(閑話1) 『フラウ・フェオドラ』の出来るまで
前話で少しだけ出てきた仕立屋の話。
前回以上の長文になってしまいました。
私が領地経営に関わる何年も前から、子爵領のある地域では蚕の飼育とシルク生糸の生産に挑戦していました。母や祖父母は非常に期待をかけており、絶対に外へ漏らさない様に生産者たちにも言い含めていました。ただ、私は当時思ったのです。
出来た生糸はどれ位利益が出るのか?
生産者を、そして領を豊かにするのに充分なのか?
シルクといえば、高位貴族のスーツやドレスに使われます。生糸からドレスまでどう加工され、物が流れ、それを誰が担っているか。シルクの生産流通加工の仕組を知らないと、私の疑問の答えがわかりません。
そこで、どういう風にしてドレスが出来て、それぞれどんな人が取り仕切っているのか、母や祖父母、生産者の方々に聞き回り、分からない所は本で調べたり、商人の方に話を聞いたりしました。
分かったのは、生糸の取引量と価格を管理するのは、輸入商組合と生地商組合だという事です。
生地商は、服飾商からの先々の注文予測から、生地の質感毎に必要な生地量を計算し、そこから先々必要な生糸の量を計算します。組合が個別の生地商の必要量を取り纏め、輸入商組合と購入総量・価格を交渉します。
輸入商組合は、交渉の結果決まった購入数量を各輸入商に割り振ります。それを受けて輸入商は、組合が決めた量で生糸を各々取引先国から購入し、組合から指定された納品先の生地商に納品します。輸入商組合は納品済取引に対し売上から手数料を引いて輸入商に渡します。
不測の事態に対処するため。各輸入商は購入する産地国の開示が必須である他、
輸入商組合、生地商組合ともある程度の生糸の予備在庫を持っている筈です。同じように、生産量調整のために生地商組合も生糸の予備を持っているでしょう。
こういう状況で、自国生産の生糸が出来た場合、何が起こるでしょうか。
輸入品より品質が悪い場合は論外です。
輸入品とそう変わらない品質だった場合はどうなるでしょうか。
輸入商組合は、個別の輸入商の利益を代表する存在の為、輸入商を脅かす可能性のある物は排除しようとするでしょう。
一方生地商組合は、輸入商組合からの購入量で仕立屋組合からの需要に間に合わない場合にだけ、このような物は歓迎されます。しかし、輸入商組合とは密接な関係なので、輸入商組合の怒りを買う事はしません。
つまりどう頑張っても定期的な取引は見込めず、1回の取引量も限定的で、価格は買い叩かれます。そうしないと生地商組合が輸入商組合の怒りを買うからです。
では、輸入品より高い品質だった場合はどうでしょう。
通常、ある生産国で高級生糸が開発された場合、まずある程度の量を組合が購入して生地商組合に売り、生地の試作をしてもらいます。試作生地が納得のいく高級生地になれば、服飾商組合にサンプルを出して需要がどの程度出るか確認します。その結果と、生産国から輸入商組合が割当てられた取引量のバランスによって、組合同士の通常取引の交渉に入ります。
生地商組合と輸入商組合は、自国生産の高品質の生糸であってもこの流れに乗せようとするでしょう。つまり通常取引の流れになれば、生糸の取引はまず輸入商組合が管理します。
しかも、自国生産の生糸は他の輸入商にとって商売敵になるため、組合は彼らの不満を逸らすため、こちらも買い叩かれる可能性が高いです。差額は他の輸入商に分配したり、生地商組合と分け合ったりするでしょう。
今の生地量組合・輸入商組合による量と価格管理が前提では、領でシルク生糸を生産した所で、どう転んでも買い叩かれる未来しか見えません。あるいは、母や祖父母、生産者の方々は、私とは違う未来が見えているのでしょうか。
思い切って母と祖父母に疑問をぶつけてみた結果、母も祖父母も、現在の輸入生糸の取引価格を基準に皮算用していた事を知って愕然としました。
そこで私が調べ推論した、生地商組合と輸入商組合で支配された生糸取引の世界と、自領生産の生糸を投入した場合の予想を話すと、今度は母と祖父母も考え込んだ挙句、私の予想が正しいだろう、と言いました。
次に、買い叩かれるとしたらどの程度か、について皆で考えました。辿りついた答えは、輸入品と同等品なら「廃業するまで」、高品質品なら「事業が維持できる限界まで、同等品が他国で開発されたら廃業するまで」でしょう。
これは輸入商組合や他の輸入商の感情の問題です。
つまり、生地商組合と輸入商組合に支配された生糸取引の世界では、幾ら領でシルク生糸を生産できても、いずれ廃業する未来しかありません。
これで母と祖父母は心が折れてしまい、シルクの生産開発を止めようかとまで言います。しかし私は逆の発想で、どういう事業形態なら自領生産のシルクが生きるかを考えたいと母と祖父母に提案します。
生地商組合と輸入商組合に支配された生糸取引の世界では無理です。生地商組合以外の取引先を持つ必要があります。個別の生地商と個別取引することも無理でしょう。その生地商が組合から外されいずれ廃業してしまいます。
仮にどうにか生地にして服飾商に持ち込んでも、貴族向けの仕立屋組合と生地商組合が生地取引の世界を支配しているでしょうから、これも無理でしょう。
結局、組合が取引を支配する世界では勝負できないのです。
ここまでは、母も祖父母も納得しました。
では、組合の支配していない取引の世界とは――それは顧客に最終製品を売る世界、つまり仕立屋です。そこはセンスと服飾の品質、販売技術の勝負です。それらが他を凌駕すれば確実な取引ができ、かつ利益は大きいです。
つまり、自領で生産するシルク生糸を活かすには、それを加工して生地にし、さらにデザイナーの下で服飾に仕立て、顧客となる貴族に販売するまでを一手に手掛ける事。つまり原料から服飾まで一貫生産・販売する事業を作らないといけない、という事になります。
この考えを話すと、母も祖父母も意気消沈します。何故かと聞くと、理論的にはそうかも知れないが、そんなもの出来る訳ないだろうと言います。
しかし私はそれを聞いて、こうやって反対されるこの構想は、逆にやれば誰も真似できないので絶対上手く行くと思いました。
こうしてシルク生糸から服飾まで一貫生産する事業構想の種はできました。
母や祖父母へは、「母や私の代で実現できるか分からないけど、止めるのはいつでもできるし、種は蒔いておきたい」と理由を付けて4つお願いをしました。
まず、生糸の質を優先した蚕の研究を続けて貰う事。そして生産者達のやる気の維持と機密保持の為、出来た生糸は我が家で全数買取って欲しい事。買取予算があるので、彼らに沢山作らせないで欲しい事。最後に先ほどまで母や祖父母が考えていたであろう一攫千金の夢を、彼らに諦めてもらう事。
最初の3つは母も祖父母も了解してくれましたが、4つ目は上手く言えないと思うので私から言って欲しい、と投げ返されました。
それって、結局4つ全部私から説明しないと駄目ではないですか?
そう思って母と祖父母に聞くと「そうだね、じゃあ全部説明しなさい」って丸投げされました。
結局生産者の方々には新しい事業構想の部分は伏せて、今のシルク生糸の取引の実態から、このままシルク生糸を取引したときに起き得る事を説明すると、意気消沈されてしまいました。
ただ、いずれ母や私が問題を解決するので、それまでは量産研究を止めて質の向上を目指して蚕の研究を続けて欲しい事、その過程で生産した生糸は全て子爵家で高く買取る事、機密保持の為に他には漏らさない事、を私からお願いしました。
生産者の方々からは、現実が良くわかった、下手に取引に手を出して損害を負うよりは、ちゃんと生活も保障され、頑張って研究を続けられる私の案の方が良い、と納得されました。
ただ、代表の方に「他に負けない高品質のシルク生糸が出来た暁には、是非それを世に出し、私達も豊かになる事業を作ってほしい、その夢があるから頑張れるんだ」と懇願され、私は必ずあの事業構想を形にすることを心に誓いました。
彼らは密かに蚕の改良を続けました。その間私は母・祖父母の協力のもと、領内にいる染色職人や生地織職人から特に口堅い数名を探し出し、子爵家の資金支援で弟子の育成を依頼するなど、構想を物にすべく活動をしていました。
そして数年後――事件が起き、母と祖父母は帰らぬ人となりました。
私が匿われた村は、偶々あの蚕の研究を続ける方々の村から程近い場所でした。なので、私は意識を取り戻し手紙は書ける位に回復すると、あの方々に連絡を取りました。すぐに代表の方が一人で飛んできてくれ、屋根裏のベッドに横たわる私に愕然としました。
母と祖父母が亡くなった事は御悔みの言葉を頂き、あの方々にも見せたかったと、最近作った生糸を見せてくれました。それは光の加減によって複雑な色合いを見せる素晴らしい物で、代表の方も他の産地の物でもあまり見ない会心の出来だと言いました。
ただ私がこのような状態で、また父が当主代理として領主館に居るので、以後は当主代理と話した方がいいのだろうか、と代表は零しました。しかし、彼らは母、祖父母との約束を守って秘匿したまま研究を続け、このような素晴らしい生糸を作ってくれたのです。
事業化して世に出すことを、私がやらねば誰がやるのか。
私が当主として必ず引き続き面倒を見るので、当主代理には私の生存も含めて絶対に知らせない事と、今度はその生糸の量産化、つまり選別や煮繭、操糸の工程の効率化や、副蚕物からの手紡ぎ糸づくりの研究をお願いしました。効率化には道具作成が必要そうなので、木工職人の手配は約束しました。
そして何より、私が必ずこの素晴らしい生糸を使ったシルク製品の事業を作り、皆を豊かにすることを約束しました。
あんなに素晴らしい原料を見てしまったからには、一貫生産の事業構想を実現しなければいけません。やるべき事は山程ありますが、まず私が当主になる事、王都の仕立屋業界事情および物流事情を調査すること、そして私の事業構想に法的問題が潜んでいないかを確認する事。どれも、一度王都に行く必要があります。立ち止まっている暇は無くなりました。
まずは領政補佐――領地経営での領主副官達に連絡を取り、私の生存と所在を当主代理から隠しておく事と、私の当主就任手続のため、各地域の税務報告等の決算用書類作成を指示。あと従僕と身の回りを世話する女性を一人ずつ手配して欲しいとも依頼しました。
整えられた書類を携えて来た従僕を見たら、領政補佐の嫡男オリヴァーでした。文官として領の行政所に勤め始めた筈なのに、なぜ従僕なのかと言うと、「当主には副官が必要だろうと、若くて動けてある程度頭のある男を付けました、との事です。」と領政補佐のメッセージを伝えられました。私にこき使われながら学んでこい、と送り出されたらしい。
身の回りを世話する女性として来たのも、祖父の作った商会の副商会長の次女、ロッティ?「私も、当主様兼商会長様の補佐をしなさいって送り出されました。あと、これを。」と、車椅子を示しました。
二十歳前の動ける若い男女を補佐に付け、車椅子まで用意する時点で、書類が出来れば私がすぐ王都へ行くだろう事とか、いろいろ領政補佐や副商会長に見抜かれている気がします。
書類に問題ない事を確認し、王都出発の手配を始める様2人には指示しますと、案の定2人は私の王都行きを止めることなくテキパキと準備を始めます。
匿ってくれた医者と村の人に最大級の感謝を述べ、傷を押して二人と王都へ向かいました。伯爵領を迂回するルートで乗合馬車を乗り継いでの強行軍は、傷が癒えていない私には辛かったですが、幸い傷が開くことはなく7日後に王都へ到着しました。
宿に入ると、当主要件での貴族省への内密な面会申請を出しました。
申請が通り数日後に直接貴族省長官と面談した所、領で用意していた書類で問題なさそうでした。数日後には貴族省に直接書類を提出し、担当官による聞き取りの後、当主と記載された名鑑の年次記載証明入りの青封筒をあっさり頂きました。名鑑には『所在確認中』と注釈をつけて、私の所在を隠してくれるそうです。
次に、シルクやそれ以外を含めた私の頭の中の事業構想について、法的問題が内在していないか確認するため、商取引を監督する商務省を訪れて法律相談を申請しました。
私の見た目から大した内容ではないと思われたか、1~2年目と思われる若い女性の担当官が現れました。しかしシルクの一貫生産の件だけでも確認内容は非常に多岐に渡ります。私の話す内容を把握しきれないその担当官は、案の定その都度関連部門に確認し始めるので、貴族家当主の時間を無駄にする気か、もっとわかる人間を出してくださいと求めました。
それが何度か繰り返され、省でもかなり有識の部門長らしい男性さえも返り討ちにすると、明日長官と直接面談頂く時間を取るので本日は勘弁願いたい、と若い文官から謝られました。この人は長官付の補佐官のようです。先入観を持たれても困るので、私の見た目とかは伏せてもらう様に頼んでおきました。
翌日、商務省長官・バーデンフェルト侯爵と面会しましたが、今まで会った中で一番博識かつ頭の回る方でした。
長官は私の事業構想に対して抜けている王都側の情報を補完し、内在する思わぬ法的問題を指摘し、解決策を一緒に考え、更に良くなる提案をしてきます。全てが議論の応酬の中で、物凄い速度で構想が纏まり補完されていきます。
補佐官の方が一生懸命議事録を取っていましたが、多分追い付いていないでしょう。
シルク以外の事業構想も話したので会談は4時間にも及びましたが、私にとっては非常に有意義でした。シルクの件は王都の服飾商の業界事情および物流事情についても長官が詳しく教えてくれたので、これで当初の所用がほぼ終了しました。
長官は「子爵の相手は多分自分しか出来ないから、また来るときは直接私宛に申請を出していい」と言ってくれ、連絡先を個人的に交換しました。
翌日は長官から聞いた王都の事情を目で確かめるため王都の各地を視察し、残り2日の滞在予定を切り上げて領へ帰りました。
シルク一貫生産事業構想ですが、基本路線はこのようになりました。
・事業は蚕から繭を作る生産者、繭から生地までを作る工場、生地から最終製品を作る王都の仕立屋の3層構造とする。工場側では必要な作業工程は全て1か所にまとめる。
・生産者も商会員とし繭の生産に専念してもらう。繭の状態で工場に在庫を置いておく。
・生地の色や番手、織り方の種類を一覧表にまとめる。通常時は一覧表から必要な生地と量を店から工場に発注。工場ではその発注に応じて繭から必要な生糸を作り、染色し生地を織り仕立屋に納品する。
・糸の精錬材や染料についても組合からの調達を避け、独自開発する。
・工場側責任者と店舗側デザイナーで定期的に試作等について協議する。工場側ではデザイナーの要望に沿って生地製造するための作業工程を検討し、試作品をデザイナーに提示。これを繰り返し完成した生地は、発注用生地一覧表に追加または不要生地と入れ替えを行う。
・物流を簡素化しかつ機密を保持するため、運送も商会で抱える。領から王都への発送は他の商人の荷物の運送も取りまとめ、王都からの帰り便は領で需要のある王都の物品を買い付け持ち帰り販売することで物流費を確保する。
これを軸に、細かい所は都度調整して行きましょう。
実は一番肝心な所は物流で、これを最優先で構築する必要がありました。何故なら、他は仕立屋が完成し顧客に販売して初めて売上が上がりますが、現時点では仕立屋の準備は殆どできていません。それまでの運転資金を稼げるのは物流しかないのです。
物流については既に長官と協議済で、王都と子爵領の間のリレー物流、各中継地と王都での情報収集と配送、という機能を軸に、単独で物流事業として事業構想を作っています。
この事業構想はロッティと父親の副商会長に相談の上、まず子爵領―王都間の定期便と王都での配送・物品調達および情報収集部門を作るところから始めました。配送については王都での情報等を定期的に領に送り、他の商人に販売する事で実績と信用を作り、徐々に王都への配送と王都での物品調達にも顧客が付くようになりました。
王都の情報の販売と配送・物品購入の代行を王都―子爵領の間の町にも広げていき、それを元手にリレー物流の中継地を作る事を繰り返し、数年後には構想通りの物流を構築して大きく利益を上げるようになりました。
シルクの事業の方は、蚕から生地までの生産は核になる人物を商会で雇用し、あとは領内で人員を確保して教育していく段階で、これは時間が解決してくれると思います。工場から仕立屋までの輸送も目途が立ちました。
問題は仕立屋です。特に中核になるデザイナーと、デザイナーの意図をお針子達に伝え衣装作りを統括するディレクター、それと販売員。これらの人は王都でないと居ないのですが、腕の良い人たちは既存の仕立屋が離しません。
そこで、仕立屋に対して皆が常識に囚われて見落としている点が無いか調べるため、既存の仕立屋について調査・整理しました。
調べてみると、そもそも新規の仕立屋が出来る時は、若いデザイナーを見出した貴族が支援者となる時です。現在の仕立屋組合の大半の店はそうして成り立っています。デザイナーの卵が独力で王都の一等地に店は作れませんし、仕立屋組合も支援者の貴族の後ろ盾無しでは入れません。
お金を出す支援者は大抵貴族当主の男性です。デザイナーが女性だと、自分の愛人を囲ったと見られるので、醜聞を恐れ貴族は女性デザイナーに支援しないでしょう。
貴族社会自体が男性優位なので、この仕立屋業界は基本男性優位の世界です。デザイナーは顧客の男性の予算と意向の中で如何に独自性を発揮するかが勝負です。貴族女性は未婚女性の場合を除いて、基本は隣の男性を立てる添え物の役割の中でお洒落を追求します。販売員の女性も、全体のコンセプトを統括するデザイナーの意向の中で独自性を提案します。
但し王妃殿下など、自らも輝く必要がある場合はこの限りではありません。
ここに私の事業で仕立屋を作るとしたら、どの様な店を置くべきでしょうか。この問題は長官も「子爵の答えを楽しみにしている」と言われたので、自分で考える必要があります。
どうせなら既存の業界に対するアンチテーゼとして。悉く逆を行く店にしましょうか。女性デザイナーをトップに、デザインの主を女性に従を男性に置き、輝く女性とサポートする男性というコンセプト。重視するのは、いかに女性を引き立たせるか。
後はこのコンセプトが受け入れられる素地が、今の貴族社会にあるかどうか。
法的には女性も貴族家当主に就任できますが、母や私の様な女性当主はまだ珍しい存在です。しかし学院の女性カリキュラムも昔の淑女教育一辺倒と異なり、今や女性も領地経営や国政をしっかり学ぶことができると聞きました。(母の時代はカリキュラム移行前で大変だったようです。)国政でも各省庁で女性の採用が徐々に始まっています。
芽吹いているとは言いませんが、兆候は出始めている感じですね。完全に芽吹いてしまうと既存店も女性を立てるコンセプトを出すでしょう。今くらいのタイミングなら、最初にこのコンセプトを打ち立て、先駆者の地位を得ることが可能でしょう。
今の服飾業界に風穴を開け、男性優位の貴族社会にも開けられたらなおいい。
このコンセプトで行けるか、今度長官にぶつけて感触を確かめてみましょうか。
コンセプトが決まれば、次にデザイナーです。コンセプトを考えると女性デザイナーをトップに据えたいので、そういう素養のある女性を探す必要があります。しかし、今は仕立屋業界は男性優位の世界です。
いるとすれば、デザイナーを夢見てこの業界に入ったが、店のデザイナーに受け入れられず腐り掛けている人。あるいは、逆にデザイナーに良い様に使われて不遇の状況にいる人。こういう人たちが狙い目です。
ただ、前者の人達はデザイナーの目に止まっていない時点で、恐らく今まで顧客目線を意識したことがありません。後者の人も、恐らく直接顧客と相対する経験か、縫製の経験がどちらかが少ないと思います。数少ない使えるデザインもデザイナーに盗用されているでしょう。
顧客経験と縫製経験のどちらも経験豊富な、良いデザイン案を出せる女性であれば、私がデザイナーであれば間違いなく囲い込みます。難しいと思っておいた方が良さそうです。
トップデザイナーに求められるのは高いデザイン性と、それを顧客の要求に上手く統合させる感性、更にそれを素材と作業工程に落とし込める経験。引き抜きできそうな人は、これらのうち1つまたは2つが欠けていると思っておきましょう。
デザイナー候補を引き抜いてから、店を打ち立てるまでの間に彼女達にそういう経験を徹底的に叩き込む必要があるのです。鍛え上げてトップデザイナーを作るのです。
高いデザイン性は、良質なデザインを数多く見る事で磨いていくしかありません。これは何も服だけではなく、美術品や工芸品など芸術作品を見ていくことも重要です。これは、候補たちを私が連れて一緒に見て回るのがいいでしょうか。
顧客経験と素材と作業工程への落とし込みは、候補たちに実際に私の服を自分でデザイン、裁断、仮縫い、縫製して実際に一から作ってもらう経験を重ねるのが一番です。練習ですから、まずは木綿とか、比較的手に入りやすい生地で数をこなすのがいいでしょう。外に出せるレベルになって初めてシルクを使わせます。
まだ、何か抜けていると感じました。・・・そうだ、販売員。顧客目線を理解し、顧客の要望を上回る提案が出来る販売スタッフは貴重です。これも、一流の人は店が囲い込んで離さないでしょう。鍛え上げるには、実際の顧客対応経験を積ませていくしかありません。リスクの少ない所で実際の顧客経験を積ませ、段々高級路線に持っていく必要がありそうです。
リスクの少ない所・・・そういえば、最近省庁でも女性省員が増えてきたという事ですが、女性の皆さんは制服を着用されています。女性があの場で身に着ける服の種類が少ないと言う事なのでしょうか。そうであれば、節度がありつつ女性を引き立てる、仕事着の既製品を売る店を作るのはどうでしょうか。
これなら、デザイナーも顧客目線とコンセプトを活かすデザインの勉強になりますし、販売員も鍛えられます。顧客は貴族だけではないので煩い組合の影響は少なく、素材も比較的手に入りやすい物を使えばいいでしょう。更に、女性が輝く機会が増えることで、最後の仕立屋のコンセプトの後押しになりそうです。
長官と法律相談で面会し、女性向け仕事服の店のコンセプトを伝えると長官は「面白いかもしれない」と言いました。省の規定でも『落ち着いた色の、仕事に支障を来さないもの』とあり、他に選択肢が無いだけで実は女性の制服の着用義務は無いようです。これは後で、若い女性の省員を捕まえて聞いてみてもいいでしょう。
仕立屋のコンセプトは、女性の仕事服のコンセプトが広がって世間の女性を見る目が変わってきたら、既存の仕立屋も出してくるかもしれないので、タイミングが重要ではないかとの事。
最初に法律相談を担当した女性省員に、あとで面会を求めて聞いてみました。どうも、制服を着なければいけないと言われて着ているが、市販の服で仕事着として使えそうな服はなかなかなく、他に無いから仕方ないとの事。女性が少ないため制服も全部の省庁で統一されており、運用として首に巻くスカーフの色で所属省庁を見分けるらしいです。
店のコンセプトと重要な人員の採用方針が決まったので、早速動き出しました。
商会の王都での情報収集の人員を使って噂を拾いあげていき、不遇な状況にある女性デザイナーの卵を5人程見つけました。彼女達を引き抜き王都の商会にて匿って、泊まり込みで教育を続けさせました。木綿生地で良い物ができ始めてから、女性向け仕事服の店のコンセプトを彼女達に伝え、女性の仕事を実地見学させた後でデザインを作らせました。
女性向け仕事着の店は、人通りの多い比較的治安の良い場所でオープンさせました。生地は仕入れますが縫製は商会で抱えました。うちの商会内部で働く女性たちの間で売りに出す前から火が付き始め、売り出すと商会や省庁で働く女性にもあっという間に広まり始め、思った以上に売上を伸ばしました。
ここでデザイナーの卵達のうち2人が、仕事着の店のデザインに専念したいと申し出てきました。貴族向けの仕立てで勝負するよりこちらの方が性に合っている、とのことで、表情も晴れやかでやる気に満ちているので、快諾しました。
火の付き方にこれは予定を早めたほうがいいと感じた私は、残りの3人にうちの領で作ったシルク生地を使わせ始めました。3人は見たことのない生地に驚き、火が付いたのか次々とデザイン案や生地の案を作成していきます。彼女達の作成するデザインや生地のアイディアの中で一際目を引いたのが、今まで5人の中で一番目立たなかったフェオドラの案でした。
シルク生地を使った実地教育も進め、ある時、最終試験として3人に試験を課しました。商務省長官と奥様に内密に来てもらい、3人に同じテーマで仕立服を注文してもらいます。最終的に最もコンセプトに沿い、侯爵という爵位に相応しく、かつ実際に二人で着て社交に出たいと思ったものを長官と奥様に選んでもらいます。基準に満たなければ選ばないのも有りだと長官には伝えました。
実際に忙しい高位貴族である長官と奥様のご負担を考え、仮縫いは全員同じ日に1回だけ、お互いのデザインが見えない様に別々に行うこと、等のルールを決め、3人に競って頂きました。
ここまで来ると私は店に顔を出さず、3人に口も出しません。
私が店に関わっているのを知るのは長官だけで、オープン前の仕立屋に服を仕立ててもらう機会が出来た、とだけ奥様にお知らせ頂きました。
試験の結果、残りの2人の物も良かったのですが、二人共に大絶賛したのはフェオドラの仕立てでした。旦那様とのデザインの一体感を損なわないまま、女性の方を華やかに立てるコンセプトを、奥様は非常に気に入って下さりました。
他の2人の作品も悪くなく、社交に着て出られそうとの事だったので、お2人には1揃えの料金だけ請求し、試験の完成品3揃え全てを屋敷にお贈りさせて頂きました。
試験後3人と面談しました。試験の結果、今回はフェオドラが選ばれたと伝えると、3人共ハッとした顔をします。フェオドラには胡坐を斯いてはいけない事、残りの2人にもこれからもチャンスがある事が伝えたかったのです。
そこで、今回の店はフェオドラをトップデザイナーに、残りの2人をディレクターに置く体制でいくが、2人もこれから才能が花開けば別の仕立屋を立てることも出来るので、今後とも研鑽に励んで欲しいと伝えます。3人は快諾しました。
『フラウ・フェオドラ』と冠した仕立屋の開店セレモニーには、長官の奥様の伝手にも頼り多くの高位貴族を招きました。その中に私がフェオドラに内緒でご招待した貴族――シュバルツァー伯爵夫妻もいらっしゃいました。
実はフェオドラは伯爵の末娘で、デザイナーを夢見ていたものの男性社会の仕立服の世界では無理だと伯爵に大反対され、家出してある仕立屋に住み込みの下女として入ったそうです。貴族の御令嬢でそこまでの行動力と覚悟は見上げたものです。その後努力してお針子の一人になりましたが、男性ディレクターの下で長く燻っている時に私の誘いを受け、今に至ります。
伯爵は長く行方の分からない末娘を案じていたのですが、今度開く仕立屋のトップデザイナーとしてフェオドラのお披露目をするので、夢を叶えた晴れ姿をぜひ見て頂きたい、と直接お伺いして私から事情説明し、お披露目にご招待しました。フェオドラにはお披露目の後、その日はご家族と水入らずの時を過ごしてもらいました。
働く女性を見る目が変わり始めた時流にも乗って注目を集めた、女性トップデザイナーによる貴族向け仕立屋『フラウ・フェオドラ』は、順調に業績を伸ばしていきます。
驚いたのが既存の仕立屋組合と属する仕立屋のデザイナー達です。予兆もなくいきなり出来た仕立屋が勢力を拡大し、しかも見たことのないシルク生地を使っています。組合幹部が店に押しかけましたが、予約客で引きも切らない店側は「ご予約の無いお客様は御引取下さい」と追い出しました。 こういう事は想定済のため、手引書を作って対応訓練まで実施済です。
対応に困った組合側は、今度は破落戸を雇って店を包囲し営業妨害を始めましたが、これも想定済で、商会の物流事業の護衛の人員を使って追い払いました。
生地商組合も驚いたのか『フラウ・フェオドラ』に押しかけ、生地の出所を明かす事と、組合を通して生地を調達するように迫りましたが、そうすべき法的根拠が無いと突っぱねました。
困った仕立屋組合・生地商組合は輸入商組合を巻き込んで、三組合に対する妨害行為として『フラウ・フェオドラ』の営業停止を商務省に申し立てました。しかも、後ろ盾として複数の高位貴族の名前があります。
――商務省の一室で、その申し立てに対する調停がこれから行われます。
申立側には仕立屋組合長と幹部数名、有力仕立屋の代表デザイナー数名。生地商組合長と幹部数名、有力生地商の商会長数名。輸入商組合長と幹部数名。
被申立側はリッペンクロック商会から商会長の私、副商会長、物流部門統括フリッツ、『フラウ・フェオドラ』部門統括フェオドラ・シュバルツァー。
これを、申立側の後ろ盾となった高位貴族数名と、こちら側からは貴族省長官でもあるミュンゼル法衣侯爵、そしてシュバルツァー伯爵が傍聴します。
長官が来て始める前から、生地商組合長が私を睨みつけてきます。
「この場は子供の居る場ではない、さっさと出たまえ。」
「私はリッペンクロック商会長であり、『フラウ・フェオドラ』を含めた事業の統括責任者です。相手が誰か確かめもせず、挨拶もしない無礼者こそ出て行ったら如何ですか。」
私の返答に申立側の全員が目を剥き、すぐに蔑んだ目で見ます。
まあこの見た目では見くびられますか。
「お飾りは黙って出て行ったらどうだ。」
「事業の統括責任者と言ったでしょう。随分耳が悪いようですが、お医者様を紹介しましょうか。」
「こ、この小娘がっ・・・!」
仕立屋組合長が激高して立ち上がったところで、長官と補佐官達が入室します。慌てて組合長は着席します。
「では早速始めよう。申立状には目を通しているが、改めて申立側には内容とその理由を述べてもらいたい。」
長官の開始発言に、申立側を代表して仕立屋組合長が発言します。
「はい、仕立屋組合組合長ローレンツ・オットマールと申します。
我々仕立屋組合は適切な競争をしながらも貴族の皆様に安定してお仕立服をお届けするため、生地商組合の方々と長年協力してシルク生地の安定供給の体制を構築してきました。そのために、生地商組合の方々も輸入商組合の方々とも協力体制を築き、貴族の皆様のため安定したシルク生糸の輸入に努めてきました。
しかし。先頃から『フラウ・フェオドラ』なる、我々組合の関知しない仕立屋が現れまして、出所不明の高級シルク生地を元に商売を始めました。これにより、我々が長年築いてきたお仕立服の安定供給に陰りが出て、貴族の皆様へ御迷惑をお掛けしてしまう事になります。
つきましては、我々仕立屋組合・生地商組合・輸入商組合は、連名にて以下要求を申し立てます。
一、『フラウ・フェオドラ』の営業停止処分。
一、『フラウ・フェオドラ』へ供給される生地の出所の開示。
一、生地を輸入している場合は、生地商組合への生地の供給。生糸を輸入している場合は輸入商組合への生地の供給と、生地商組合への生地加工業者の提示。
一、仕立服の安定供給体制を脅かし損害を与えた事に対する、三組合への損害賠償。
以上となります。」
店を畳んで、損害賠償を払って、生地を寄こせ、ですか。
「申立側の主張は理解した。対して、被申立側の反論を聞こう。」
「はい、リッペンクロック商会長、イルムヒルト・リッペンクロックと申します。
我々の長年にわたる研究成果として、実は国内での蚕の飼育と良質の生糸の生産に成功しました。ですが、長らく輸入生糸の安定供給に尽力する輸入商組合には、我々の生糸は、我々の希望価格では受入れられないと考えました。これを我々が独自に生地にして販売した所で、今度は輸入生糸から作った生地の安定供給を図る生地商組合にも、同様に希望価格では受入れられなかったでしょう。
そこで我々は蚕から生糸を作り、染色し、生地を織り、お仕立てして貴族の皆様にお仕立服をお届けするまで、一貫体制を苦心の末に商会独自で整えました。
その為、我々も大規模商会となり、商務省に決算報告を提出しておりますので、詳細は決算報告の中でご確認頂ければと思います。」
一商会による蚕から仕立服までの一貫生産など、申立側の想定外だったでしょう。申立側も傍聴者も全員驚いています。
この事業と物流事業によって規模が拡大した商会は、国に届け出が必要な大規模商会に繰り上がってしまいました。国への決算報告と納税義務が厳しくなります。決算報告は申請すれば別の商会でも閲覧可能なため、我々がそういう事業形態であると調べればわかるようになっています。
「自前で蚕からの一貫体制を商会で持っているため、輸入生糸から仕立服を届ける現在の三組合の体制を、些かも脅かすものではありません。どの仕立屋が貴族の皆様に受入れられるかは、それこそ適切な競争の範囲内です。
ですから三組合の申し立ては、仕立屋同士の適切な競争に敗れた組合体制の側が、我々の適切な商活動を妨害するために行われたものと判断します。実際、数々の不当妨害行為を受けておりまして、当方の被害と調査結果について、長官に提出致します。」
長官と申立側、傍聴者に1枚ずつ、同じ内容の報告書を配布します。
報告書には店への妨害行為や店への配送員に関する妨害行為について、いつどこで発生し、対象者、もしくは破落戸等による被害であれば依頼者を特定した結果まで記載しています。
報告書を回覧し、申立側は読んだ人から蒼くなっていきます。逆に傍聴者側は読んだ方から赤くなっていきます。対比が面白いです。
「三組合側の申立が不当であることを証明するために、止む無く生地の出所を開示しました。しかし他の申立内容は不当であり、法的根拠が無く、適切な商取引を妨害する物であると主張させて頂きます。
従いまして、反対にこちらから仕立屋組合・生地商組合の二組合に対しまして、以下申立をさせて頂きます。
一、『フラウ・フェオドラ』および商会物流部門への、組合員含めた不適切な営業妨害行為の停止。
一、加えて。不法な妨害行為については担当者の追放。
一、信頼関係を失った両組合及び構成する各商会・仕立屋と、当商会との取引停止。これは、王都-クロムブルク(リッペンクロック子爵領都)間の中継地を含む当商会の拠点間物流、及び王都・各中継地の配送業務に係る全ての契約、および地域レポートの販売契約の全てを含む。
一、全ての営業妨害行為に対する両組合からの損害賠償。
以上です。」
予め作成済だった申立書を、長官と申立側に1枚ずつ提出します。
特に生地商組合にとっては3番目が大きな痛手となるはずです。案の定、特に生地商組合の皆様は土気色です。
「ぶ、物流事業の取引停止だとっ、これは大規模商会による不当な圧力だ!」
生地商組合長が声を上げます。
ここで長官がようやく口を開きます。
「双方の主張は出揃った。
組合側の主張であるが、商会側によって不当に脅かされたとは言えない。
むしろ健全な仕立服同士の競争によって被った組合体制側の損失を補填し、なおかつ業界の独占的地位の確保を目論む不当な申立と言わざるを得ない。実際に商会に対して不当、もしくは不法な妨害行為に及んだ者もいるようだ。
但し被申立側の商会についても、公共性の高い事業の取引停止まで及ぶと、組合側の構築している安定供給体制を脅かすものになりかねない。」
長官のこの回答は想定内です。高い公共性を事業のどの範囲までと認識するかが問題です。
「商会側の方の申立を認めるが、王都-クロムブルク間の拠点間物流と、王都以外の拠点内配送業務の契約停止は却下とする。
王都内の配送業務は実際に被害を受けている事、またレポート提供契約は付帯業務であり高い公共性は認められないことから、これらの契約については3年間の契約停止を認める。
商会から損害賠償の算定書が届き次第、吟味の上で正式に処分を通達する。
なお、不法な妨害行為については先ほど商会から提出のあった書面を憲兵隊に提出し、正式な捜査を行うものとする。」
ここで生地商組合長が声を上げます。
「今までにない高品質の生糸や生地を商会が独占していることについて、独占禁止と我々への提供を再申立致します!」
「却下する。独占的地位を拡大解釈することで、生地商組合が独占的地位の確保を目論むものと見做される。商会の一貫体制はそれを防ぐために研究開発した成果であり、商会の正当な権利と認められる。」
組合側も同等の物を研究開発する手段は持っているのですから、これは当然です。
「以上、本日の審査を終了する。解散。」
長官が終了を宣言し、補佐官達と退出していきます。
組合側は傍聴席の高位貴族達の後ろ盾により、一仕立屋を潰して生地の取引先を奪いたかったのでしょう。
ですが我々は、蚕から仕立服までの一貫生産体制と、それを支える物流組織を抱える大規模商会にのし上がりました。私達を潰すのは例え高位貴族達であっても無理です。その様な事をすれば影響範囲が大きすぎて、実行すれば逆に貴族達の醜聞になります。
加えて簡単に足が付いた不法行為にまで及んでいれば、逆に泥を塗られた形になった高位貴族達の怒りを組合側は買ったことになります。高位貴族達の怒りは仕立屋・生地商の両組合に向かい、組合幹部達の総辞職で落ち着くでしょう。
輸入商組合は今回の事で申立側には加わりましたが、間接的に損失は被ったものの我々と直接の利害関係は無く、妨害行為にも及んでいません。彼らは適切な競争相手として、我々の生糸に負けない品質の生糸を輸入できるよう頑張ってくれればいいのです。
商務省から帰路に就く馬車の中で、皆に申し出ました。
「想定内とはいえ、申立の審査会は終わりました。ここまでの事業を作り上げられたのは、商会の皆さんの努力のお陰です。さて、これで当面は事業に集中して取り組めると思いますが、今日くらいは皆さんを労わせてください。」
「商会長、領の蚕生産者達や工場の皆も労ってくれよ。」
「また今度、物流の皆を労う場を設けてください。」
「仕立屋のみんなも、商会長に労ってほしいですわ。」
商会の皆が協力してくれて現在があります。それ位はさせて頂きますよ。
今は皆で勝利の美酒を味わいましょう。
でも私にお酒を飲ませるのは止めてくださいね。
既存の業界は工程毎に組合を作って余所者を締め出していたので
主人公は全工程を垂直統合して対抗しました。
一言で言うとそんな話。
もしシルク生産の話を王家に持ち込んでいたら
自国生産の話は残ったと思いますが
利権は全て王家に取られていたでしょう。
ちなみに、実際のシルク服業界には全く詳しくないので
変な点があったらごめんなさい。
次回は通常の話に戻ります。





