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「――――レタさん」

 小型施設の中にある指揮室兼通信室に入ったトキヤはすぐにレタに声を掛け。

「上の人間って、あの人ですか?」

 と、トキヤは自分がこの国で生きていくと決めたときに色々と便宜を図ってくれた恩人が通信の相手なのか。ということを期待を込めて尋ねたが。

「残念だけど、あの人じゃないわよ」

「……そうですか」

 すぐにその可能性を否定され、トキヤは肩を落とした。

「……ほんと、あの人だったら、苛つくことなく話がスムーズに進むってのに、あの男は……」

 そして、そのレタの愚痴に近い発言を聞き、上の人間というのが誰なのか大体の見当が付いたトキヤはうんざりとした気持ちになった。

「……レタさん。通信の相手は、あいつですか」

「ええ、あの人が何で飼っているのかが未だによくわからない、あの男よ。……通信開くわね?」

 お願いします。と、トキヤが覚悟を決め頷くと、壁の一面に映像が映し出された。

『――――』

 映像に映っているのは、豪奢な椅子に座ったスーツ姿の男だった。

 二十歳のトキヤと同世代だと言われても全く違和感のない、実年齢よりも十歳以上若く見える顔と引き締まった肉体を持つその男は、長い足をゆっくりと組み直してから。

『やあ、おはよう諸君。朝の五時から起きて何をしているんだい?』

 と、笑顔を浮かべながら挨拶をしてきた。

『ま、僕も起きてるんだけどね。しかも一時間以上前から。いや、昨日まで生娘だった女と褥を共にし、ぐっすり眠っていたというのに通信であの人に叩き起こされてね。いやはや、あの人の遠慮も容赦もないところは、困ったものだよ』

 朝四時に寝るんじゃなくて、起きるなんて何年ぶりだろうね? と言って、スーツ姿の男は優雅にコーヒーを飲み始めた。

「……」

 その男の声のトーンはとても陽気なものではあったが、相手が馬鹿にして良い人間だと判断した上でのふざけた発言であることがありありと伝わってくるので、トキヤはその男のことを嫌悪、するまでには至らないが、言葉を交わすのも面倒な相手であると認識していた。

「……お久しぶりです。グリージョ、さん」

 そして、トキヤ同様異邦人でありながら軍上層部にあと一歩で到達する立ち位置にいる男の名をトキヤが呼ぶと、その男、グリージョは映像越しにトキヤに視線を向けた。

『ああ、ストレッタが言ってたのはキミだったのか。顔を見て思い出したよ。……しかし、キミ。前に見た時より更にヒョロくなってないかい? そんなんじゃ、女に裸体を見せるとき恥ずかしいだろう? キミの母国には細マッチョという素晴らしい言葉があるのだから、仕事の合間にでも、少しは鍛えるといい』

「は、はあ……」

 うん、ほんと、面倒臭い。と、トキヤが死んだ魚の目でグリージョの言葉に相槌を打つと、グリージョはトキヤとの雑談はこれで終了と言うようにトキヤから視線を外し、司令室兼通信室にいる人員を確認し始めた。

『それで、強奪された基地から脱出し、その施設に逃げ込んだ人員はこれだけなのかい? 人間が二人にJDが五体……いや、一番奥にいる赤髪の子は、に――――』

「――――JDです」

『……そうなのかい? ま、いいか。それでは早速だが、この後すぐにキミたちが行うべき作戦について、説明を始めさせてもらうよ』

「は?」

 早速過ぎるだろ。と、トキヤは心の中でグリージョに突っ込みを入れてから、待ってくださいと声を張り上げた。

「すみません、グリージョさん。未来の話をする前に、過去の清算を。俺は、グリージョさんに幾つか聞きたいことがあるんです」

『そうなのかい? 無駄に使える時間はないのだが、まあ、僕も鬼ではない。そうだね、そこには人間が二人いるから、二つまでの質問を許可しよう』


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