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馴れ初め③

ちょっと私生活が大変混乱してて、更新できなくてごめんない。

がんばってまいります。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「まぁ。実際にこうも不思議な物を見せられたら、そりゃあ信じるしかないね」


 居間の隣に位置する、婆ちゃんの書斎兼寝室。

 この部屋の主人である婆ちゃんはピシッとした見事な姿勢の正座をして、静かに目を伏せて僕たちに告げた。


「良かった。納得して貰えなかったら駆け落ちも考えてたんだ」


「ふぇっ!? そっ、そんなこと考えとったんかお前様!?」


 家族とは言え、一応この場は礼儀の場。

 母さんの白いワンピースを借りたミコ様と僕も並んで正座をしている。

 姿はロリからJK───僕より少しだけ歳上に。

 柔らかそうなポヨポヨロリから、見た目涼しげなクール系美少女へと変身を遂げている。

 うーむ、非の打ち所がないパーフェクトビューティー。

 まるで妖精もかくや───と言わんばかりだ。神様なんだけどね?

 えへへ、この娘。僕の彼女。ドヤァ。


「駆け落ちって……昭和の時代でもあるまいに。いったいどうやって生計を建てていくつもりだったんだ」


「闇系のお仕事しか無いかなぁって」


「考えが浅いにも程があるよ光昭(ミツアキ)。はぁ……お前のその浅慮なところも、『感情』が足りないってのに起因してるのかい?」


 僕の話を聞いた婆ちゃんは右手で頭を押さえてため息を一つ吐く。


「御祖母殿。そのことに関してはワシから説明をさせてくだされ」


 キリッと真面目な顔をして、ミコ様は婆ちゃんに恭しく一礼をする。

 いいなぁ。こういう顔もほんと素敵だよなぁ。

 普段のドジでそそっかしくて愛敬しか無いミコ様も良いけれど、こういう切れ長でスパッとしたカッコいい感じのミコ様も僕は大好きだ。


「お孫殿は幼少の頃。生来より持つその特別な目を狙った妖どもに拐われ、間一髪のところでワシ……ごっほん、私が助けました。ただやはり私のような下級の神では奴らから奪われた全てを取り返すことができず、その結果ミツアキの人格に多大な影響が出てしまいました。まこと、申し訳ない」


 そう言ってミコ様は三つ指をついて深々と頭を下げる。

 こう言ってはなんだけど、ミコ様は謝罪の姿がとてもサマになるなぁ。

 いや、あんまり頭を下げているところは見たくないんだけど。


「頭をお上げください。白野巫女(シラノミコ)様。お話が事実であれば、貴女様はこの地をお守りする土地神様。我らの知らぬところとは言え、孫の命を救って頂きなんとお礼を申せば良いのか。先ほどまでの私共のご無礼、平にご容赦を」


 婆ちゃんも同じ様に頭を下げる。

 この場で一番頭が高いのが僕だけになってしまい、どうしたものやら。


「───そうですね。妊娠してしまったことにはいろいろと言いたいこともありますが、息子を救って下さった事に関しては感謝してもし足りません。私からも、ありがとうございます」


 お盆の上に人数分のお茶を載せて、母さんが台所から戻ってきた。


 そのままお盆を床に置き、姿勢を整えてうやうやと礼をした。

 今日はよく土下座を見る日だなぁ。

 ありがたみが無くなってしまいそう。


「あ、ありがとうございます」


 その後ろでは、父さんが所在なさげにお茶請けの器を持ってへらへらした笑みを浮かべながら頭を下げた。

 もしかしておっさん、この後に及んでまだよくわかってないな?


「いっ、いえいえ! ワシがもうすこし上等な格を持つ神ならば、御子息が奪われた残りの感情もちゃんと取り戻せていたことでしょう! この地の民を奴らから守護するは本来我ら神の責務。信仰の無い時代になったとは言え、言い訳は立ちませぬ! ご家族が気に病む事ではございません!」


 ミコ様は慌てて顔をあげると、正座の姿勢から器用に方向を変えて、こんどは母さんに向かって頭を深く下げる。


「私がこの家に嫁いでもう60年ほどですが、この地に稲荷様を祀る社があるなどと、寡聞にして存じ上げておりませんでした。土地の者としてなんと情けないことか」


 婆ちゃんは老眼鏡をかけて、側に置いてあった古びた書物を開いてパラパラとめくる。

 これはついさっき、婆ちゃんに言われて死んだ爺ちゃんの書斎から持ってきたこの土地の風土記だ。

 蔵書家だった爺ちゃんが遺した本の中でも、一際古い物。

 どんぐらい古いかと言えば、つまんで持ち上げただけで頁が解れて崩壊するぐらいには古い。


「いや、それは仕方ないこと。あの社はワシが引き継ぐまで三百年ほど主人が不在だったからの。神威により守護されており廃れこそしなかったものの、神域も年々小さくなっていき今では社の形を保つので精一杯。信仰の集まらぬ社の神なぞ、吹いては消える蝋燭の火よりも心許ない。土地の者が存在を忘れるのも致し方ないことです」


 ミコ様は苦虫を噛み潰したような顔でそう言って肩を落とした。

 自分で言っててダメージ受けてりゃ世話ないわな。


 この田舎町のどの郷土史を紐解いても、稲荷のいの字も見つからないのはもう確認済みだ。

 なにせ悔しかったから調べまくったもんね。

 こんな可愛くて偉大なミコ様を蔑ろにするとか、ほんと不敬。万死に値するぞわが町の町民どもめが。

 いずれ思い知らせてやる。

 


「ここ最近はお孫殿───ミツアキと言うワシを信仰する者が現れたので、以前よりはいささか力も強まっております。その点で言えばワシも救われたと言っても過言ではないでしょう。だから礼など申されても、こちらとしても困るのです」


 そりゃあもう、信仰しまくってますもの。

 毎日のお供物おみやげは欠かしませんし、そのお体のケアだって念入りに───げふんげふん。

 ちょっとは自重しなさい僕の男の子!


「詳しいお話はよくわかりませんが、そう言って貰えて助かります。私共の不肖の孫が少しでもお役に立っているのならば」


「僕のミコ様への信仰心はカルト宗教にどハマりしている人のざっと数百倍はあると思うよ。だからミコ様は僕を助けてくれた時よりもずっと凄い神様に成長しているんだよね」


 なにせこの身をガチで差し出したわけだし。

 まぁ、結果的には頂いちゃったのは僕なんだけど。


「こんな時にそういう類の茶々を入れるんじゃ無いよ」


 婆ちゃんが老眼鏡を外して目頭を押さえる。

 なんだかひどく疲れている様にも見えるけど、大丈夫かな?


「茶々じゃないよ。僕の言い方は軽かったけど、結構本気でミコ様を助けてはいるんだ」


 神様と契り──いわゆるエッチをするという事がどういう事か。

 それは人の身にして神の内側に触れるという事。

 

 これもミコ様に聞いた話なんだけど、神話や伝承で神に嫁いだ・又は供物となった者が人里に戻ってこないのは二つほど理由がある……らしい。


 一つはその命まで捧げてしまった場合。つまり神ックスに耐えきれずに死んでしまったと言う結末。


 もう一つは、人を辞めたか。

 人と神が交わって人が死ぬのなら、いっそのこと人以外になれば良い。

 神格を得て神未満人以上となるか、もしくは妖怪化生へと変貌するか。

 どちらにせよ、もう普通の人間では居られない。

 そういう結末。


 じゃあ、なんで僕はそんなリスキーな事をしたのか。

 結論から言うと、僕とそういう事をしなければミコ様の存在が危ぶまれていたからだ。


 稲荷大明神を祀る伏見稲荷とは縁もゆかりも薄いこの土地で、サポートしてくれる神職も居ない。

 当の本人が神様と巫女を兼任しているものだから、小さい土地とは言えその管理に用いられる神通力は自然回復した分以上に毎日微減していく。

 

 蓄えていた力もつい半年ほど前に使い果たし、半ば諦観し消滅するのを待つばかりだったミコ様をどうにか生き永らせるための手段こそが───僕との性交である。


 数ヶ月かけてしつこく『どうすればミコ様を助けられるのか』を聞き続けた結果、根負けして教えてくれたことだ。


 どういう原理なのかは聞いてもあんまり理解できなかったんだけど、掻い摘んで解釈すると女性神であるミコ様にとって男性のソレ───まぁ精液なんだけど。

 これはいわゆる『生命の原始』を意味する大変高カロリーな代物で、体内に留め置くことでたとえ人のソレであろうとわずかに自身の力と変換する事ができる……とかなんとか。


 解決方法が分かっているなら、やらない理由は僕には無い。


 たとえこの身が人ならざるモノになろうが、あっけなく死んでしまおうが。

 僕にとってミコ様の存在は僕以上に大切なんだ。


 迷うことすらおこがましい。


 それはもうミコ様にみっちりと説明されて、必死に説得されたけど────結局は半ば無理やりに近い形で僕らは行為へと至ったのだ。

 

 一番怖かったのは死ぬ事なんかじゃなく、ミコ様に嫌われてしまう事だったけれど、彼女は行為の途中から大粒の涙を瞳に浮かべて僕を受け入れてくれたし、愛を囁いてくれた。


 だから僕はあの時──────童貞を捨てた瞬間に死んでしまっても悔いは何一つ無かったんだ。


 結果、ミコ様の神としての位が低すぎて何も問題が無いという事が判明して面食らったけどね?

 

 それからの僕らはそりゃあもう猿かケモノかぐらいの勢いで、会えばセックス・目を合わせれば合体・家路への別れを惜しんで接合、と節操もへったくれもなかったのは言うまでもない。

 なにせ相思相愛。お互いの気持ちをストレートにぶつけ合ったのだから、もう歯止めなんか効くはずもない。


 その結果がミコ様の妊娠。


 当然と言えば当然の帰結である。


 人と神様っていう未知の関係にタカを括って避妊処置も外に出すこともゴムを着用することもしなかったのだから。


「っていうことは婆ちゃんにはさすがに言えないですよね」


「ミツゥ……っ! お願いだから、お願いだからぁ!」


「あれ?」


 なんでそんな顔を真っ赤にして泣いてるんです?


「──────光昭。全部口出てるぞ」


 お茶請けのお煎餅を袋から広げながら、父さんが呆れた口調で僕にそう告げる。


「ミツくん……あなた、結構馬鹿だったのねぇ」


 母さんは頬に手を当てながら、困った様に笑っていた。


「──────はぁ、どうやらこれは……どこをどう取り繕っても我が井浦(いうら)家の責任問題だね」


 婆ちゃんは老眼鏡を丁寧にケースに戻して、湯呑みに注がれた熱いお茶をゆっくり噛み締めるように啜った。


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