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「フランソワさん、あなたは真実を知っているのですか」











「いいえ。全てを知っているわけではないんです…」












これに関しては本当だった。誤魔化しているわけではない。話したい気持ちはやまやまだが、フランソワ自身も全貌を知っているわけではないので、迂闊なことを言うわけにはいかない。

フランソワの答えに一瞬、少しロイドはがっかりした様子を見せたが、すぐに気を取り直して違う観点からアプローチをかける。












「そうですか、分かりました。では、濡れ衣を着せられたことに関して、何か心当たりはありますか?」










「………」











「どうやら、あるようですね」












図星だった。何と答えたら良いか分からなくてフランソワは黙り込んでしまったのだが、流石は正直者。表情に出てしまっていたらしい。

ここは認めるしかない。











「はい……一応あるのですが…」












ロイドの表情に、期待の色が灯る。











「おっ。では、あくまでもフランソワさんの見たてで良いのでお聞かせ願えませんか」













「は、はい…そうですね、ええっと…」











言いにくいに決まっている。何故ならば、今回の冤罪に噛んでいるフランソワがと踏んでいる人物は、アリアス夫人だからだ。

つまりロイドの母親にあたる。ここでアリアス夫人の名前を出せばロイドは傷つくだろうし、ないより失礼にあたる。そしてさらには、フランソワが冤罪事件を自分の母親のせいにしていることにロイドが腹を立てた場合、面倒なことになりかねない。












「それはちょっと……言いにくいな…」










「母、ですか」










衝撃の一言だった。何とロイドは自分の口から、冤罪を吹っかけた犯人として、アリアス夫人、つまりは自分の母親の名前を挙げたのだ。











「はい…あくまで私の見解ですが……

申し訳ございません!」









「はははっ!フランソワさん、謝らないでください。むしろいいにくいのにありがとう」











「は、はぁ」










「いやね、実は僕ももしかしたら母が絡んでいるのではないかと思っていたんですよ」









「えっ」










「はい。あの母なら、人を蹴落とすためなら手段を選ばないんです。でも不思議なのは何故、フランソワさんが窃盗の罪を着せられることになったのかです。それに関しては何かお心当たりはありますか?」












「い、いえ。それ以上は分かりません。

そもそも私の心当たりがお母様にあるのも、ただの勘で、根拠はないんです…」











フランソワの曖昧な返事を聞くと、ロイドはうーんと唸る。腕を組んで、俯いたり、天を仰いだりしながら、何か必死に考えているようだ。

沈黙が流れる。この時フランソワは、この間の時とは違い、帰りたいなどとは思わなかった。

ロイドがここまで一生懸命に考えてくれているのは、自分のためという部分もあるからだ。

それなのに自分は苛ついてばかりいたら、目の前に座っている王族の御子息に失礼だ。

そして何より、ロイドの頑張りによっては賠償金が得られるかもしれないと思うと、どうしても期待せずにはいられなかった。

フランソワはそんなはしたない自分が情けなかった。






ロイドはもう何分も考えこんでいる。

フランソワは時間を惜しまずにそれを待つ。

そしてロイドが出した結論は、期待に胸を膨らませていたフランソワにとって、どこか拍子抜けで、どこか歯痒いものだった。













「分かりました。まだ情報が少なすぎるのでなんとも言えませんが、今後は母の動向を注視します。何か気になることがあったらその都度伺いますね」











「あ、は、はい。承知しました」











「ではまた今度!」











ロイドはやる気に満ち溢れた様子でフランソワに手を振ると、レストランの外で待機している執事の男性のもとへ向かおうとした。

一刻も早く楽な生活を手に入れたいフランソワにとって、今日の結論は必ずしも納得のいくものではなかったが、それでもここまで真摯に向き合ってくれるロイドが頼もしく、ありがたかった。

フランソワは店を出ようとするロイドに声をかけた。













「ロ、ロイド様!」











「ん?」









「本当に、本当に、ありがとうございます!」











フランソワは深々と頭を下げて感謝の意を述べる。









「こちらこそ!」











ロイドは笑顔でそう答え、やがて執事が手配した高級車に乗り込んだ。

ロイドの笑顔はドリスの爽やかなマスクを彷彿とさせ、フランソワは憂鬱な気分になりかけたが、ロイドの瞳の奥には、ドリスにはない、あたたかさがあるような気がした。











「ロイドさん…」









ひとりになったフランソワはそう呟いた。









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