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6.滅びの終わり




久しぶりに王城に戻ってきた私が目にしたのは、無様な国王の姿だった。


「ひいっ。この世の終わりじゃあ! 余はまだ死にたくないぃ!!」


王は自室から飛び出し、真っ先に自分だけが逃げようとしている。

避難する大人たちを押しのけ、足元を走る小さな子供をわざと転ばせ、広い中庭をひとりで駆け抜けて行った。


その時、隣に建つ神殿がぐらりと揺れ、地面に大きな亀裂が走る。


「うぎゃあぁぁっ」

国王は穴に足を滑らせ、悲鳴を上げながら奈落の底へと消えてしまった。

一瞬のことで、誰も助けることが出来なかった。


その場面を目撃した人々は恐れおののいて城外へと逃げて行く。


「何てこと……。どうして」

突然の出来事に衝撃を受けつつも、私は城門の上から降りることにした。

地割れの近くに、見知った人物がまだ残っているのに気付く。


誰もいなくなった中庭で、マルティン王子がふらふらと穴の方に歩いていた。


「ち、父上が落ちてしまわれた……! 私は、一体どうすれば…っ」

深淵の前でがくりと膝をつき、王子は明らかに取り乱していた。


「そうだ…早く行かなければ。私も、父上と母上のところへ……」


彼はそのまま穴の中に身を乗り出して――――


「やめなさいよ。馬鹿じゃないのっ!?」

王子の首根っこをガシッとつかみ、後ろに引きずり倒した。


碧色の目を丸くして驚くマルティンの頬を、平手で思い切り打つ。


「しっかりなさい。人の上に立つ者が簡単に逃げて許されるとでも思っているの」

「ヴェロニカ……」


「王が居ない時、代わりをするのは貴方よ。今まで何を学んできたのかしら」

「…………っ」

王子は悔恨のにじんだ表情で、必死に涙をこらえているようだった。


「まあ、私に貴方を責める資格は無いけどね。この国を陥れた悪人なんだから」


私は金髪のカツラを取り、背丈を偽るための幻術魔法を解く。

今日の化粧は薄めなので近くで見れば私の正体がわかるはず。


この状況で真実を明かすのもどうかと思うが、私なりのけじめのつもりだ。


地面に座り込むマルティンがこちらを見て、息を呑むのが聞こえてくる。


くすんだ灰色の長髪に、緑の瞳。

かつて神殿の最高責任者だった男に、よく似た顔でしょう?


「見てのとおり、聖女を連れ去った大悪人の妹なの。恨み言なら後でいくらでも聞くから、今は皆を助けるのが先よ。このままだと取り返しがつかなくなるわ」


私は再びカツラと魔法で偽聖女に戻った。さすがに今捕まるのは得策ではない。


マルティンは立ち上がり、じっと私を見上げてきた。いい目になったじゃない。

「わかった。私は何をすればいい……?」

「この亀裂に落ちないように、残った城内の人たちを誘導して避難させましょう」


私たちは、穴の周りに木箱などで目印を置いて立入禁止にし、兵士たちにもわかりやすく避難経路を指示した。城と神殿の両方から大勢の人たちが逃げてくる。


「皆、落ち着いてゆっくりと進んでちょうだい!」

「出口はあちらだ! 足元に気を付けて」


神殿内にいた関係者が全員外に出てきたところで、建物が穴に飲み込まれていく。

あんなに大きな神殿が沈むとは、やはりこの下は女神の住処だったらしい。


間一髪で間に合ったと思ったら、私の立つ地面ががくりと落ち込んだ。


「きゃっ」

「ヴェロニカ!!」

亀裂に落ちていく私の腕を、地上からマルティンが掴む。


「マルティン。私は大丈夫だから……手を離しなさい」

「嫌だ! また君を失うなんて耐えられない。絶対に離すものかっ!」


必死に歯を食いしばる彼の姿に、ドキリとしながら心の中でツッコミを入れる。

……いや本当に大丈夫なのよ。自分ひとりなら浮遊魔法で飛べるから。


するとふわりと私たちの体が浮いて、巨大な大穴に障壁が張られた。


こんな大規模な結界術が使えるのはあの娘しかいないわ。


神々しい光をまとった黒髪の少女が現れ、心配そうな顔で周囲を見回している。


「皆さん、大丈夫ですか? 今から、私たちがお助けします」


「貴女は――――聖女シア様!!」


ついでに愚兄もいたけど、今は無視しておこう。




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俺様王子が今さら私に泣きついてきた
子爵令嬢マールがノリと勢いで突き進むお話です。
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