表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第07話 神族襲撃!? 後編

 ―――第30代目の魔獣統一国 国王、通称『魔獣王』候補には、とある5人が選ばれた。


 その選ばれた者達には、普通の魔獣族とは違った能力ちからを持つ者ばかりしかいない。それまでは、当たり前のことだった。


 魔獣とは、主に魔術を操ることができる獣のことを指す。魔獣族とは、魔獣と契約し、その力を得た者のことをそう呼ぶ。……しかし、今回の魔獣王候補である5人のうち一人の少年が、まだ魔獣との契約を終えていなかったのだ。


 それを聞いた本城ユーチャリスの上位の者達は、その少年が候補のひとりであることについて厳しく反対した。しかも、その少年はまだこっちの世界に来て間もないと言うではないか。


 しかし、現王は言った。新王を選ぶのは、私たちの仕事ではない。それは800年以上“封印”されているこの世界を救った者、魔王ルシファーが選ぶことだと。「ルシファーの記録」によると、30代目の候補者5人はすべて魔獣族である。しかし、その中の一人は『異常』をもってこの世界に現れるのだと。


 魔王ルシファーの意識はもうこの世にはない。そう分かっていても、彼女の言葉を咎める者や疑う者はいなかった。魔王ルシファーはこの世界と魔獣族を護り抜き、この世界の無数の命と引き換えに、“封印”される道を選んだのだ。


 そんな魔王ルシファーの記録となれば、影響力はとても強い。魔獣族の女神さまと例えても、おかしくないほど彼女は信仰されているのだ。





 ―――その問題の少年は、少しずつながらも魔獣王候補としての力を付けている。まだ魔獣族としての実力は発揮されないものの、現王やその弟子にも認められているのだ。今日もまた、彼は新たなる体験をするだろう。もしかしたら、今回は実戦になるかもしれない。因果関係にある、“神族”との……。


「それなら……僕ものんびりしている暇などないな」


 最初っから家族も親戚もいない小林こばやしのぼるは、数日前に自分の親友、リクルを送り出した湖へと身を沈めた。その両手には袋に入った数冊の本と、小さなペンダントを抱えながら……。



















 ―――おれはちょうどその時、沈みゆく夕日をバックにしながら、剣を構えてグレイルの隣に立っていた。漆黒の鍵の黒い刀身が、夕日に反射して輝いた。


 目の前には、数匹の獣―――と言っても、中型犬の3倍以上はある。赤く鋭い眼差しの瞳に尖った耳、大きな口から出た牙。そこから聞こえる唸り声はとても友好的なものとはほど遠く、おれたちに威嚇しているようだった。


「ちっ……。なんでこんなところに、ヘルハウンドが?」


 ヘルハウンド。それは地獄から現れると言われる、炎を吐く紅い狼だ。見た目は狼と全く変わらず、ちょっと大きいぐらいだ。その中でも一番体格の良いリーダー的存在のヘルハウンドが、一歩、一歩とこちらに近づいてくる。


「ぐ、グレイル! なんでこんな獣がおれたちの前にやってくるんだYO! 何か悪いことでもしたのか?」

「ぼくが知っていると思うのかYO! ちなみに、こいつらはただの獣なんかじゃない……魔獣だ。魔術を使うからな。ちゃんと気をつけろ」

「き、気を付けろったって! おれ、まだ魔術も剣術も学んでいないし……」


 グレイルは舌打ちし、背中に担いでいる大剣を引き抜いた。鞘に擦れ、嫌な音を立てる。幻獣たちもそれがただの威嚇じゃないと気付いたのか、唸り声を上げながら数歩後退した。


 おれはグレイルに押しのけられ、乾いた砂の上に尻もちをつく。多分、彼は戦力にならないおれを護るために、自らが前へ出ることを選んだのだろう。到底、おれでは真似できないことだ。


「“氷の術、発動”」


 グレイルが詠唱する呪文を、今回は一つも漏らさず聞き取ることができた。


「“我、グレイル・ティラ・アークの名のもとに、この秘められた術を発動せよ!

全ての氷の要素よ、我に従え。残酷な刃はすべてを引き裂き、凍結する。『ブリザード』解放!“」


 その呪文と共に、今までは見えなかった沢山の白い粒がグレイルを取り囲んだ。渦状になった粒は空高く舞い、3秒も経たないうちに吹雪となって幻獣たちを取り囲んだ。


「グレイル、まさかのまさかだけどさ……まさか、こいつらを全員凍らせて、殺すとかいう方法を使おうとはおもっていないよな!?」

「そうだが……それが何か?」

「何かじゃねぇよ! こいつらだって直接、おれたちに攻撃を加えたわけじゃないだろ!? 命を無駄に使ってはいけませんって、学校で習わなかったのかよ!」


 おれは無我夢中で、吹雪の中に駆け込んだ。突き刺さるような寒さが、体中を支配する。―――おれはなんで、いつの間にこんなことをしてしまったのだろう。そんなことを考えている暇もなかった。


遠くでグレイルの声が聞こえたけど、だんだんと寒さに意識が薄れてきていることを感じた。そのとき ふと、右手が質の悪い毛玉に触れた。その瞬間、毛玉が異常な暖かさを発し、閉じかけていためを見開いてしまった。


「こらッ! 誰だ!? 俺様が寝てる間に吹雪を起こしたのは……って」

「ぎゃああああああ!!! 狼が喋ったぁぁぁぁぁ!?」


 その毛玉は紅いヘルハウンドとは異なる、藍を帯びた銀色をしていた。瞳も深い海のような青で、穏やかな輝きを放っていた。


 毛玉は尻もちをついたままのおれに歩み寄り、いろんな所に鼻を近づけながら匂いを嗅いでいる。コッチとしては嫌な気分だ。


「おぉ、やっぱりアンタか。『今の姿』ではちょいと視力が落ちてしまうもんだから、見ただけでアンタとは感じなかったぜ。覚えているか? ほら、確かフレイアしょーぐんにお姫様ダッコされてた時……飛龍に乗って挨拶した俺様を、覚えている……といいんだけどな」

「あ!! あの時のおっさん!?」


 確か朱銀色の飛龍に乗っていて、藍色の服を身につけていた。こっちまで飛んできて、この地独特の挨拶をして去って行ったあの人だ。頑丈な体格で……簡潔に述べるならば、ゴツいおっさんだった。


「おっさんとは酷いな。こう見えても俺様、まだ400ちょいなんだぜ? ジー苦しょーぐんよりも2歳下。せめておっ様と呼んでほしいね」


 毛玉もといおっ様は、先ほどの暖かい波動に触れて凍らずに済んだ仲間を振り返り、短く唸るとすぐに退散させた。リーダー格のヘルハウンドだけが、おっ様と短く会話し(と、言っても鳴き声にしか聞こえないんだけど)、頷き合うとすぐに仲間の後を追った。


「ちなみに、俺様はエルラディド・クラム・ローラン。みんな面倒くさがってエルラと呼んでいるがな。普段は人間の格好をしているが、やっぱりコッチの姿の方が楽だ。好きな時に飯食って、好きな時に眠れる。……とはいえ、やっぱり俺様も騎士の分際だ。こう見えても上将軍クラスを持ってるからな。のんびり、まったりはできないってワケよ」


 エルラディドは豪快に笑い、人間の姿に戻ってくるから、と言って城の入り口の真正面に広がる、原生林の森へと飛び込んで行った。おれがその後ろ姿を眺めていると、後ろから足音もなくやってきたグレイルが肩に手を置いてきた。


「確かに……お前の言う通りだったかもしれない。反省している」

「やけに馬鹿正直だな……って、元々お前のセリフだったっけ」


 グレイルは、ああ、と力なく言うと、黙って大剣を鞘に収めた。


「エルラディド上将軍に一喝された。お前は自分の主の命に、背いてまで命を奪うのか、と。将軍の能力は口に出すことなく、相手に言葉を伝えることができる。まあ、それはヘルハウンドの姿になった時限定だけどな」


 そうか。エルラも魔獣族で、ヘルハウンドの能力を司っているんだな。つまり、ヘルハウンドと契約したことになるんだ。


「将軍は先ほどのリーダー格のヘルハウンドと、契約したとおっしゃっていた。そんな大切な魔獣なのに、ぼくは見分けることすらできなかった。叱られても仕方がない。ぼくの所為だからな」


 グレイルは肩を落とし、ため息をついて俯いた。おれが彼に掛けてやれる言葉はない。エルラは命令に背いた、と言っていたけど、おれが彼に下したのは命令などではなく、ただの願望だったかもしれない。


 無駄な命は奪うものではない。それぐらいは常識を知った人間ならば、誰でも心得ていることだ。……今更だけど、この世界に学校というものはあるのだろうか。学校はなくても、教習所ならあるかもしれない。


……それだとしても、やっぱりこの世界の住人は違うことを教えられているのだろう。自分を護るためらなば、どの命も惜しまずすべてを葬り去れと? それとも、強者は弱者に何をしてでも許されるという、弱肉強食の世界なのだろうか。



「おーぅ! お前ら、そろそろ向かうとするか」


 場の空気を読んでいない、呑気で陽気な声が響く。この図太い声からして、恐らくはエルラだろう。あ、やっぱりエルラだ。あの時と同じ藍色の服を着用し、幼い子ならすぐに泣き出してしまいそうなおっかない顔をしている。今の印象も……やっぱりゴツいおっさんだ。


「向かうって……どこへー?」


 おれが半ば叫ぶようにして尋ねると、20メートルほど離れた距離から、エルラが普通に声をだす。元々ビックボイスだから、怒鳴られたりしたらたまらないだろう。


「フレイアとレムトの所だろ? あいつらを心配して、お前らは外に出たんじゃないのか。あいつらには心配はいらないと思うがな。将軍クラスの中では一位と二位の腕の持ち主だからな。まァ。俺様に敵う訳がないけどな」


 エルラはまた豪快に笑う。そして、腕をぐるぐる振り回しながらこちらへと歩み寄ってきた。グレイルが居心地悪そうに、自分の足元をじっと見る。


「ほら、さっさと行くぞ! 俺様はじっと一か所に留まっているのが大嫌いなんだ。遅れんなよ、お前ら!」

「ちょっと待って! エルラの武器は?」

「俺様の武器か?」


 エルラは口の端を片方だけを吊り上げ、不敵に笑ってみせた。それから自分の二の腕を拳で叩き、自慢げに力こぶをつくってみせる。


「自分の肉体、ただそれだけよ。脆い武器など当てになりゃしねぇ。あとは自分の魔術ぐらいかね。俺様の炎の術は魔獣族一なんだからな二位のレムトなんか足元に及びもしねぇよ!」


 また豪快に笑う。あんたは喜怒哀楽の『哀』が抜けているのか、と聞きたいぐらいだ。まあ、こんな立派な上将軍がいるからこそ、立派な騎士たちが生まれるのかもしれないけど……。


 おれは苦笑いを浮かべ、勢いよく走りだしたエルラの後を追った。

















「も!」


 ―――今から数分前、のぼるは何を間違えたのか柔らかい土の上に落下し、頭から地面に潜り込んでいた。何分も掛かってようやく抜け出せたのはいいものの、口の中に泥が入って、しばらくは吐き気が止まなかった。


 ……まわりに人がいなくて良かった。のぼるは、心の隅でそう思った。自分ほどの位を持つ者が「も!」などという奇声を上げたのだ。それは、地面から顔を引っこ抜いた時に出てしまった言葉なのだから仕方がない。のぼるはあっという間に開き直ると、立ちあがって周りの景色を確認した。


 ここは原生林の森だ。日本にはないような、不思議な木々が生い茂っている。つまり、クレアリス城からさほど遠くない所に不時着したのだ。運が良ければ、すぐに到着できるかもしれない。



 そのとき、のぼるは改めて自分の位について不満を持った。その位は現クレアリス城の主、リクルと同じぐらいの地位だが、同時に見つかると厄介なことにもなる。今まで数百年間も不在にしてきた自分が、ひょっこりと顔を出したらどうなるだろう。……みんなには、もう戻ることがないかもしれないとまで言ったのに……。


 のぼるは自分の真横に出来ている水たまりに自分の顔を映し、深くため息をついた。水たまりに移った瞳は地球あっちに居たころとは異なり、深いゴールドに輝いていた。


 ……そう。僕は貴重な不死鳥。老化はしないし、年も取らない。何千年もクレアリス城の脳となってきた、万能の黒き不死鳥……。




つづく。


次回 第08話“What is the meaning where I live?”


実は言うとですね、1、2日前に7話は出来上がっていたんですよ。


でも、なんだか納得できなくてすべて修正してしまいました^^;


結構間があいたと思いますが、これからも宜しくお願いしますっ!


この作品を読んで下さったすべての方に、心からの感謝を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ