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4.銀の髪飾りと恋する王子




――そして、現在。


「いや。似ていると思ったが勘違いのようだ。忘れてくれ」


治療を終えて沈黙している私に、マルティン王子はそう言って首を横に振る。


「……以前、ある人に女性の好みを聞かれたことがあった。あの時はわからないと答えてしまったが、今では好きになった人がいるんだ」


こっちが聞いてもいないのに、王子は独り言のようにべらべら喋り続ける。


「彼女は私のことをいつでも褒めて認めてくれて……たまに目が笑っていない時もあるが、とても優しい人なんだ。彼女が望む事は、何でも叶えてあげたい」


彼はどこか遠くを見ながら、うっとりとしたように碧色の瞳を細めていた。


は!? 馬鹿じゃないの??


甘っちょろい考えの王子を、私は怒鳴りつけてやりたくなった。


こんな怪しい女相手に、ほいほい惚れて騙されてるんじゃないわよ。

それでも国を背負って立つ一国の王子か!

少しは周りを見て動くことを覚えなさい。あと目が笑ってなくて悪かったわね!


そんな私の憤りもつゆ知らず、王子が頭を下げてきた。


「すまない。自分の話ばかりをして。助けてくれた礼をしなければ」

「いいえ。通りすがりの気まぐれなのでお気になさらず」


私が慌てて立ち去ろうとすると、

「これを持って行くといい」

どこから出したのか、銀の髪飾りを渡されてしまった。高価そうな物だ。


「君は命の恩人だ。本当にありがとう」

呆然とする私をその場に残し、王子は城の方へと帰っていった。


くっ。こんなことで私がほだされるなんて思わないでよね!!



 ◇ ◇ ◇



聖女が居なくなった後、聖王国は混乱し、荒れに荒れた。


シアが祈っていたおかげで国土全体に張られていた結界が、徐々に消滅。


国境付近に出現した魔物の群れに乗じて、隣国まで軍を進めてくる始末。


さらに邪悪な力が、地の底から湧き出てくる気配までしている。


この国も永くないわね。私も早く逃げる準備をしないと。


「ヴェロニカ、私たちの婚約発表についての事なんだが……」

「わ、わたくし急用を思い出したのですわぁ。ごめんあそばせ!」


王子とも深く関わらないよう、なるべく接触を避けている。

直接ヴェロニカ宛てではないとはいえ、あの日髪飾りをもらってから顔を合わせるのが何だか気まずい。こっそり返すにしてもタイミングが難しそうだ。


仕方なく、日中はずっと神殿にこもることにした。

現在シアの代わりに聖女の役職に就いているが、聖力がないのは明らかなのでそのうち解任されるだろう。


「せ、聖女ヴェロニカ様。あなたのお話を聞きたいと、宰相様が……!」

新しく大神官になった壮年の男性が、おろおろとした様子で私に告げる。

その後ろには、宰相と兵士たちが大勢でやって来ていた。


「聖女殿。この国を救うための貴女の考えを聞かせてほしい」

おっ。宰相じきじきに解任宣告かしら? とりあえず適当なことを言っておこう。


「わたくしぃ、難しいことはわかりませんの。適当に聖力が強い人を集めて結界を張り直して、適当に国中に魔物討伐の依頼を懸賞付きで出して、適当に聖騎士団を出陣させて敵軍の魔術を無効化する聖術を撃てばいいんじゃない?」


「な…なるほど。よし、聖女が神から授かった預言として、皆に通達するぞ!」

「ははっ!」

宰相たちは慌ただしく神殿を出て行った。


いや預言って。誰でも考え付くことでしょう。どんだけ混乱してるのよ。

まあ簡単に実行できることではないから、大した助言にもならないけどね。




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俺様王子が今さら私に泣きついてきた
子爵令嬢マールがノリと勢いで突き進むお話です。
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