01 王宮での卒業パーティーに招かれました
王国の将来を担う貴族や優秀な平民の子女が学ぶ王立学院。
本日は、3年間の課程を経た卒業する学院生のための、卒業記念パーティー。
領政や国政などの実務に入っていく卒業生達と、今後仕事で関わる上役たちとの顔合わせ等も含めた社交の場という性格も持っています。
その為このパーティーは、定例で開かれる社交イベントの中でも規模の大きい部類に入ります。
例年であれば会場は学院の大講堂であり、卒業生以外の学院生はほぼ全員が運営やスタッフとして参加する、学院中が大忙しのイベントとなります。
例外として卒業生の婚約者がいる場合はパートナーとして招かれるため、スタッフとしては参加できません。
ところが、今年は王族の卒業生がいるために卒業生以外の外部参加者が予想以上に増えてしまい、大講堂ですら入りきらなくなり、王宮大広間での開催に変更されました。
そうなると今度は、下級生全員をスタッフとして使う事に待ったがかかりました。
警備上の理由から多数の学院生を王宮に入れるわけにもいきません。でも下級生にスタッフとして働いてもらうのも、教育の一環としてのことです。
上層部の葛藤の結果、妥協点として下級生は成績優秀者のみ、王城の使用人の指示の下で働くことで経験を積ませることになりました。
王城の仕事を実地で経験できるとあって、選ばれた一部の学院生は歓喜したそうです。選ばれなかった人は悔しがる人もいれば、休日扱いとなって喜んでいる人もいるとか。
私、イルムヒルト・リッペンクロックも学院に籍を置く1年生です。先日16歳になりました。
私も今日はパーティーに来ていますが、成績優秀者としてスタッフ参加というわけではなく、婚約者もいないので、パートナーとして招かれたわけでもありません。
この1年、私自身は事情があって学院には通っておりませんが、2年先輩にあたるバーデンフェルト侯爵の御令嬢アレクシア様に何度か学院にお招きいただき、お話させて頂いた事があります。
今回はその時のお礼をしたいとのことで、来賓として御招待を受けました。アレクシア様やその御友人の方々には大変懇意にして頂きました。
ちなみにアレクシア様は、卒業生代表――エドゥアルト第二王子殿下の婚約者でいらっしゃいます。ですが何度か学院にお招き頂いた際には、殿下やその側近の方々とはお会いしていません。
なので、パーティー後に殿下や側近の方々を交えた『会合』をしたい、とアレクシア様から伺っております。
私としてはパーティーよりも、その後の打合せの方が主目的だったりします。
折角のパーティーです、侍女達には華やかな装いを提案されましたが、私が切にお願いし、地味目に抑えてもらいました。
侍女達の気持ちもわかります。
でも――ここは王宮。王宮には『アレ』が居るのです。
変に目立って、『アレ』に目を付けられたくありません。
私が抱く複雑な葛藤は、誰にも知られてはいけない秘密なのです。
この会場には、御招待頂いたアレクシア様や御友人の方々以外の顔見知りはほとんどいませんし、更に目立たない装いで壁の花になっていれば、積極的に私に声を掛けてくる人は現れません。私から話し掛けに行くことも、しません。
何故なら、誰がどこで『アレ』と繋がっているかわかりません。
不意に『あの男』と会ってしまうのも困ります。
それなら最初から社交的に動かなければいいのです。
壁の花になってパーティーを眺めていると、金髪碧眼の青年が広間の奥の段に一段上がり、卒業生代表挨拶を述べているが見えます。
あれがアレクシア様の婚約者、第二王子エドゥアルト殿下でしょうか。
声を張っている殿下の一段下に、殿下の3人の側近達が並んでおられます。
側近は一人だけ御令嬢をお連れのまま立っています。
アレクシア様に聞いたところによると、3人の方が側近として殿下と行動しているそうです。
宰相閣下の三男、デュッセルベルク侯爵令息ウェルナー様
第三騎士団長殿の次男、エルバッハ侯爵令息リッカルト様
元農務省長官次男、エッゲリンク伯爵令息ヨーゼフ様
ウェルナー様・リッカルト様それぞれの婚約者の方はお会いしたことがあるので、側近の方と居る、見覚えのない御令嬢は・・・あの方が例の方なのですね。
では御令嬢を連れておられる方がヨーゼフ様ですか。
とすると、細身長身の眼鏡の男性がウェルナー様、背が高くガッシリした体型の方がリッカルト様で間違いないでしょう。
この後の進行としては、フロアを広く開けて卒業生のダンスになるのでしょうか。
アレクシア様や、ウェルナー様・リッカルト様の婚約者の方々も脇で控えていらっしゃいます。ヨーゼフ様だけが御令嬢を伴っていらっしゃるのが違和感を覚えます。
挨拶が終わろうとしたところで、殿下が一際声を張り始めます。
「――以上で挨拶を終わりたいところ、折角の祝いの場で申し訳ないが、貴族の子息令嬢の学び舎たる学院に相応しくない者が1名いる。卒業に当たって学院を正常に戻すため、その者を詮議するので この場をお借りしたい。
イルムヒルト・リッペンクロック!
今日この場に来ているのはわかっている!
問い質したいことがある故、我が前へ出て跪け!」
・・・え?私?