3.ヴェロニカの潜入調査
※本日3回目の投稿です。
大神官と聖女が失踪し、国王と王子が傷害を受けた大事件。
そんな混乱の中、国王は神殿の施療院に担ぎ込まれて手厚い看護を受けていたが、マルティン王子の事を顧みる者は誰もいなかった。
なぜなら王子は人の来ない神殿裏で、殴られた状態のまま倒れていたからだ。
いくら殿下が普段から目的もなくぶらぶら歩いてるからって、居なくなったのぐらい誰か気付いてあげなさいよ……。
「あらあら、大神官に殴られたのね。大丈夫?」
「っ……君は……?」
「通りすがりのお姉さんよ。ほら、手当してあげるわ」
偽聖女は癒しの力が使えないことになっているから、別人に変装して近付く。
力があると勘違いされて、ヴェロニカが本物の聖女だとか言われても困るしね。
治癒魔法に集中するために幻術魔法の方は解除してある。
顔を紺色のベールで隠しているから、至近距離でも気付かれないはずだ。
声についても、5種類ぐらいは違う声を出せるから問題ない。
マルティン王子の体の傷を見ると、ひどい物だった。
普通に殴ったダメージに加え、魔法による加重攻撃まで乗っている。
骨を砕かないギリギリに収めているのは、大神官の優しさなのか何なのか。
恨みがあったにせよ、殴って逃げるとか大人げないなと少々呆れてしまう。
苦しそうな殿下に向かって、私は優しく言葉をかけた。
「大丈夫。ただの致命傷よ」
「え」
「私が治してあげるから、安心なさい」
「あ、ありがとう……」
騙されやすくて心配になる王子だけど、素直にお礼を言えるところは美点よね。
時間はかかったが、何とか魔法が効いてくれた。良かった。
腫れてアザだらけだった体も、だいぶ見られるような状態に戻っている。
マルティン王子は起き上がるなり私にこんな質問をしてきた。
「あの……前に私と会った事がないだろうか? 城の中庭で」
「は?」
急に問われて、驚きながらも思い返す。
そういえば、私が初めてこの城に潜入した時に――――
◇ ◇ ◇
――今から半月ほど前のこと。
私はとある任務を帯びて、聖王国の中心にある王城を訪れていた。
端的に言うと、我々の邪神復活計画に必要な聖女シアを奪還すべく、王子を篭絡して国の中枢部に入り込み、内部から国力を削ぐという作戦のためである。
そんな大それた作戦に、素人の私を使わないで欲しい……
しかし、王子を落とせと言われても彼の好みがわからないのは不利だ。
魅了魔法でもあれば楽なんだろうけど、使えないし。
どんな感じの女性が好きなのか、まずは事前に情報を集めないと。
巡礼者の女性に扮し、城の隣にある神殿で聞き込みをする。
頭と顔を大きな布で隠して、目の部分のみを出した簡単な変装だ。
大神官発行の身元証明札を首から下げているので、怪しまれることはないだろう。
働く神官たちに、聖女について当たり障りのないことを尋ねてみた。
「聖女様のお世話は、貴方がたがなさっておられるのですか?」
「いや、我々はおそばに行くことが出来ない。シア様には女神の祝福と呼ばれる守護の力が働いていて、大神官様以外の男性は近付けないのだ」
その話に続けて、別の神官がこんな本音を漏らす。
「先日マルティン殿下が聖女様の婚約者になられたのだが、どうなる事やら……」
次に、王子について巫女や侍女にも話を振ってみた。
「殿下ですか? 昔はシア様の所によくいらしてましたが、守護の力で近付けず、お話もできないので今はお見えになりませんね」
「王妃様を早くに亡くされて、幼いマルティン様はよく泣いておられましたわ。陛下は後妻のお妃様の事ばかり気に掛けられていて、私、不憫でなりませんでした」
などという話を聞いていたので、多少の同情心も湧いてしまったのだろう。
城の中庭にある白い四阿にぽつんと座っている王子に、優しく声をかけた。
「こんにちは、殿下。話しかける無礼をどうかお許し下さい」
「君は……?」
「通りすがりの巡礼者です。神殿に祈りを捧げに立ち寄らせて頂きました」
「そうか。ご苦労だったな」
銀髪碧眼の王子は割と常識的だった。馬鹿だとかの悪い噂もあったんだけどね。
私はとりあえず会話を続けた。
「お忙しいところ恐縮ですが、殿下はこれからご予定などありますでしょうか」
「いや。特には」
「では、私の旅の話を聞いて頂けませんか。殿下の無聊をお慰めできれば、幸いでございます」
同じテーブルにつき世間話をして、警戒心を解くことにする。
遠い砂漠の国の話をしたら、思いのほか楽しそうに聞いていた。
そうやって場を温めてから欲しい情報に探りを入れる。
「差し支えなければ、殿下の女性の好みをお聞かせ下さい。きっと故郷の者へのよい土産話になるでしょう」
「好み……?」
不審そうな視線を向けられた。
ち、ちょっと直接的すぎる質問だったかしらね……
仕方ないでしょう、私こういう恋愛的な駆け引きは苦手なんだから。
「……よくわからないな」
「そ、そうなのですか。ではこういたしましょう。髪は金、銀、黒、茶の中で何色がお好きですか?」
「金色かな」
「背丈は高いのと中間と低い方では?」
「低い方で」
「次は、瞳の色は…」
そんな感じで出来上がった理想の女性像が、偽聖女のヴェロニカだ。
後で気付いたことだが、この好みの姿は亡くなられた王妃様に似ている。
王子の部屋に飾ってある、肖像画を見て初めてピンと来てしまったのだ。
マルティン殿下があの時私をからかったのか、無意識にそうなってしまったのか、はたまた母親が理想なのかは分からない。
けれど思惑通り、王子は身元詐称中の貴族令嬢を気に入り、常に侍らせて婚約者にしようとするまでに至った。正直、うまく行き過ぎて怖いぐらいだわ。