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「……」

 自分の名前を呼ばれると、アイリスは手を下げてからトキヤに少し近づき、ゆっくりと、その尖らせていた口を開いた。

「ねえ、トキヤくん。わたしね、戦う覚悟はあるかー。って、トキヤくんがみんなに聞いてたこと、最後(トリ)に聞かれるのかなーって、凄くワクワクして待ってたんだけど、……なんで声を掛けてくれなかったの? ……まさか、わたしだけお留守番、なんてことはないよね?」

「……そ、それは状況次第、というか……」

「……やっぱり、わたしを出す気が無かったんだ。なんで? わたしが鋼の獅子(あの子)がいないと戦場に立てないぐらい脆いJDだから? もしそうなら、さっき、補給物資の話をしてたよね? 鋼の獅子を首都から送って貰うことって、できないのかな?」

「う、ん……、パーツを送って貰うことはできるだろう。だが、あの獅子の形態にするにはかなりの技術が必要で、並の技師では造ることすら難し……」

「兵器なら何でも作れるレタさんがここにいるよね?」

「いたなー。なんでもつくれるレタさんいたなー。部品と器具さえあれば一晩といわず、数時間で獅子作れちゃう人いたなー」

「ふざけないで」

「……すまん」

「……トキヤくん。どうして、わたしを出してくれないの?」

「……」

 そして、最初は怒っていたアイリスだったが、トキヤが何かと理由をつけて自分を戦場から遠ざけようとしていることに気がついてからは、その声音はただただ悲しいものになり、その目には涙が溜まり始めていた。

「ア、アイリス……」

 そんなアイリスを見たトキヤは、もう右往左往することしかできない木偶の坊以下の存在に成り果て――――

「――――トキヤ!」

 そんなトキヤを叱りつけるような、大声が部屋中に響き渡った。

 その声の主は、人間のレタでもなければ、ここにいるJDのリーダーであるシオンでもなく。

「……サン?」

 金髪と碧の瞳を持つ、とても明るい、それこそアイリスによく似た性格をしているJD、サンだった。

 サンは、頬を膨らませることで怒りを表現しながら、部屋の中を歩き始め。

「……むー」

 不服そうな表情をトキヤに向けながら、アイリスの隣に立ち。

「えっ……サン、ちゃん……?」

 サンは、ぎゅっとアイリスの身体を抱き締めた。

 そして。

「トキヤ! これは、ちょっと、酷いと思うな!」

 サンはアイリスの身体を抱き締めたまま、トキヤを強く叱りつけた。

「お、おう……?」

 無邪気で明るいJDのサンから本気で怒られるという想定外の出来事に先程とはまた違う理由からトキヤの思考が止まり、その間にサンが言葉を続けた。

「サンはね、アイリスのこと大好きだけど、正直にいうと、アイリスのことを羨ましいなあって、ずっと思ってた。……だって、アイリス、いっつもトキヤに心配されてるんだもん! いっつもトキヤ、アイリスばかり見てるんだもん! アイリスが一番大事にされてて、ずるい! と思ってた!」

「……サン、ちゃん」

「けど、今の二人の話を聞いてて、何か違うって思った! トキヤは大事にする方法を絶対に間違えてる! これじゃ、逆にアイリスが可哀想だよ……!」

「……サン、お前」

 そのサンの悲痛な叫びに、トキヤは心打たれ、同時にサンがこれ程までにアイリスのことを思っていてくれたことに、心の底から感謝した。

 そして、サンの一喝で気持ちの整理が付いたトキヤは、何にしても曖昧な態度をとってしまったことを二人に謝罪しなくてはいけないと考え、すぐに口を開いたのだが、それよりも早くサンが次の言葉を繰り出し。

「アイリスはサン達と同じJD(・・・・・・・・)で、しかも、戦いたがってるんだよ!? 多少、装甲が脆くたって戦場に出させてあげることが、アイリスのためになるんじゃないのかな!?」

 サンが、トキヤの心に、なにか、とても引っ掛かる発言をした。

「……」

「……? トキヤ、何か急に変な顔になったけど、どうかした? え、バル、何? ……こっちに来い? なんで?」

「……」

 サンはとても無邪気なJDであり、バルのように腹芸をすることは不可能だと、トキヤは断言できる。

 そして、そんな真っ直ぐなサンが、本気で先の台詞を言っていた。それはつまり。

 ……サン、お前、まさか、本気でアイリスのことをJDだと……。

「……そろそろ、潮時かもね。羽野君、こんな状況で下手に誤魔化すと、アイリスちゃんとサンちゃん。二人で戦場に行っちゃうかもしれないわよ?」

 背後からレタの最悪を想定した囁きが聞こえ、トキヤは強く目を瞑った。

「……」

 ……整った設備。政府軍という真っ当な肩書き。潤沢な予算。そして何よりも圧倒的に有利な戦況に甘え、この問題を無視し続けてきたが……、……この状況では僅かな想定外が、本当の意味で命取りになる。

「――――」

 今が、向き合うべき時なのか知れない。そう覚悟を決めたトキヤは目を開き、アイリスと視線を合わせた。

 そして、トキヤは。

「……アイリス。聞いてくれ。今まで隠していたが、お前は、JDじゃない。俺と同じ、――――人間、なんだ」

 アイリスを知る者なら、サン以外、誰もが知っていた周知の事実を、衝撃の真実といわんばかりの険しい表情で、言い放った。

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