第01話 夢の終わりに 前編
こんにちわ^^ 作者です。
この作品は『魔獣の騎士』の書き直し版です。相変わらず乱文ですが、どうぞよろしくお願いします^^;
『All of this world are dedicated to you…〜この世のすべてを、あなたに』をサブタイトルに、精いっぱい更新を頑張りたいと思います><
知っていた? リクちゃん。お母さんには、ひとりのお兄さんが居たの。でも、ある日ね……。リクちゃんが生まれてすぐ、お母さんのお兄さんは行方不明になったのよ。皆は事故にあって死んだと言っているわ。でも、お母さんは信じられない。
お母さんのお兄さん……つまり、リクちゃんの伯父さんは、事故に遭う数日前から、ずっとお母さんだけに秘密の事を教えてくれたのよ。
自分は、元居た世界に帰るんだって。そこでは剣と魔術が飛び交い、偽りで嘘つきのカミサマが悪者らしいの。そのカミサマを打ち倒すために選ばれた“騎士”のひとりが、伯父さんだったのよ。
あたしは今でもそのことを信じている。そして伯父さんがあの世界に帰る前に言い残したことも、まだまだ覚えているわ。リクちゃんもいつかはあっちの世界に呼ばれるかもしれない。そうしたら……あたし……
なんだかファンタジーみたいでワクワクしちゃうじゃないの!
「リクルー! 朝よっ 早く起きなさい〜」
今日は珍しい。いつも鬼のような形相で起こしにくるお袋が怒っていない。やけに声が弾んでいる。あ、そうか。今日は珍しく親父が帰ってくるんだな。
「分かったよー。今起きるから。本当はもっと寝ていたいけど」
寝ぐせの目立つ髪を掻きあげ、布団から身を起こした。ベッドではなく、布団だ。根っからの布団派なのだ。そしてゆっくりと立ち上がり、教科書やお菓子のゴミが散乱する部屋を見渡した。
ドアのすぐ横に掛けられている縦長の鏡の目の前に立つ。そこには、短めショートの女の子風の顔が映っていた。……やっぱり自分はお袋似だ。断言できる。
「あら、リクちゃん。寝ぐせでせっかくの可愛い顔が台無しよ? ちゃんと髪を梳いておきなさいよー」
お袋……。おれ、男なんですけど。
おれの名前は、有機リクル。別名リクル・エリル。
親父は生粋の日本人だけど、お袋が日系イギリス人だ。見た目は日本人そのままなのに、名前が外名なだけで馬鹿にされる。だから皆にはあえて『有機リクル』の方で自己紹介しているのだ。
家族は親父の有機満流にお袋のリリス・エリル。それにもうすぐ生まれてくるという、まだまだ顔も分からない妹の4人だ。
おれは運動オンチでちょっとお馬鹿でチビな中2男子。部活は特に入っていないし、興味もまったくといっていいほどない。親友は男のわりにとても器用で、美術部の部長を務めているけど。
趣味は読書だけ。毎日図書館に通っていて、多分学校でナンバーワンの読書王だろう。好きなジャンルはファンタジーとギャグとSFで、連載小説をメインに次々と読破していっている。お勧めを語り出したら、何日も掛かる。
コンプレックスは沢山ある。でも一番最初に上げるとしたら、身長の低さだろう。150センチにも満たないので、背の順となるといつも一番最初だ。他の弱点と言ったら運動オンチな所だ。マラソンとかは一番最後だし、縄跳びだって未だに二段跳びができない。なんだか泣きたくなってきた。
ちなみに、親父は有名大学の教諭で研究者。親父もおれと同様に本好きで、研究所には自分専用の図書館を開いてしまうほどだ。
お袋はピアノの教師で、一流ピアニストでもある。最近はあまりピアノを弾いている所なんて見ないけど、音楽を心から愛していることぐらい十分に理解している。
親父は特徴もない平凡なメガネのおっさんで、お袋は人を引き付ける美貌をもつ茶髪の美人。もっさり親父と巻き毛茶髪のお袋では対照的に印象が違うけど、これはこれでデコボコ夫婦として成り立っているようだ。二人の仲はとても良い。
「リっクっちゃーん? さっさと起きなさい。たとえ休みの日だからって、部屋でずっとのんびりしているのはダメよ?」
お袋はやけに目立つようになったお腹を片手で愛しそうに撫で、余った片手ではおれの頭を軽く撫でている。おれもお袋にとっちゃガキ同然なのかよ。
「分かってるって、お袋。だからお袋こそ安静にしていなきゃ。火事……じゃなくて家事とかはおれに任せてよ」
「あら、珍しく頼もしいのね。でも、本当に火事にしちゃダメダメよ?」
お袋はいつも通りに笑顔を絶やさず、おれの後に付いて短い階段を降りる。友達を10人以上呼んでもまったく窮屈さを感じない広いリビングに、大きな3人掛け用のソファが置いてある。それにおれは腰かけると、お袋は向かい側にゆっくりと座り込んだ。
「リクちゃん……お母さんはね、ひとつだけ言いたいことがあります」
「な、何だよ。そんな改まって」
「実は、リクちゃんはね……あら」
お袋の話を遮るように、玄関のチャイムが連続で3度ほど鳴った。この特徴的なチャイムの押し方は、おそらくアイツだろう。
「おっはっよー リク! 元気にしてるかい?」
……やっぱり。このテンションが異常なくせ毛の目立つ野郎は、おれの幼馴染であり親友である小林のぼるだ。例の美術部部長であり、見た目通りのエリートくんである。昔は眼鏡だったが、今はコンタクトを愛用している。のぼるは跳ねた両サイドの髪をいじりつつ、お袋に会釈しながら入ってきやがった。まったく、誰の家だと思っているんだ?
「のぼる、今日は部活はないのか?」
「今日はお休みなんだよ〜。ま、部活があっても僕はリクの家に遊びに来ていただろうけどね」
のぼるは無礼でひょうきんだけど、愛嬌があって憎めないとお袋はいつも言っている。おれはちょっと短気でローテンションだけど、意外とおれたちは上手くやっている。気が合うのかもしれない。
「リクちゃん、のぼるくん。もし暇だったら、買い出しに行ってきてくれない?」
お袋が愛用のエコバックと財布をおれに押し付け、いつもの笑顔で手を振った。後ろで一つに結んだ茶色の巻き毛が揺れる。のぼるは「いいですよ」と軽く返答するが、おれにとっちゃ面倒くさくて仕方がない。近くのスーパーまでは自転車で20分以上掛かるのだ。
「明日はあなたの誕生日なのよ、リクちゃん。お母さんご馳走をつくってあげたいのよ。ね、リクちゃん?」
「そうだよリクちゃん。お母様もおっしゃっているだろ?」
「おおおお前までリクちゃん言うなーッ! 分かったよ、行ってくればいいんだろ!?」
おれは逃げるようにリビングを飛び出し、のぼるの腕を掴んで玄関に向かって駆けだす。背後からはリクちゃんコールが聞こえてくるが、そこはあえて無視だ。
「いいお袋さんを持って幸せじゃないの、リクたん」
のぼるを軽く殴り飛ばし、おれは財布の中身を確認して近所からは『豪邸』呼ばわりされる家をバックに道路へと駆けだした。そのときのおれは、自分の誕生日がすべての境目になるなんて、少しも思っていなかっただろう―――。
―――野菜売り場にて。
このスーパーには、野菜売り場の隣に100円ショップがある。のぼるはそこに用事があるらしく、ひとりで向かっていた。
「えーと、タマネギにニンジン、それに牛肉とジャガイモ? ここまできたらなんの料理かは分かってくるな」
その後にはカレーのルーと続いた。やはり、明日の晩ご飯はカレーだ。
5月10日。それはおれの生まれた日であり、伯父が事故で亡くなった日でもある。でも、お袋は伯父は死んだんじゃない、消えたのだと言ってそれ以外は何も聞かない。
「リクたん、これはどうよ?」
「リクたん言うな。ん? これって……」
のぼるの手には、緑色の宝石がいくつも連なったブレスレットが載っていた。見た目からして安物だけど、おれにしてはとても綺麗だった。
「これは……?」
おれはちょっと引き気味になりながら、のぼるの胡散臭い笑顔をじっと見る。のぼるは目を細め、おれの左手首にブレスレットをはめた。
「誕生日プレゼント。リクたんの誕生石はエメラルドだったでしょ? まぁ、これはそこの100円ショップで買ってきたんだけどね〜」
リクたんは止めてほしいけど、親友がまさかの誕生日プレゼントをくれるなんて嬉しくて、同時に恥ずかしかった。
正直100円ショップって……と思ったり、おれは男だよな? とか再確認したりしてみたけど、のぼるは何も気にしていないようだ。こいつはいつも他人には不可解な行動をするんだよな。
「で、リク。次は何を買わなきゃいけないの?」
「あー、もうこのぐらいで終わりだよ。あとはレジに行くだけ。のぼる、お前は他に買うものはないのか?」
「僕は特にないよ。ただリクに付き添ってきただけ。じゃあ帰ろうか。ほら、さっさと払ってきなよ」
「あ、うん……おっと」
おれは重たくなったカゴによってバランス崩しそうになり、思いっきりずっこけそうになった。しかし、寸前のところで見えない“何か”に支えられ、危うい所で立ち上がる。
「大丈夫、リク? 危なかったね」
「……? のぼる、何かした?」
「……いや、何も。いきなり何言い出すんだよ」
のぼるは一瞬だけ真剣な顔をして、またいつもの笑顔に戻った。彼の珍しい表情を見たような気がしたけど、あえてそこには触れなかった。
「僕が払ってくるから。リクはそこらへんで待ってて」
半ば強引にカゴと財布を奪ったのぼるは、人気のなくなった一番出口に近いレジに並んだ。おれはのぼるの並んだレジの前に立ち、彼が戻ってくるのを待った。
……気のせいかな、なんだか変な予感がする。のぼるの様子がいつもと比べ冷静に見えるし、お袋も親父が久しぶりに帰ってくるとはいえテンションが高すぎる。去年の誕生日だってここまで豪華じゃなかった。一体……何があるのだろう。
しばらくして、のぼるがエコバッグを抱えて戻ってきた。財布をおれに預け、自分が荷物を持つと言って聞かない。急にのぼるが紳士的なキャラになってしまい、おれとしては少し怖いぐらいだ。
「リク……君に、ひとつだけ言いたいことがある」
「な、なんだよ。のぼるまで改まっちゃって」
「これから先、何があっても僕のことを信じてくれる? そして、すべてを受け入れてくれるかい?」
のぼるは真剣な面持ちになり、おれのブレスレットをはめた左手首を掴んだ。おれが戸惑っていると、のぼるはどこに隠し持っていたのか一冊の古い本を取り出した。
「これって……」
おれの部屋の本棚にいつも並べてある、一冊の本をのぼるは差し出したのだ。それは古くから伝わる『魔獣』の辞典で、様々な種類の凶悪な魔獣が掲載されてあった。赤く何も描かれていない表紙には、飽きてしまうほど見覚えがあった。
その本は確か親父が研究所から持ってきたもので、いつの間にか研究所に置かれていたという。その本のお陰で魔獣や幻獣に詳しくなったが、元は誰の持ち主なのかなんて分からなかった。
「これはね……僕がリクの親父さんに渡したんだ。君が、いつ“あっちの世界”に行っても大丈夫なようにね」
「のぼるが親父に!? それって、どういうことなんだよ!」
のぼるは先ほどまでの真剣な表情と打って変わって、急にふざけたような笑顔になった。魔獣辞典を開き、最後の1ページを開く。
ちょうど家の前まで着き、おれが家に帰ろうとしたところでのぼるはおれの腕を掴んだ。まだ家に入るな、ということだろうか。
「僕はコレ、『フェネクス』なんだ。フェネクスを司る魔力を持つ、“魔獣族”。……って言っても分かってくれないだろうけど。簡単に説明すると、僕は元々この世界の住人じゃない」
「はぁ!? フェネクスって悪の不死鳥のことだろ? フェニックスとは対になる……じゃなくて、お前がこの世界の住人じゃないってどういうことなんだ?」
のぼるはまた笑顔になってどこからか大きな紙切れを取り出し、それをおれの目の前に翳した。その紙切れにはどこかの大陸の地図が記されていて、細かい文字で沢山書き込みがあった。
「僕の故郷はこの世界、“クローン世界”なんだ。あと、勝手に善とか悪とか決め付けるのはいけないな。僕らは“偽りの神”から世界のすべてを取り戻すため、日々頑張っているのに……」
のぼるは急に悲しそうな顔になり、俯いて地図を畳んだ。
「そうだよね、僕。無理に彼に説明しても、分かってもらえないのは当たり前なんだ。う〜ん、どうやったら理解してくれるものか……そうだ!」
のぼるは何か閃いたように、左の拳を右の拳で打つ仕草をして、おれの方を向き直った。
「何ならあの世界に行ってみる? ホントは明日訪問してもらう予定だったんだけど……まあいいや。善は急げ、って言うしね」
「のぼる……なんだか使い方間違っているような……って!?」
のぼるはおれの腕を引っ張って、おれの家の裏庭にある大きな森へと飛び込んだ。この森はおれの祖父の代から続く、神秘的でだだっ広い広葉樹の森だ。
「ど、どこに行くんだよ、のぼるっ!」
「いいから〜! 入り口はココにしかないんだよ。ココの真ん中まで行けばすべてが分かる。君の知りたい答えが、すべて発見できるさ!!」
のぼるはど真ん中にある湖まで来ると、呪文のような言葉を早口で唱え小さな結界らしきものを生み出した。おれがそれを不思議がって覗き込んでいると、のぼるが急におれを突き飛ばした。
「のぼ……ぶはっ!?」
「リクーっ! 大丈夫だから。きっと君の知り合いが向こうの世界で待っててくれるよ〜っ!」
「な、何言って……げぼっ!」
おれは湖に出来た大きな渦に呑まれつつ、その奥に引きずり込まれていった。のぼるは少しも溺れるおれを助けようとはせず、ただ笑って手など振っていた。
「リク……、ごめんね。僕じゃ到底力にはなれない。僕が預かっていたブレスレットに全ての願いを込めて、君を送り出すから」
一人湖のほとりに残ったのぼるは、ポケットに入れたままの105円をぎゅっと掴んだ。
後編につづく。
後編に続く! お楽しみに〜☆(逃亡