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7.マルティン王子の告白




その後、地底から這い出た女神が巨大化したり、聖女姉妹が活躍したり、ピンチになったり大変だったみたいだけど、どうにか女神を倒して世界に平和が訪れた。


ちなみに彼らが戦っている間、私はずっと地道に避難誘導である。

あんな熾烈な戦いに参加できるような自信はない。

やはり聖女は別格の存在だ。


女神を倒した後の王城で、最低兄貴が話しかけてきた。


「おいヴェロニカ。半年近くも故郷(くに)に帰らず、聖王国で何を遊んでいた?」

「は? あんたこそシア様と仲良く遊んでたんでしょう。この聖女誘拐魔!」

「なっ……誰がだっ!!」


喧嘩をする私たち兄妹を、シア様は黒い瞳をしばたたいて驚いたように、シア様のお姉さんは三毛猫を抱いてニコニコと笑いながら見守っていた。


兄と聖女様たちは少しだけ休んだ後、遠い西方にある砂漠の国へ帰っていった。

お尋ね者だし、また聖女を利用しようとする人間が現れても面倒だしね。


結果だけ見ればこの国の救世主だけど、私も兄も悪人なことには変わりない。

マルティンは私たちに何も言わなかった。今のところは見逃してくれるようだ。



国王亡き後の聖王国は、マルティンを中心にして進めていくことになった。

正式に国王になるかは分からないが、王子は彼しかいないのでほぼ確定だ。


城や街の後片付けをしながら、陛下の葬儀を済ませて数日のあいだ喪に服す。

マルティンのように本気で悲しむ人たちもいれば、安堵している人もいた。


後妻の王妃様は、実は不本意な輿入れだったらしく、しばらくしたら離縁して故郷の国に帰還されるとのことだ。


黒いドレスを着た私は、墓石に白い花を捧げる王子に尋ねる。

「ねえ、マルティン。……貴方はこの国を、どうするつもり?」

「今はまだ分からない。だが、私は逃げ出さずに最後までやり通すつもりだ」


そう答えた彼の瞳は、静かな光を(たた)えていた。

あの時、国王の後を追おうとした王子の心情を推し量ることはできない。

無気力で他人の言いなりになるだけだった彼が、立ち直るのを祈るばかりだ。



1か月が経過し、マルティンは見違えるように変わっていった。

宰相や配下の者とともに国の復興に力を入れており、毎日忙しそうにしている。


そんな彼の姿に、私はほっとしていた。

やるじゃない、王子。見直したわ。これなら一人でもやっていけそうね。


今度こそ、私もここから逃げ出す準備をしないと。


 ◇ ◇ ◇


私はお別れを言うために、マルティンを城の裏庭に呼び出していた。

銀髪の王子の前で変装と幻術魔法を解き、彼にある物を見せる。


「これ、返すわね。貴方のお母様の形見でしょう? 少し使わせてもらったけど、綺麗に清めてあるから許してちょうだい」


王妃様の肖像画には、小さな銀のティアラが描かれていた。それと同じ物であることに気付いたのは、すでに城を出て各地を回っていた時だった。


この髪飾り、なんと魔力回復のお守りだったのでありがたく使わせてもらった。

回復機能のおかげで、色々な魔法が連発できて面白かったわ。

でも大切な物だから、早く返さなきゃと思ってずっと気になっていたのよね。


差し出した私の手を制して、マルティン王子が厳かな声で告げる。


「――――銀灰の聖女よ。それはあなたが持つべき物だ」

「な、何を言っているの」


「あなたの噂は、私の元にまで届いていた。苦しむ者たちを救いながら各地を巡礼する、銀の髪飾りを付けた灰色髪の美しい乙女がいると」


それで銀と灰だったのね。なるほど。

って地方だからバレないと思って変装せず行動したツケが今ここに!


どうにか彼を言いくるめる方法を考えていたら、


「……ヴェロニカが国のために尽くしてくれている間、私は何も出来なかった。昔からそうだ。自分の意志で何も決められず、全てに目を背けてばかりだった。だが君を好きになって、変わろうと思えたんだ」


マルティンは髪飾りごと私の手を握り、碧い水のように澄んだ瞳で見上げてきた。


「これからも私のそばに居てくれないだろうか。君が必要なんだ」


頭が真っ白になる。まさかそんな台詞を聞かされるとは思っていなかった。

なによ、人がせっかく見直したと思っていたのに!


「待って。私悪人よ? 国家転覆を謀って半ば成功させてる罪人なの。正気?」


「銀灰の聖女を悪く言う者など、この国にはいない。それに君たち兄妹が何もしなくとも、いずれ聖王国は滅んでいただろう。城の地下には良くないものが眠っていると、母上がよく私に話してくれていた。誰も信じてはくれなかったが……」


そう言うと、王子はどこか寂しげに笑った。

母親を亡くして孤立無援になった彼が、馬鹿王子などと蔑まれていたのにはそんな背景があったのかもしれない。


信頼できる味方が増えた今、マルティンが馬鹿にされることはないだろう。

これからの彼には、偽聖女などという胡散臭い存在は不要だ。


私は王子に銀の髪飾りを押しつけて、握られていた手から逃れる。


「あのね。私は皆を騙していたの。今からだって裏切るかもしれないのよ? 貴方は馬鹿がつくほど素直なんだから、もう少し人を見る目を養いなさい」


後ずさりする私に、マルティンは驚くべき一言を投げかけてきたのだった。


「――実を言うと、私もヴェロニカを騙していたんだ」




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俺様王子が今さら私に泣きついてきた
子爵令嬢マールがノリと勢いで突き進むお話です。
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