屋の方へ向かった。



いつもお読み頂きありがとうございます。

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王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ううん軍務庁長官二重スパイ?  普通に寝返り?  まだよく判らないな。 [一言]  ここでゲオルグを無力化もしくは捕獲出来ればかなり有利だけど生きて捕まってはくれないだろな……  最…
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