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「――――」

 開いた輸送ボックスの中身を見て、トキヤは言葉を失った。

 何故なら、その箱の中身はトキヤでさえ。

 ……これは、人間の死体、なのか……?

 と、一瞬、考えてしまうようなモノだったからだ。

 独特の冷気が漂う箱の中で赤と黄色のヒヤシンスに囲まれ、ピクリとも動かず、目を瞑る紫色の髪の少女は、まるで本物の死体のように見え、トキヤは僅かにたじろいでしまったが。

「……違う。こいつは、――――JDだ」

 すぐにトキヤはそれが人間の遺体ではなくJDであることを見抜いた。

「……まさか、ガワだけでなく中まで棺を再現しているとはな。これは悪趣味が過ぎ……いや、統合知能(ライリス)が破壊され、死んでしまったJDが使っていたボディへの敬意の表し方としてなら……理解できなくもないか」

 と、トキヤは最初、これを送りつけてきた人間のことを非常識だと思ったが、その人物はもしかすると自分に近い感覚を持った人間なのかもしれないと考えを改めた。

「しかし、首都から基地(ここ)に送られてきたということは葬るのではなく……再利用をするってことだよな。見た感じ顔以外はカスタマイズされていない人工筋肉搭載型(ヒユーマンフェイカー)のようだが、この身体を扱う人格データはどうなっているんだ……?」

 そして、トキヤが箱に入っているJDを触り、このJDがどういう状態なのかを確認し始めると、トキヤの背後から興味津々といった感じでその様子を見ていたアイリスが声を上げた。

「ねえ、トキヤくん、もしかして、これが冷凍睡眠っていうやつなの? 箱の中からすっごく冷たい空気が出てきてるけど」

「いや、これは違う。単純に砂漠の暑さで内容物が壊れないように冷やされているだけだ。これは輸送ボックスに付いている冷却機能で、改造しなければそんなに長い時間は持たな……って何だ、この花の下に隠れてた増設用のバッテリーユニットは。これだけ改造されてれば一ヶ月は持つぞ。……これを送ってきた奴は何を考えている……?」

 棺ごと砂漠に埋めてJDの即身仏でも作れというのか。と、このJDの送り主の意図が再びわからなくなったトキヤは。

「……」

 取りあえず、手当たり次第に箱を開けてみることにした。

「――――」 

 そして、トキヤは手近にある箱を次々と開け。

「……」

 五つほど開けて、開けた箱の中身が全て紫色のウルフカットが特徴的な女性型JDであることを確認した。

 それらの箱に入っていたJDは皆、同じ顔をしていたが……。

「……同じなのは、顔の造形だけだな」

 全く同じJD。というわけではなかった。

「身体、首から下は全部違う。それに、一つ目の箱以外はハイブリッド型か……」

 となると、あの人工筋肉搭載型(ヒユーマンフェイカー)に何か秘密があるのか? と、トキヤが最初に開けた箱に視線を向けようとした、その時。

「トキヤ様。何か問題でも……」

 少し離れた場所でサンを優しく諭していたシオンが砂上で次々に輸送ボックスを開封するトキヤの姿を見て、緊急性の高い問題が起きたのではないかと推測し、すぐにトキヤのもとへと駆けつけ。 

「これは……」

 シオンは棺のようなカラーリングをした輸送ボックスの中身を見て、困惑の声を上げた。

「ああ、シオンか。丁度良かった」

 そしてトキヤは、箱の中身を弄ろうとするサンを制止するアイリスの姿を一瞬だけ瞳に映した後、近くに来たシオンに声をかけた。

「なあ、シオン。俺は花の種類とか全然なんだが、この中に入っている赤と黄色の花って、ヒヤシンス、だよな? この荷物の送り主は輸送ボックスで棺を再現しようとしてるっぽいんだが、この国って葬儀の時にヒヤシンスを供えたりするのか? 国花ってわけでもないよな?」

「はい。ヒヤシンスは国花ではありませんし、葬儀に使われることもあまりないと思われます。ただ、ヒヤシンスは香りが控えめな品種が多いので、強い香りを好まない遺族の方が供えられることもあり、全く人気が無いというわけでもありません」

「そうか。じゃあ、単純に送り主の趣味なのか……? ちなみにヒヤシンスの花言葉ってなんだ?」

「赤が嫉妬。黄色が勝負です」

「……嫉妬に勝負」

 何か意味深だな、と、トキヤが僅かにこの百基の棺に不信感を抱いた、その直後。


「――――んー、これは、緊急事態ってわけじゃなさそうだけどなー」

 

 と、聞いたことのない少女の声が静かな砂漠に響き渡り。

「なっ……!?」

 トキヤ達から少し離れた場所にあった輸送ボックスの蓋が轟音と共に吹き飛んだ。

「……!?」

 その想定もしていなかった事態を前にトキヤが目を点にしていると。

「――――トキヤ様。私から離れないでください」

 すぐにシオンがトキヤを守るように前に出て。 

「――――トキヤ!」

「――――トキヤくん!」

 少し遅れて、サンとアイリスがトキヤの両横に立ち、それぞれが得意とする銃器を構えた。

「――――」

 シオンだけは武器を構えることはしなかったが、それでもサンとアイリスに武器を下ろすようには命じず、まっすぐに異常の起きた輸送ボックスを見つめ。

「――――」

 幽鬼のようにゆらりと棺から起き上がるその存在を瞳に捉えた。

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