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20 今度は私が尋問されました ※(後半 王太子視点)

※一部、凄惨な場面の描写があります。ご注意ください。

 贈り物を頂いて少し浮かれた翌日、再び王太子殿下から召喚状が届きました。

 封を開けて確認すると、乗っ取り事件の捜査について再度聞き取りをしたいとの事。召喚状に記載された今回の出席者は前回と同じ。つまり王太子殿下、宰相閣下、貴族省長官、商務省長官、軍務省長官、そして第三騎士団長です。そして日付が明日になっています。



 前回同様、馬車で王宮に向かいます。王宮の馬車止めから侍従に案内されますが、前回案内された王太子殿下の執務室とは、途中から道が違う気がします。気づくといつの間にか細い通路を通るようになり、私達以外の誰も見かけなくなりました。

 そうして案内されたのは前回と全く違う、王宮内の奥まった場所。絶対一人で帰ることが出来ない自信があります。扉のプレートを見ると・・・文書保管室? 前回の執務室と違い、近衛兵が扉に立っていません。

 侍従に中に通されると、更に文書棚の並ぶ中を部屋の奥へ案内されます。部屋の一番奥の文書棚の脇に扉があり、そこを侍従がノックします。扉の覗き窓がスッと空き、侍従と私の姿を中の誰かが確認して扉を開けます。


 侍従に促され中に入ると・・・そこに居たのは第三騎士団長殿!? 私が入るとすぐに扉を閉め、中から鍵を掛けます。部屋の中央には円卓があり、扉以外の四方の壁は全て文書棚になっています。

 円卓には既に王太子殿下、宰相閣下、軍務省長官、商務省長官、貴族省長官が着席しています。他には侍従含め誰も居ません。


 ここは秘匿性の高い内容を話すための、秘密の会議室という訳ですか。しかも最初から人払い済であると。壁の文書棚は防音効果も狙った物なのでしょう。

 


「子爵、ようこそ。掛けてくれ給え。」


 王太子殿下に席を勧められ、円卓の王太子殿下の向かいに着席します。

 第三騎士団長は少し離れた隣の席に座ります。


「何も無ければ改めて子爵を呼ぶつもりは無かったが、先日気になる事が出てきたので、ここの長官達に諮った上で、子爵を再び招喚して聞き取りすることに決定した。お手数を掛けるが協力願いたい。」

「私にわかる範囲で、お答え致します。」


 王太子殿下の開始宣言に、出来る範囲での了解の意を伝えます。

 今日はかなり踏み込んだ話まで訊かれるでしょう。予防線は張っておきます。

 『アレ』の件は明確な証拠のある話では無いのです。どうにもならないのであれば、話さないに限ります。


「この場所に来てもらったのは、前回より秘匿性の高い情報を扱う可能性が高かったためだ。具体的には、前回の子爵の聞き取りで明らかになった、赤い髪、青い瞳と右頬に三日月型の傷があるという、ゲオルグという男の事だ。」


 ゲオルグの話を先に持ってくるという事は、本当に私に聞きたい本題は違う話なのでしょう。恐らくエーベルトとの会話。

 ひとまず、ここは頷いておきます。


 しかし、この部屋の四方の壁に、()()()()()()に並んでいる文書棚が気になります。これは恐らく・・・。


「まずは、先日子爵が領地に帰っている間に、領主館で捜査状況を王都第二大隊の中隊長と確認した件だ。その際、領主館の当主執務室に侵入し内部を物色していた3人の賊と接触。その賊の一人がゲオルグと呼ばれていた男だった。間違いないか?」

「ええ、その通りです。

 その男が、私が前回話したゲオルグで間違いありません。」


 それは、見間違えようの無い事実です。


「うむ。その後ゲオルグと兵士に扮した2人の賊は、中隊長や副長、子爵の護衛を蹴散らし窓から逃走した。中隊長の指示で副長が兵を率い、逃走した賊を追撃したが見失ってしまった。

 これは、中隊長からの報告書を読み、細部は中隊長を直接召喚して確認した。」


 やはり取り逃がしましたか。初めから騎乗で逃げていましたから、時間差から追走は難しかったでしょう。


「中隊長からの報告で気になったのは、ゲオルグが子爵に掛けた言葉だ。

 『よう、嬢ちゃん、8年ぶりかな。大きくなったな?』だったか。

 子爵の前回の証言では、事件の時に子爵を人質に取り、御母堂を脅迫しようとしていた、との事だったが、それにしては子爵への声掛けがやけに気安い。

 この事件の前、例えば傭兵団の交渉の時に、子爵がゲオルグと気安く話していた事は無いか?」


 この質問は想定済です。


「・・・ええ、傭兵団の交渉の時です。

 その時、ゲオルグは交渉の際、傭兵団の団長の補佐として入っていました。」

「当時7~8歳の子爵が、交渉の場に?」


 前回はさらっと流して誤魔化したのですが、今回は無理でしょう。


「・・・母が直前に体調を崩してしまいました。それで、祖父が自分だけだと自信が無いからと、私を交渉の場に立たせたのです。祖父は気弱な所がありまして、結局私が殆ど団長と交渉したのです。

 交渉の後、あのような口調で軽く話し掛けられ、少々雑談をしました。」


 あの時は、ゲオルグは傭兵団の一員だと思っていたのです。


 商務省長官以外全員驚いています。荒くれの傭兵団を向こうに7~8歳の子供が交渉をしたとは、想像の範囲外でしょう。

 ただ商務省長官だけはさもありなんと頷いています。初回の法律相談の後では、そういう反応は仕方ありません。


「これを前回話していなかったのは何故かな?」

「行方不明期間中の私の話を聞いた後でさえ、今の様な反応なのです。前回あのタイミングで話しても、到底信じてもらえなかったでしょう。

 それに、結論に影響のある重要な話だとも思っていませんでした。」


 商務省長官には隠した所で暴かれてしまうでしょう。でも・・・。


「分からなくはないが、そうすると1つ疑問が出てくる。

 子爵は前回の証言の際、ゲオルグは当時子供の子爵を人質に取り、当時の当主である御母堂様を脅迫していた、と言っていたな。

 だが、御祖父様を差し置いて交渉の場に臨むくらいだ。子爵は()()()()()()()()()領地経営に深く関わってきたと見て良いだろう。

 だとすると、ゲオルグの目的が伯爵の領地乗っ取りのためだったなら、それこそ当時の子爵を連れ去ってしまっても良かった筈だ。しかし証言によると、当時の子爵を盾に御母堂様を脅迫していたと言う。

 では、当時の子爵を人質に取って、ゲオルグは御母堂様に何を要求していたのだろうか。子爵には心当たりは無いか?」


 商務省長官が、私の内心の危惧を的確に指摘してきます。

 この方は侮れません。


「・・・わかりません。私はナイフを突き付けられ、恐怖で頭が一杯でした。何かをゲオルグが母に言っていたのは分かるのですが・・・。」


 俯き加減になり答えます。こうとしか答えられません。


「・・・そうか。それは仕方が無いな。」


 商務省長官がこれ以上の追及を諦めます。

 ひとまずこれで凌げたでしょうか。



「子爵、ゲオルグについてはまだ疑問がある。領主館の当主執務室に隠していた、御母堂の日記を奪っていった事だ。

 中隊長の報告書を見て直接本人にも確認したが、子爵はあの隠し場所に御母堂の日記を隠していた事を話していたそうだな。

 どうやって知ったかはともかく、ゲオルグが奪っていくような何かが書かれていたと思うのだ。隠して保管されていたことを知っていた子爵は、あの日記の記載内容をある程度は知っているのではないか?」


 王太子殿下が、核心部分の質問をしてきます。

 あの時は()()()()して迂闊な事をしました。お陰で、これを躱す答えが用意できませんでした。


「あの場所に保管したのは、母自身です。静養の前に、母が日記をあの場所に隠すのを私は見ていました。

 内容については・・・母の名誉に関わる内容の為、黙秘、させて頂きます。」


 思わず俯き加減になり、絞り出すように答えます。


「先日預かった御祖父様の日記に、該当するような事が書かれているか、申し訳ないが一通り確認させてもらった。一見そのような事は書かれていなかったが、意図的に破り取られた頁が幾つか見られた。

 破られた頁に記載されていた内容は、子爵は把握しているか?」


 やはり、祖父の日記も一通り確認しましたか。


「破り取ったのは私です。

 その頁の内容については・・・黙秘、させて頂きます。」


 日記を見つけた経緯を話せば、破り取ったのは私しか居ない事になります。

 黙秘するしかありません。


「ちなみに聞くが、御祖父様の日記は子爵が所持していたな。事件の後、身一つで逃げた子爵は、どこでそれを?」


 やはり商務省長官が質問します。


「・・・私が傷を癒し動けるようになってから、事件のあった場所を探しました。

 その場所はあまり人が通らない道で、誰にも見つからなかったのか、事件の痕が残ったまま打ち捨てられていて・・・その場に残されていた物の中から、見つけて持って帰りました。」


 おかげで日記は見つかりましたが・・・。


「聞き難い事を聞くが、その、御母堂様や、祖父母様の御遺体は・・・。」


 王太子殿下が訊いてきます。

 これを思い出すと思わず・・・。


「・・・遺体は1か所にまとめられ、現場に打ち捨てられておりました。

 私が現場に戻った時は、誰にも見つからないまま、既に3カ月以上経っていました。

 もう・・・どれが母で、どれが祖父で、どれが祖母か、分からなくて。でも野晒しは可哀そうで・・・。

 残されていた物から、ようやく小さなスコップを探し出して、それで一生懸命、土を掘って・・・。うっ、うっ、ううっ・・・。」


「・・・辛い事を思い出させてしまった。すまない。」


 暫く、私の嗚咽だけが部屋に響きました・・・。



「・・・すみません、お待たせしました。」

「いや、こちらこそ済まなかった。

 話題を変えよう。別の件でも、子爵に聞きたい事がある。」


 私が落ち着いてから、王太子殿下が続けます。

 残されたのは、エーベルトとの会話の件ですね。


「エーベルト氏の希望により、先日、第三騎士団本部の特別面会室にて、子爵がエーベルト氏と面会した時の話だ。

 子爵の御母堂とエーベルト氏の結婚式前後の事について、子爵と話すまでは供述しないという事だったので、子爵に面会をお願いした。

 しかし、当日の面会では第三騎士団長と書記官に立ち会って貰ったが、記録を見ても会話内容が腑に落ちないのだ。子爵との面会前にあれだけ供述を拒むような内容だと思えない。」


 それは、そうでしょうね。


「それでその後の父エーベルトの供述はなんと?」

「それが、子爵との面会で話した内容が全てだ、とな。」


 であれば、私の答えは一つです。


「であれば、それが全てなのでしょう、」

「いいだろうか、子爵。」


 ここで商務省長官が会話に入ってきます。


「私も報告書を見させてもらった。子爵とエーベルト氏はあのパーティーの日が初対面で、しかもあの日は会話を交わしていない。面会当日が初めての会話だった。それは間違いないかな?」

「ええ、その通りです。」


 それは、面会時に最初に会話した内容ですね。


「仮にこのエーベルト氏の『本題』以降に何らかの暗号が含まれていたとしても、子爵とエーベルト氏の間には接点が無く、事前に打合せしていたとは考えにくい。

 となると、この面会の会話の中で、暗号を伝える方法を提示した筈だ。この前提で面会での会話の記録を見てみると、不自然な会話が一箇所ある。

 『そうか。これから出来るだけ話そう。いいか。』

 この部分だ。」

 

 この商務省長官の鋭さは、躱し切れないかも知れません。


「第三騎士団長殿。面会時の事を思い出して欲しいのだが、2点確認したい。

 まず、この『いいか。』の後、子爵は無言で頷いていたりしなかったかな。」

「ああ、そういえば、子爵は頷いていたな。」


 次の質問次第で、私は言い逃れが出来なくなりました。

 的確に逃げ道を塞いできます。


「次に、これが重要なのだが、この会話含めてこれ以降、それまで無かった仕草をエーベルト氏はしていなかったかな。」

「んー、・・・そういえば、何かイライラしていたのか、膝の上に乗せていた手の指で、こう、膝をトントンとしていたような・・・。」


 見られていましたか。仕方ありません。

 この場で読み解かれるまではいかないでしょうけれど。


「有難う、第三騎士団長殿。

 さて、子爵。この『いいか。』の発言に君が頷いた事で、エーベルト氏の暗号を読み取ったと返事を返し、その後のエーベルト氏のメッセージに隠された暗号を読み取ったのだろう。

 この場で咄嗟に行った事だ。それ程難しい暗号ではあるまい。

 エーベルト氏は実際には何を君に伝えたのか、聞かせてくれないか。」


「・・・黙秘、させて頂きます。」

 答えられない以上、黙秘するしかありません。


「・・・仕方あるまい。

 あと2つ聞きたい事がある。この本題より前については、その暗号での会話は無いと思っていいか。」

「ええ、会話の内容が全てです。」


 それまでの会話には、そういった欺瞞はありません。

 商務省長官に答えます。


「有難う。では、これも気になっていたのだが、伯爵が子爵領の資金でタウンハウスを手に入れてから、()()()()()を招いていたかどうかを気にしていた印象を、会話内容に感じた。

 『アルヴァント』なる銘柄のワインを好む人物の様だが、子爵に、この人物の心当たりがあるのかな?」


 そこを突いてきますか。


「伯爵が子爵家の資金を持ち出し、一部をその()()()()()に流していた疑いを持っています。ただ、その客人が誰か、については、確たる証拠は何もありません。」

「子爵、推測でもいい。心当たりはないか、と聞いているのだよ。」


 言い逃れは許してくれませんか。


「私の推測については――黙秘、させて頂きます。」



―――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇――――◇―――


(王太子視点)


 前回の聞き取りと異なり、子爵は肝心な証言は全て黙秘を通し、頑として口を割らなかった。

 中途半端な結果のままだが、これ以上粘っても無駄だ。

 祖父の日記を子爵に返却し、子爵を帰した。


 帰した後で皆に聞いてみた。


「皆、今回の子爵の黙秘についてどう見た。」


「子爵は大きな秘密を抱えていますね。それも子爵の母親――先代子爵に絡んだものです。それは間違い無いでしょう。」

 宰相が発言する。


「子爵は狡猾ですね。子爵が自分で傭兵団と交渉を行ったことを、最初の聞き取りの時には意図的に隠していたのでしょう。7~8歳当時の彼女と4時間激しい議論をした私が居たことで、誤魔化し切れないと思ったから話したのでしょうね。」


「子爵の母親への脅迫内容はわからないと言っていたのは、嘘の可能性があるという事か?」

 商務省長官が述べる推測に、思わず長官に訊き返す。


「子爵は自分の見た目も利用して誤魔化したのだと思います。彼女はそれ位の事はやります。つまりあれも子爵の母親の秘密に関わる部分だと見ています。」


 商務省長官は子爵の事をこの中で一番よく知っている人間だ。

 子爵の人物像を加味したその推測は、恐らく正しい気がする。


「あの御遺体の話も?」

「あれは嘘を言う意味が無いでしょう。思い出すまいとしていた事を、我々が掘り起こしてしまったのだと思います。」


 それは、私もそう感じた。商務省長官の言葉に私も頷く。


「しかし、こう黙秘ばかりされてはなあ。」

「言い逃れができない所まで追い詰められたのだと思いますが。」

「そもそも、なぜ隠さないといけなかったのか、という問題です。恐らくその秘密に関わる人物を、罪に問えるか確信が持てないのでしょう。子爵の母親の結婚式まで遡る話ですから、証拠も無いでしょうしね。」


 貴族省、軍務省、商務省の長官が、黙秘に対する考えを発言する。でも、それだけでもない気がするな。


「それに、信頼感・・・だろうな。子爵には、王家に対する信頼が無い。それは子爵の態度を見ていて感じた。」


 愚弟や私だけの問題ではないだろう。恐らくもっと根深い。そう感じる。


「いずれにせよ、我々にはまだ情報が足りません。子爵の母親に何があったか。そして、伯爵の館に泊まっていた特定の客人は誰か。」


 宰相がまとめる。

 今日の聞き取りでは、その2点の再調査が必要という結論にしかならない。


「そうだな、その2点を洗うしかあるまい。

 伯爵の館の()()については、使用人をもう一度尋問しよう。今捕らえている上級使用人への薬の使用も許可する。こちらは軍務省長官に任せる。」

「はっ。」


 軍務省長官が指示を了解する。


「一度解放した下級使用人も、もう一度召集して尋問しろ。こちらは第三騎士団長に任せる。」

「既に手配しております。」


 第三騎士団長は既に面会後に動いていたか。

 あとはワインだな。


「あとは、『アルヴァント』なる銘柄のワインの取引記録だな。対象の客人はそのワインを好んで飲むようだ。ワインの醸造元もしくは販売代理店の線から、どの家の取引量が多いかを把握したい。商務省長官、できるか。」

「洗ってみましょう。」


 この面々に指示できる事はこれくらいだろう。


「今、手掛かりがあるのはこのくらいか。

 あとは子爵の母親の過去に何があったか。これは私の方で伝手を当たってみる。

 各自、追加調査をお願いする。それでは解散。」



 全員が退室した後、壁の文書棚の一部が()()()()()()押し出され、隠れていた人物が姿を現す。


「子爵には隠れて聞いている事を勘付かれていた気がするな。慎重に言葉を選んでいた。」

「・・・大叔父上。」


 今回の聞き取りは、文書棚裏の隠し部屋で大叔父上にも聞いて頂いていた。文書棚でカムフラージュしていたのだが、子爵はそれを気付いていたのか?


「確か、子爵の先代ヘルミーナは、()()と歳が近かったはずだ。彼女の学院時代に何かあったかもしれん。儂の方で当時を知る人間を当たってみよう。」

「そうですね、お手数をお掛けします。商務省長官がまだ一番歳が近かった筈ですが、彼にも心当たりが無さそうな印象でした。我々では掘り起こすのは難しいでしょうね。」


 心当たりがあれば、もう少しその事を質問しても良さそうな物だったが、子爵の黙秘にあっさり引いていた。


「バーデンフェルトだけは特定の人物が誰なのか推測していよう。確信が無いから引いた、そんな印象があった。それに彼もまた、王家への信頼感が損なわれている。」

愚弟(エドゥアルト)め・・・。」


 本当に忌々しい。


「エドゥアルトの件も、処分が遅くなればなる程に王家に対する信頼が損なわれるのにな。娼館通いまで明らかになっては、婚約継続はどう見ても無理だろう。さっさと白紙に戻してやるのが、アレクシア嬢の為でもある。」


「賠償額や愚弟の処分はまだ揉めているのですが、婚約白紙は先行してそろそろ発表されます。()()()()()()可能性まで侯爵から指摘されたのでは、白紙にせざるを得ませんよ。」

「なんだと!?」


 まだ大叔父上は知らなかったか。


「可能性である以上、()()の時まで()は侯爵で預かるそうです。」


()()は渡せと煩いのだろう。渡したら()()()()()()のが目に見えている。侯爵が保護するのは仕方あるまい。

 で、何カ月だ。」


「そろそろ3か月だと。」


 大叔父上が頭を抱える。


()()()()は振り回される訳だ。・・・儂も手を回しておこう。」

「その方がいいかも知れません。」


 万一の事があってもいけない。大叔父上も手を回してくれるなら大丈夫だろう。


「ところで、ゲオルグだったか。儂はな、そいつを《(ふくろう)》ではないかと見ておる。」


「え!?それって、あの・・・。」


「まだ推測に過ぎん。ただこの一件、もし《梟》が絡んでいるとなれば、単なる伯爵家による他家乗っ取りでは済まない。かなりの大事になりそうだ。場合によってはお前の覚悟も必要になる。」


 覚悟、か。


「ともかく、儂は子爵の母親の事を当たってみる。お前はエドゥアルトの件を何とか進めるよう、あ奴にも働きかけてくれ。」


「わかりました。」


 大叔父上が去っていく。



 あの小さな女の子にしか見えない子爵の抱える秘密は、どれ程のものなのだろうか。

 この一件、最初はリーベル伯爵の処断と、私の王太子としての箔付けで終わると思っていたが、想像以上に大変な事になりそうだ。

 腹を括らねばなるまい。大叔父上の言う覚悟も必要かも知れないな。


主人公が頑なに抱える秘密の輪郭が

段々見え始めてきました。


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王宮には『アレ』が居る 4巻 ハーパーコリンズ・ジャパン プティルブックスより 2025/2/21 発売となりました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  うわあ……薄々感じてたけどこれ王家やらこの国の暗部やらにがっつり食い込んでる系の話じゃないですかーやだー  イルミちゃんのナイト役が足りない!  マリウス覚醒しろ!
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