25 王都へ行く対策を練りました ※(後半 ???視点)
翌日、お披露目会に来て頂いた来賓のうち主要な方々を行政所の会議室に集めました。集めたのは、領主補佐オイゲン、商会の副商会長ハイマン、物流部門の副部門長、警邏隊の隊長、小売組合の組合長、そしてマリウス様の6人です。
重要な打ち合わせなので、会議室から関係者以外を人払いさせます。
まず。お披露目会で襲ってきた賊の捜査状況を警邏隊隊長から報告頂きます。逃げた賊は領都の外から馬で逃走した事。捕らえた4人を牢内で自死させてしまったことが報告されました。
次に私から、伯爵の乗っ取りの件で重要な証人と思われる人物を、今回領地に帰る途中で保護したこと、襲ってきた賊もその人物を狙った犯行と思われることを話します。コンラートを保護した経緯をかいつまんで話し、偽物が引き取りに来ても今度は見分けがつかない可能性が高いため、まだ王都には証人の事を伝えていない事も伝えます。
「なるほど、状況は理解しました。そういう事情でしたら、タウンハウスの工事が完了しないまま王都に戻るのはまずいですな。今当主様が取られている宿では証人をお守りするのは難しいでしょう。」
「でもこのまま領都にいても、十分守れるかというと難しいな。商会としても工場側も物流拠点もあまり手薄にできないから領都に大勢の護衛を出すのは難しい。それに王都への移動中が危ないのは変わらん。」
オイゲンとハイマンが発言します。そう。このまま領都にいても危ないし、王都に移動してもタウンハウスができるまでの安全確保に課題があります。王都への移動をどうするかだけではなく、これらも対策が必要です。
「課題を整理しましょう。
まず、証人を王都で然るべき人に引き渡すにしても、誰に引き渡せば良いかを見極めるためには、ある程度王都で時間が必要です。王都第二大隊は言わずもがな、第三騎士団に引き渡しても本当に証人の安全が確保できるかはわかりません。
見極めの為にも、タウンハウスの完成より前に王都に入り、宿より安全な場所を確保する必要があります。これが一つ。
これについては心当たりがあるので、これは後で皆に話しましょう。」
「それだけその証人の重要性があるのですな。それであの襲撃を行えるだけの賊を手下に持っていて、第三騎士団にも影響力が有るかもしれないとは、よほどの相手の様ですな。そんな大物が伯爵側の背後にいたということですか?」
私の課題整理に、警邏隊の隊長が気づいた点を挙げます。
「ええ、恐らくそうです。伯爵一人では、あそこまで派手に乗っ取りを仕掛けてこなかったでしょうね。
次の課題はどのように王都まで行くかですが、これも2つの課題に分けます。まず、連中に見つからずにどうやって領都を出発するか。そして出発した後、どうやって彼らに見つからずに王都まで行くか。
道中の危険もありますが、それ以前に連中は町の中に人を潜ませているか、領都の外で遠くから監視するかして、私達の出発を見張っているでしょう。彼らに見つかれば、道中の危険が跳ね上がります。道中見つかってしまえば、恐らく人通りの少なくなるまで遠くから監視され、少なくなったら襲い掛かられるでしょう。単に護衛の人数を揃えれば良いわけではないと思っています。
なかなか難しい問題です。一人で考えても良い知恵が出なかったので、皆さんの知恵を借りたいと思います。」
いくら護衛の数を揃えても、それ以上の人数で襲い掛かられたら一溜りもありません。
ふと気づくと、小売組合の組合長マインラートが手を挙げています。
「一つ確認ですが、連中は領都から出て行く全ての方面に監視の手を割いていると当主様は思われますか?」
「王都方面程では無いでしょうけど、それなりには監視していると思います。」
私の回答を聞いて、彼はちょっと考え込んでいます。やがて顔を上げたマインラートは微笑を浮かべています。
「他の方面はそれなりですか。領都のような小さい町でそれでは、連中がもし王都側でも監視していても、全方面監視するのは難しいでしょう。だとすれば、手は無くは無いですよ。」
彼がその後に続けた策は、良いかも知れないと私も思いました。
彼は祖父がこの商会を立ち上げた時から子爵領で不足する生活必需品類の調達で東奔西走した、商会の小売部門のトップでした。今は商会が大きくなり過ぎたため、必要以上に領内の経済を商会が牛耳らないよう小売部門を解体して領内の他の幾つかの商会に事業売却し、彼には領都での小売業商会のまとめ役になってもらいました。
彼は小売部門時代の影響力はまだ持っていて、その時の人脈を使うとのことです。
彼の案を基本路線として、領都を出る際の監視の目を逃れるため、マリウス様も含めて幾つか案が出され、具体的な対策が決まっていきました。
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(???視点)
「二番組、クロムブルクの監視状況はどうだ。」
「へい、先日の件以来警備が厳しくなって、今まで人が入らなかった場所も見回りが来るので町に入りこんで監視するのが難しいです。
なので外から監視していますが、あれから3日、あの子爵が朝夕に物流拠点と往復する以外は、あの商会以外の定期の商隊が出入りしているくらいで、変わった動きは見せていません。婚約者の坊ちゃんもまだ領都から出てないですね。」
先日の作戦は失敗だった。町の警備よりも、町の人間が排他的なのか他所から来た商人に対する目が厳しく、町に潜入できる人間が少なかった。
護衛を引き付けて実行部隊を6人突入させたが、客の中にも護衛を潜ませていたとは思わなかった。おかげで貴重な部下を4人も失ってしまった。次は失敗できん。
移動中を狙う方が確実だと思い、あの子爵がターゲットと出てくるのを待っているのだが、今はまだ動きを見せていない。
「何か、他に変わったことはないか。」
「領主館にいた王都第二大隊の連中が領都を出て伯爵領の方面に向かって行きましたね。あとは、そうですね・・・あの日以来、物流拠点の往復に子爵と護衛含めて全員外套を着ているくらいですが、最近雨が降ったり止んだりしているから、その為かと思います。他は特に無いですね。」
あいつらが出て行ったか。それは好都合だ。
それ以外は領都の方は特に動きは無しか。
「一番組、物流拠点の方はどうだ。」
「こちらも、朝夕にあの子爵達が出入りしている以外は、特に動きはありません。昼間に荷物を持ち込む商人達も配送業者の奴らもいつもと変わりませんし、物流の連中も特に変わった動きは・・・あ、一つだけ。
成人前の若い男女が6人程、今日から物流の連中に加わってます。連中に聞いてみたら新人研修だと言ってましたが、その若い奴らは他に比べると確かに動きが悪かったですね。」
その連中は護衛とかではなさそうだな。一応注意するように言っておくが、恐らく問題あるまい。夜は恐らく動きがないだろうから、いつものように最小限の監視だけ残して休ませた。
翌朝、一番組と二番組の組長がそれぞれ駆け込んできた。何か動きがあったか。
「二番組から報告ですが、婚約者の坊ちゃんが朝一番に領都を出ました。方角からは、物流拠点へ向かっているようです。それから少し遅れて、子爵が領都に来た時の馬車も護衛を連れて物流拠点へ向かっています。」
「一番組の方ですが、いつもの時間に子爵が現れません。代わりに物流の連中が馬を10頭ほど、貨物馬車とは別に準備しています。」
ん?護衛を増やしてあの婚約者と一緒に大人数で王都に行くつもりか?それならそれで打つ手はあるが。
「監視を続けろ。連中の動きを確認して打ち手を考える。」
組長達に監視に戻るよう伝える。
30分程して一番組の組長がまた戻ってくる。
「侯爵家の一行が拠点に到着し、拠点の中から子爵と標的らしき背格好の人物、あともう一人の3人組が侯爵家の馬車に乗り込みました。3人は外套にフードを被っていて、正確には確認できませんでした。侯爵家の一行は、3人を乗せて拠点を離れ、伯爵領方面へ出発するようです。」
大人数で纏まって移動する線は無さそうだ。
「他の、馬車や馬の準備の方はどうなっている。」
「子爵が来た時の馬車は、もうすぐ拠点に到着するはずです。馬の準備は、10頭ほど拠点の中で待機していました。こちらは引き続き監視します。」
二番組の組長を監視に戻し、傍にいる配下に一番組の組長を呼ぶように伝える。
程無く配下と戻ってきた一番組組長から、領都側に他に変わった動きが無いことを確認している最中、再度二番組組長が戻ってきた。
「馬車の方ですが、また拠点の中から子爵と標的らしき背格好の人物を含む外套にフードを被った3人組が現れ、馬車に乗り込みました。こちらは護衛達を伴って、先ほどの侯爵家一行とは違う、伯爵領を迂回して王都へ向かうと思われる別街道へ出発しました。
あと、拠点内の馬ですが、これまた別の11人組が現れ、馬に乗って物流街道を走って行きました。こちらも全員が外套とフードを被っていますが、子爵と標的らしき背格好の人物はこちらにも含まれています。標的と思しき背格好の人物は別の人間の駆る馬に二人乗りで乗っています。」
似たような背格好の人間を集めて別々の方向に出発させ、我らを分断することで突破を図ったか?いずれにせよ、その3組は調べなければなるまい。
「そいつらを調べに行くが、二番組は子爵に面が割れている。お前たちは一番組の担当する領都側も引き継いで、拠点と領都を引き続き監視だ。馬車の方も二番組で監視をつけてくれ。
一番組は侯爵家の一行を追って、伯爵領に入ってから王都第二大隊の振りをして検問を張り一行を調べろ。仮に標的がいてもその場では手を出すな。標的がいるかどうかの確認だけだ。
俺の組は物流街道を先回りして、馬で走る連中を検問だ。貨物馬車は人が乗れる代物ではないと思うが、前後する王都方面へ向かう馬車も検問する。」
あいつらは足が速いから、人数を揃えて馬車の足を止めて検問せねばならん。標的がいれば確保してやる。子爵の確保は二の次で良い。
そうして各組で用意を整え、俺たちは物流街道を先回りした。
しかし、いざ検問すると馬車の方は荷物ばかり。中身も少し確認したが異常はなかった。騎乗の一行も素直に検問に応じたが、子爵と標的の背格好に似た者達は別人だった。全員物流の奴らで、こうして時々街道の点検を行っているのだと主張する。確かに商会の指示書も出ていたし、本当に検問で詰問されていても何も問題ないようになっている。くそっ外れか!
領都に戻ってみると、一番組の使者が戻っていたので報告を聞いた。
「一番組は侯爵家の一行の検問を行いました。検問には協力的でしたが、拠点で乗り込んだ人物は子爵や標的ではなく、商会から雇った道先案内人とその息子、護衛の3人でした。道先案内の契約を確認しましたが、特に問題なかったようです。」
検問した侯爵家一行の馬車に乗り込んだのは道先案内人の一行だったとの事。子爵の背格好に見えたのは案内人の息子で、跡を継ぐために一緒にいて勉強していたらしい。
「二番組は領都と拠点の監視を継続しましたが、あれから変わった動きは何もないです。領都は定期便らしき他領の隊商が一隊領都を出たくらいです。念のため子爵領を出てから検問を張ってみましたが、異常は特にありませんでした。
拠点の方は中に入り込んだ人員にも確認しましたが、朝の件以外は変わった動きはありませんでした。
馬車の方の監視は継続中ですが、馬車の中の人間は表に出ないまま、子爵領を出て隣の領の村に入ったようです。途中で誰かと合流したりすることもありませんでした。」
侯爵家の一行も物流街道の騎乗の一行も外れだった。本日出た隊商にもいない。
明日は早めに馬車の連中を確認しないといけないな。
翌朝、村を遠くから監視していると、馬車の連中が村から出てきて、村の連中とあいさつを交わしているのを見た。子爵や標的に似た背格好の者はいたが、遠目に見ても別人とわかる。
こいつらも違うのか! じゃあ、本物はどこだ!?
・・・まんまとあの嬢ちゃんにしてやられた!くそっ!!
俺達が監視しているのを見越して、3組の陽動を仕掛けやがったか。そいつらに俺達の目を引き付けておいて、本物はどこかの商隊に紛れて違う方向に出て行ったんだろう。
恐らく今から領都へ戻っても子爵は出て行った後だろう。どういうルートを使うかわからんが、王都に戻るまでしばらく掛かるはず。
仕方ない、王都側で網を張るか。
王都に入るには検問があるから、そこに並ぶ奴らを張っていれば見つかるだろうか。貴族側の門で素直に入ると思わんから、平民用の門と両方張っておこう。
仮に門を抜けられても、王都の邸宅はもうしばらく工事はかかるはずだ。子爵が取っている宿はまだ隙があるから、そっちで張るのがいいだろう。
念のため、侯爵家一行と馬車の連中の監視は継続させ、領都側の監視は引き上げさせた。
侯爵家一行は王都に戻ってきたが、子爵は一緒には居なかった。馬車の連中は商人の一行で、隣領で仕入をして子爵領に戻っていったらしい。
そして俺は王都に戻り出入の門と子爵の取る宿を監視していたのだが、いくら経っても子爵が現れる気配はなかった・・・。
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