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王宮には『アレ』が居る(WEB版)  作者: 六人部彰彦
本編

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23/61

22 領都への旅程は大きな想定外がありました

 王都郊外の物流拠点に預けていた馬に乗り、領地へと騎乗で向かいます。


 拠点間物流で使用する道は、それまで使われていた街道の近くに専用の道が結果的に出来ました。

 というのも、この物流用に鍛えた馬達と専用設計の馬車を使って、猛スピードで走っていくのです。皆が使う街道を全速で走ると危険ですし、危険を避けようとすると速度が出せません。かといって、あまり既存の街道から離れてしまうと危険度が増します。

 その為、物流では既存の街道を少し外れた場所を何度も走っていて、結果的に道になった、という方が正しいですか。


 この物流用街道は速度を重視するため、各地に点在する町や村を避けて通っています。そこを物流用馬車が猛スピードで走っていくため、今では他の馬車や通行人は通りません。

 運行当初はこの道を通ろうとする他の馬車や通行人とトラブルが相次ぎましたが、度々物流用馬車の走るスピードをデモンストレーションして見せ、危険だと納得させると、そういう方たちは段々と減っていきました。

 また、急いでいるので一緒に乗せていけと騒ぎ立てる、貴族の方々が度々現れました。彼等には想像を超える乗り心地の悪さを体験頂き、その内そういった方々も現れなくなりました。


 私達は、商会長権限でこの物流用街道を使って馬で領地へ帰っています。これが出来るのは、物流用馬車と同じくらいの猛スピードと持久力を持つ、鍛え抜かれた馬を使っているからです。対向する場合はこちらが脇にどけて、通行する馬車を妨げないようにします。


 物流用に作られた休憩所にて馬達に草と水を与えていると、通常の街道の方向から叫び声が聞こえました。通常の街道から少し離れているとはいえ、この休憩所は位置的には若干遠目に見える程度です。

 よく見てみると、恐らく貴族家の馬車が何者かの襲撃を受けているようで、馬車の周りを取り囲む10人程の人影が見えます。馬車側にも護衛は居ますが人数的にちょっと足りない様です。

 私が今連れている人数は、オリヴァー、ハンベルト、商会の護衛10人です。オリヴァーは荒事には向いていないので、オリヴァーに護衛2人と休憩所に残るように伝え、私とハンベルトと護衛8人で救出に向かう事にしました。


 馬車に近づいていくと、馬車を取り囲む人達は革鎧を着ており、ぱっと見て野盗には見えません。馬車からは老貴族と数人の護衛が出てきていて、取り囲んでいる者達と何かを言い争っているようです。



「街道の真中で何をしている!」


 騎乗し近づきつつ呼びかけると、取り囲む者達と貴族側が一斉にこちらを向きます。先日お会いしたヨーゼフ様の御父上、エッゲリンク伯爵?


 取り囲む者達から、リーダーと思しき人物がこちらに声を掛けてきます。


「我らは重要な任務中だ、誰かは知らぬが邪魔はしないで貰おうか。」


 そう言って彼は革鎧の胸の部分に刻まれた紋章を見せてきます。あれは、王都第二大隊の部隊章?


「伯爵。例の人物の引き渡しをして貰おう。」

「王都で雇った執事見習いを、令状も無く渡せとはどういう事だと聞いているのだ。」

「機密事項の為答えられない。」


 取り囲む者達のリーダーと思しき人物が、エッゲリンク伯爵が雇った執事見習いを引き渡せと要求している様です。


 ・・・執事見習い?王都で雇った? 引っかかりますね。


「エッゲリンク伯爵とお見掛けします。先日以来です。」

「・・・貴様か。」


 エッゲリンク伯爵は私を認識し、忌々しそうな顔をします。


「ここで口論になっている執事見習いの方というのは、私共の王都の邸宅で勤めていた方ですか?」

「・・・そういえば、そんな経歴らしいな。」


 やはりあの時の執事見習いですか。

 

 しかし、この王都第二大隊を名乗る連中は怪しいですね。

 王都第二大隊といえば、まだ伯爵領と子爵領で捜査中の筈です。領主館を引き渡しされたという連絡は出発前には無かったです。なので、伯爵領までかなり距離があるこの場所に居る理由がありません。

 彼らは近くに馬を止めているようですが、この場で馬を降りたという距離ではありません。という事は伯爵を待ち受けていた?


 それに王都でタウンハウスに招かれていた客人の可能性を、尋問会で話したのはつい3日前です。

 それを王都側から王都第二大隊が連絡を受け、尋問の為に再び召喚しようとしているとしても、伯爵に雇われた事を掴み、ここで待ち構えていたとしたら、タイミングも態度も不自然です。理由も明らかにしない彼らの態度は、任意同行ではなく強制的に拘束しようとしている風に見えます。



 護衛達に合図し、全員馬を下ります。

 護衛達を後ろに従え、取り囲む者達の方へ近づきます。


「その紋章は王都第二大隊所属とお見受けするが、代表者は所属と職名と共に名乗られよ。私はリッペンクロック子爵当主イルムヒルトである。」


 私が名乗ると、取り囲む者達に一瞬だけ緊張が走りました。ひょっとしてこの者達、私の名前を知っている?


「・・・王都第二大隊、第6中隊長。()()()()()()()()()だ、」


 第6中隊長と言えば領主館で直接会ったのですが、目の前にいる人物は彼とは似ても似つきません。彼らは偽者で間違いないでしょう。

 では、彼らは・・・まさか。あの時のゲオルグの仲間!?


 「伯爵、下がってください! ()()のロタール・ブランツ氏とは似てもつかぬ偽者共、捕らえて目的を吐かせてやる。総員、陣形をとれ!彼らを捕らえるぞ!」


 私の合図で私とハンベルトを護衛全員で囲み、全員一丸となって取り囲む者達に向かいます。伯爵は護衛に守られ馬車に下がります。

 リーダーの男は忌々し気に顔を歪め、片手を挙げて周りに合図します。彼らは一斉に懐から何かを取り出し地面に叩きつけます。叩きつけられた所から勢いよく煙が上がって視界が遮られます。


「人数は向こうが多い! 無理に追うな!」


 護衛達に指示し、煙から下がらせます。

 煙から下がって警戒していると、煙の向こうに彼らが馬に乗って去っていくのが見えます。私達を迂回し王都方面へ逃げていくようです。


 彼らが十分に遠くへ逃げたのを見て、陣形を解き伯爵に話し掛けます。


「伯爵、無事でしたか。」

「・・・ふん。まあ私は無事だ。しかし帰る途中にまたこんな目に遭っては敵わん。執事長、放り出せ。」

「御主人様の命です。申し訳ないが、貴方はここまでです。」


 伯爵の年配の使用人が、まだ年若い執事見習いを馬車から引っ張り出し、荷物を渡します。やはりタウンハウスで見たあの見習いです。


「こんな街道の途中で使用人を放り出すのですか!」

「道中の安全を確保する為だ。使用人を守るために伯爵の私が危険に晒されるのは本末転倒だろう。どうしてもというなら子爵が預かるがいい。じゃあな。」


 伯爵達は馬車に乗り込み、そのまま走り去って行きます。置いて行かれた執事見習いは呆然としています。

 全く、何という事を・・・。


―――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇―――


 しかし困りました。これは結構大変な想定外です。


 ゲオルグの仲間と思われる者達に狙われた彼をこのまま放置するのは駄目ですが、私達は人数分の馬しか用意していませんし、馬車もありません。

 野営の準備は物流で宿泊予定地まで送ってしまっていますので、今日は何とかして宿泊できる場所に行かなくてはいけません。

 さて、どうしたものか・・・。


 護衛の1人にオリヴァー達を呼びに行って貰い、その間に執事見習いに話し掛けます。


「また会いましたね。今の状況は残念ですが、ひとまず貴方の身柄は私が預かります。」

「コンラートと申します。子爵様に再びお会いできて光栄です。まさか雇われた直後に街道の途中で解雇されるとは思いもよらず、子爵様に御縋りするしかありません。宜しくお願い致します。」


 コンラートが頭を下げてきます。流石に礼儀作法はしっかりしていますね。


「所で、コンラートさんは馬に乗れますか?」

「使用人の身分の私です、コンラートと呼び捨てて頂いて構いません。馬は相乗りさせて頂いた事は子供の頃にありますが、自分では・・・。」


 執事見習いの彼が、それほど乗馬経験がある事は期待していませんでした。しかし、今日はどの道馬に乗ってもらわないといけません。


 彼をこの場で放り出すのは論外です。今更コンラートを連れて王都に帰ると、領地での弔いの会に間に合いません。かと言って、彼に護衛を付けて別行動すると、ゲオルグの仲間に()()()()()()()()()対処できない可能性が有ります。

 多少予定が遅れることを覚悟で、何とか一緒に子爵領まで連れていくしかありません。


 丁度、オリヴァー達が合流してきます。そこでオリヴァー、ハンベルト、護衛達と善後策について話し合います。

 まず、今日の旅程を組み直します。野営の道具は送ってしまっていますし、用意が有ってもコンラートを連れての野営は恐らく無理です。安全を考えて、今日は出来れば本日宿泊予定地より手前の物流拠点での宿泊が良いでしょう。そして、明日からは()()()()()を手配して移動する方が良いです。

 旅程を組み直したら、物流側に連絡するための手紙をその場で書きます。組み直した予定と、到着が遅れる旨の領都の行政所への連絡、予定より手前の宿泊地の手配、明日以降の手配などを頼んだ内容を書きます。


 そして、領都方面行きの次の馬車が休憩所に到着するまで待っている間、馬達の荷物の積み替えを行います。一行の中で私が一番軽いですが、()()()()()()私の馬にコンラートを同乗させる訳には行きません。私以外で一番軽いオリヴァーにコンラートを同乗させ、オリヴァーの馬に載せていた荷物は皆の馬に分散させます。コンラートの荷物も同様です。


 領都行き方面の物流用馬車に休憩所で手紙を託し、馬車を先に送り出してから私達も出発します。コンラートの同乗した馬の負担を考え、普段の速度の半分程度で進んで行きます。この日は結局、当初予定していた宿泊予定地の1つ手前の拠点に、日暮れ直前に到着するのが精一杯でした。

 

 コンラートに休んでもらっている間、私達は明日以降の旅程を組みます。

 今日は特にコンラートにかなり無理をさせたので、明日からは馬車移動ですから、物流街道を使うのは危険ですし彼らの迷惑になります。通常の街道で進む旅程を皆で考えます。そうだ、今日負担の大きかったオリヴァーの馬も入れ替えましょう。

 次の宿泊も物流部門の拠点を使います。やはり守衛が多く駐在していますから、普通の町や村で宿泊するよりも安全が確保できます。


 そうして安全を重ねて子爵領を目指して翌々日、そろそろ子爵領に入るかという頃に、前方から馬車を連れた数名が騎乗してこちらに向かってくるのが見えます。一行の足を止めて警戒していると、馬車が近くで止まり人が降りてきます。

 馬車の窓から覗くと・・・あれ?ハイマン?


「よう、商会長、出迎えに来たぜ。」


 ハイマンで間違いないようです。馬車から出て、彼らを出迎えます。


「来てくれてありがとう。でも貴方が直接来て大丈夫なの?」

「クロムブルクまで来てみたら、商会長の到着が遅れてんだ。ただ待ってたってしょうがねえ。」


 ハイマンが護衛を連れて馬車で迎えに来てくれたのです。その後はハイマンの乗ってきた馬車に私が移乗し、コンラートを再び王都まで送るまでの間の警護計画を含めた、諸々の打合せをハイマンとしつつ、2台の馬車で領都へ向かいました。


 クロムブルクに着いたのはその日の午後、日も陰ってきた頃になりました。今回は大きな想定外の為に1日到着が遅れました。弔いの会と、マリウス様の顔合わせの準備を早く進めなければいけません。時刻も時刻ですが、ひとまず行政所に行きましょう。


 偽者のブランツ中隊長の件は既に物流部門を通じて行政所に連絡していました。行政所で連絡を受けてから、既に領主館で捜査中の本物のブランツ中隊長に事情を伝えてくれたそうです。これで王都にも連絡が行くでしょう。


 ただ、コンラートの件は・・・今回の偽者は偶々見破る事ができましたが、次はそうはいかないでしょう。下手に王都へ連絡を入れてしまうと、偽者が引き取りに来ても分からない可能性が有ります。だから今はまだ、王都への連絡には彼の事は伏せています。

 彼がどこまで()()()()の事を知っているかわかりませんが、彼の安全の為にも、王都の第三騎士団まで私が直接送り届ける必要がありそうです。それまでの間、子爵領で彼をしっかり守らないといけません。


 行方不明中に使っていた領都郊外の私の隠れ家は、いざという時逃げ隠れすることを重視した作りです。警護するという観点からは問題があります。領主館もまだ使えません。

 物流の終点である、領都郊外の物流拠点を今回の滞在地にする方が良いでしょう。商会の守衛の人員も多いですし、宿()()()()()()ここが領都近辺では一番安全かと思います。

 

 今回の滞在も、ゆっくり出来なさそうです。

 明日からの仕事の忙しさに頭を抱えました。


王都ー子爵領間の物流経路は、現在の高速道路のイメージです。


道中何か所か、各貴族領に1か所以上の中継拠点(IC)

そして馬のための休憩所(SA、PA)があるような感じです。


中継拠点で馬を入れ替えたり、中継拠点を目的地とした

荷物を降ろして配送業者に渡したりします。

夜間は門を閉め、拠点と荷物を守るための守衛が立っています。


但しこの物流用の道は、現在の高速道路の様に

侵入を防ぐために柵を立てたりしている訳ではありません。



多忙の為、次話のUPは7/30 19:00とさせて頂きます。

お読み頂いている皆様には申し訳ありませんが

宜しくお願いいたします。

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王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

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