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8.銀灰の聖女




「――実を言うと、私もヴェロニカを騙していたんだ」

「は?」


思いもしない返答に固まる私の頭に、マルティンが銀のティアラをそっとはめる。


「これは母の実家に代々伝わる婚礼の品だ。受け渡しのみで婚姻が成立する」


「け、契約書も同意もなしに、髪飾りだけでは何の効力も無いわ。そんな詭弁で、私をごまかせるとでも思ってるの?」


慌ててティアラを外そうとすると、王子は真面目な表情で告げてくる。


「これは契約の魔術具で、真に想い合う相手にしか使えないとしたらどうする? もし魔力回復が発動しているなら、君が私の求婚を受け入れたという証だ」


「…………」

迂闊(うかつ)だった。

うっかり返しそびれたうえに、つい好奇心で付けてしまっていた。

珍しい魔術具だとは思っていたが、こんな呪いのような品が存在していたとは。


というかケガの手当てをしてあげた恩人相手に危険物をほいほい渡すなっ!


「すまない。このような卑怯な真似をして。だが、今の君によく似合っているよ」

「……つまり。私を、銀灰の聖女として利用するつもりね?」


言葉の裏を読み、そう判断する。腹立たしいがそれならば納得できる。

魔法が使える私をそばに置きたいというマルティンの行動も王族として当然だ。


彼が恋愛感情に目を曇らせているわけではないと知り、ほっとしたような、何だか胸が痛くなるような複雑な気持ちになってくる。


視線を合わせているのが辛くなり、私は足元の地面を見つめた。


「いや、聖女として利用するつもりは無い」


無いわけないでしょう。そんな嘘で騙そうとしたって無駄よ!


うつむいたまま内心でツッコミを入れる私に、マルティンは語り続ける。


「今後、聖女の役職は廃止にする。君に与えるのは私の妻という称号だけだ。聖女かどうか、力があるか無いかなど関係なく、君が好きだ」


聖王国が聖女を廃してどうするのよ。結局は恋愛感情が優先ってことじゃない。


「君が初めて話しかけてくれた時、理想の女性だと思った。吸い込まれそうな緑色の瞳がとても綺麗で印象的だった。再び会えた時は、嬉しくて毎日好きだと言い続けてしまったよ」


理想って、そんなの前もって好みを直接本人から聞いたし当たり前だわ。

緑の瞳だけは偶然私と同じだったから、瞳の色を変える手間が省けたけど。

うん? それってもしかして――――


ずっと呼びかけを無視し続けている私の肩を抱き寄せ、彼はささやいた。


「ヴェロニカは、孤独だった私の心を救ってくれた。……私だけの聖女だ」

「!」


今まで指一つ触れてこなかったマルティンが、私を抱きしめている。

私からは腕をつかんだりしたこともあるけど、数えるほどもない。

頭をなでる前に聞いてきたり、私が嫌がる事は全くしない彼は実に紳士的だった。


一体、何を企んでいるのかしら。さっきも手を握ってきたし……。

手を握るといえば、穴に落ちそうな時に助けようとしてくれてたわね。

うやむやになって礼の一つも言ってなかったわ。

というか、私だけの聖女って何よ。それで口説いてるつもりなの?

そんなおべっかごときでこの私が篭絡ろうらくできると思ったら大間違いよ!


などと頭の中で小理屈をこね回して現実逃避していたが、限界が来てしまった。


さっきから私の心臓はばくばくと鳴っているし、おそらく顔も真っ赤だろう。

恋愛経験に乏しい私には、どう切り抜ければいいのか全くわからない状況だ。

ちょっと。こんな展開、想定の範囲外なんだけど!


「困ったな。何か返事をしてくれないとキスをしてしまいそうなんだが」

「わかった。わかったから、それだけはやめて!!」


ここは何とかして、王子の目を覚まさせないと。

私の年齢が本当は22歳であるとばらしたが、彼は年齢差も身長差も全く気にならないとのことだ。心広いわね!


通じない説得に疲れ果てた私の顔を覗き込み、マルティンが微笑んでくる。


「では、私の求婚を受けてくれるかな?」

「…………とりあえず現状維持で」


「了解だ。現状どおり婚約者として、滞っていた婚約発表を行うことにしよう」

「婚約って、まだ続いてたの!? はあ、もう好きにしなさいよ……」


銀のティアラを外すのさえ面倒になりつつ愚痴をこぼすと、さらに強く抱きしめられてしまった。


そんなにぐいぐい来られても困るんだけど。王子、性格変わりすぎでしょう!

このまま強引に、ほだされてたまるもんですか!




次回、最終話です!

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俺様王子が今さら私に泣きついてきた
子爵令嬢マールがノリと勢いで突き進むお話です。
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