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「……」

「……」

 トキヤの食事中に、マトンカレーを回収しにきたレタが乗っていた特殊重機が、簡易キッチンを破壊しそうになるというトラブルがあったものの、トキヤはシオンが用意してくれた食事を完食することができた。

 そして、食事を終えた後、トキヤはここにいるJDの長であるシオンに現時点での前線基地攻略プランを語った。

 その攻略プランを聞いたシオンは、怒りに近い感情を宿した瞳をトキヤに向け。

「――――危険すぎます」

 強い口調でそう言い放ち。

「……と、私は、この話を始めてから何度言ったのでしょうか」

 十二回ですね。と、自嘲するように笑い、肩の力を抜いた。

「……いいのか?」

「トキヤ様から作戦指揮を任すと頼まれ、それを拒絶したのは、私です」

 今更、否定することなんてできません。と、その言葉に少しの後悔を滲ませながら、シオンは小さく頷き、トキヤの攻略プランを受け入れた。

「それに、JDの私ではこのプランを思いつくことは決してなかったと思います。ですから、きっと、トキヤ様が考えたプランだけが、最悪の敵と交戦することになっても、勝利することができる方法なのだと思われます」

「……迷惑を掛けるな」

「いえ、これは決して迷惑ではありません。むしろ、逆です。この作戦であるからこそ、私は、自分の性能を最大限に発揮できると思われます」

 現時点で既に、戦意の高まりを感じています。と、自分の胸に手を当てたシオンが力強く言った。

「……そうなのか?」

「はい。何故なら、私は今まで、例え、自分が作戦中に機能停止したとしても、トキヤ様達が無事ならば問題ないと思っていました。けれども、この作戦内容では、私は最後まで機能を停止することができません。ですから、私は次の戦闘では――――」

 そして、シオンは。

「――――私の全てを賭けて戦い、そして、生き残ります」

 主君に仕える騎士のように誓いの言葉を口にした。

「……期待している」

 そして、その誓いの言葉を確かに受け取ったトキヤは小さく頷いてから、席を立ち、シオンに背を向けて。

「……そういえば」

 トキヤは少しの逡巡の後、口を開いた。

「……シオン、一つ聞きたいことがあるんだが」

「はい、何でしょうか?」

「……お前の好きなものってなんだ?」

「……?」

 そして、トキヤの口から出て来た言葉は、シオンでさえ若干戸惑ってしまう、脈絡のない質問だった。

 だが――――

「――――」

 背を向けたトキヤの表情は見えない。けれども、その手を見ただけで、シオンは全てを理解した。

「……」

 小刻みに震える青年の手。その握り拳には、溢れんばかりの恐怖と不安が握られていた。

 次の作戦で、一番負担が掛かる人物は誰か。一番勇気が必要な人物は誰か。それをシオンは知っている。

 シオンは基地から逃亡する際に、トキヤがアイリスを庇おうとした瞬間を目撃していた。

 それは咄嗟に身体が動いてしまうという、あまりにも優しく、儚い行動をトキヤがしたとシオンは把握しており、それは緊急時に半ば無意識の内に行われるもので、平時かつ冷静な頭ではそういった行動をするにはそれ相応の覚悟が必要になるとシオンは推測した。

 故に、この質問は、トキヤがその覚悟を固めるために、脅威に立ち向かうために必要な質問だと理解したシオンは、その理解を隠し、純粋にその質問に答えるために口を開いた。

「……そうですね、私は花が好きです。後は、紙などの人の歴史を感じられる道具も好きです」

「ああ、そういえば、前にそんなことを言ってたな」

「けれども」

「……?」

「私が、一番、好きなのは――――」

 そして、シオンが語った一番の思いは。

「――――」

 確かに、トキヤの心に届いた。

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