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深淵鋼鉄式耐爆メイルの自爆姫  作者: 秘剣・絶対悶絶ちゅばめがえし
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朱翼の騎空団


朱翼の騎空団が所有する騎空艇、レッドハートにはスカーレットが上空から狙撃をするための甲板が存在する。彼女の腕を高く評価するスティールが、必要だと判断し、改造を施したのだ。

そして彼女のアンチマテリアルライフルには通常の狙撃ライフルと大きく違うポイントがある。それは、遠距離から狙撃をするための『スコープ』が装着されていないという点だ。

スカーレットの過剰に発達した視力は、スコープを通すと逆に見えづらくなってしまう。なので彼女は、肉眼で狙撃を行なっている。

彼女なりに考えた、彼女なりの戦闘スタイルなのだ。今では同業者、つまり空賊の中で『裸眼のスナイパー』と言えば、「狙撃姫だろ?」などの回答が返ってくる。

そして彼女が最も嬉々とした表情を見せるときがある。


「スカーレットちゃんの狙撃ショーへようこそぉ!」


ーー……ッターーーーン‼︎


「ああ、もっと動いて……。もっと、もっと、もっと、もっと‼︎」


ーー……ッターーーーン‼︎


「的だなぁ! 君ら本当にただの的だなぁ! そら、もっと逃げ回れっ!」


ーー……ッターーーーン‼︎


「あはは! すっごい楽しい‼︎ ボク今、死ぬほど楽しい!」


銃の引き金を引く時、彼女はまるで新しいおもちゃを与えてもらった時の子供のように笑う。

『猟奇的』と言ってしまえばそれまでだが、スカーレットが、銃の名手たらしめたる由縁の一つでもある。楽しんで的を撃つのだ。

例えそれが、『人間』であっても。

そんな上空からの狂気的な援護があればこそ、地上で戦うスティールやドレイクも心強いというものである。



「スカーレットの奴、派手にやっとるのぉ! ありゃあ、楽しい時のリズムじゃぁ」


ドレイクは上空のレッドハートを眺めると、ニタリと笑みを浮かべた。目を閉じ、そのまま笑いに震えながら深く腰を落とす。

そして帯刀していた刀の鞘に左手を、長年握り込まれた柄の部分に右手を添えた。

剣豪。凄まじい眼力でルーザー達を睨みつけるドレイクの姿は、まさにそれに近い。もっとも、殺意溢れるその表情だけは鬼と表現した方が近いかもしれない。


「ーー……⁉︎」


「よぉ、ルーザーども。何もかも遅すぎじゃあ」


「なんだテメェは⁉︎」


「おっめぇらよぉ、来るの遅すぎなんじゃ……。何人スカーレットに撃ち抜かれて数減ったんかのぉ?」


「チッ、会話も出来ねぇクズかよ! ほらどけ‼︎ 邪魔だ! 邪魔だ!」


ドレイクはしばらく考えると、歩いて移動し、道の端へと避けてみせた。

意外にもあっさりと引いた彼に、多少の疑問を抱えながらもルーザー達はまた歩き出す。


「そうじゃ、この先のディドバル爺さんの所にのぉ、うちの一番強ぇーのがいるでのぉ、注意するこったぁ」


「…………ハッ! 何を言い出すかと思えば……。テメェは戦わねぇ腰抜けか! 野郎ども、レアパーツはもうすぐだ! こんな奴に構うな! 進めぇぇぇ‼︎」


ーーカチン……。


ドレイクの鞘に鍔の当たる音が響く。


「だから遅えって言ったじゃろぉ……。心配せんでも主らはディドバル爺さんの家までは行けん」


ーーゴトッ、ゴト、ドサッ……。


「ーーもぉ、ワシに斬られとるんじゃからなぁ」


突如として、ドレイクの眼前にいたルーザーは、四肢を切り落とされ、首が飛んだ。

音を立てて地面に、何人ものバラバラになった肉塊が落下する。それは椿の花のように、真っ赤に、大地を染めあげていた。

決して見る事の叶わない剣撃。抜刀後、彼の初撃速度は音速を超える。たとえそこから連撃に繋げたとしても常人にはその刀身ですら見る事は難しい。

結果としてそこに存在するのは気付かないうちに『斬られた』という事実だけである。


ドレイクはルーザー達の別働隊を処理すると、ディドバル宅へと歩き出した。


「スティールはディドバル爺さんと、うまくやっとるじゃろうか……」



鉄くずや、用途不明の機械が無造作に積み上げられた屋敷内。マシンオイルと潤滑油の、気だるくなるような臭いが、そこら中から漂っている。

その中にはとても珍しい機械部品やレアパーツ、さらにはレアアースなども存在していた。


「スティール、どうなっとるんじゃ! ラビはどうした⁉︎」


「爺さん! ルーザーどもの襲撃だ! ラビは上空のレッドハートでお留守番中だ。安心してくれ」


「ぬぅぅ、またルーザーどもか……。懲りない奴らじゃ……」


【ディドバル・ストレルヒ】

68歳。ラビの名付け親だが、血が繋がっているわけではない。

代々の機械技師で、朱翼の騎空団・レッドハートの修理や整備を請け負っている。ゴルドを弟子として扱い、武器の開発なども担う。

ラビの身に付ける深淵鋼鉄アビスティール式耐爆メイルを作った張本人でもある。



「相当爺さんの持ってる何かが魅力的なんだろうな! 今度は何を盗んだんだ?」


「えぇい! 人聞きの悪い事を言うでない! ちょっとばかり軍用騎空艇からインビジブルコアを拝借しただけじゃ‼︎」


インビジブルコア。いわゆる動力装置で、アースフィルでは最もメジャーな燃料、『インビジブル燃料』を供給させる、騎空艇の中で最も重要なパーツである。

水よりも透明度が高く、水よりも見えにくいその液体は『不可視インビジブル燃料』と名付けられた。

気化力、エネルギー転換効率、機体の推進力など、その全てが通常燃料の遥か上をゆく性能で、今では、アースフィルに無くてはならない物として存在意義を示している。


「そんなもん、軍にバレたら即処刑じゃねぇか! 騎空艇を丸々一つ盗んだようなもんだ‼︎」


「ガハハ‼︎ そう褒めるでないわ! 軍にはバレなかったが、ルーザーには嗅ぎつけられたがのう……」


「褒めてねぇ‼︎ そら、奴らが来たぞ‼︎」


物陰に隠れて、激しい銃撃戦を繰り広げるスティールとディドバル。鉄壁に撃ち込まれる銃弾の高音が周囲を凌駕する。


「六、七、八。八人か……痛いのは嫌なんだが、仕方ねぇ‼︎ 爺さん、俺が突っ込む。援護を頼むぞ」


「任せるんじゃ! じゃが眼球には受けるんじゃないぞい! いくらワシでも眼球までは直せないからのぉ!」


まるで鉛弾をうける前提で、会話を進めるディドバル。彼の話を聞くと同時にスティールが敵前へと切り込んだ。

投げナイフで一人、近くにいたルーザーに向けて、抜刀した長剣で二撃二人。次の目標を定めて踏み込む姿勢をとったその時だったーー


ーードォン‼︎


リボルバー式マグナム銃の重苦しい重厚な音が辺りに響く。同時にスティールは吹き飛び、血飛沫をあげた。

倒れ込んだ彼の額からは、ドクドクと鮮血が流れ、赤い絨毯を敷き詰めたように彼の周りを包み込む。

倒れ込んだスティールを見てルーザー達は歓声をあげた。


「いよっしゃ、赤髪をやったぜ‼︎ 眉間をブチ抜いてやった‼︎」


「後はジジイだけだな! ブチ殺せッ‼︎」


ーーメキメキィッ……‼︎


『後はジジイだけだな! ブチ殺せッ‼︎』と言い終わったルーザーの一人が壁にめり込む。ジタバタと身体を動かしていたが、次第に動かなくなり、だらんとその腕を下げた。


「ジジイだけじゃねぇよ。勝手に殺すな」


「早く起きんかい! 本当に死んだかと思ったわ‼︎ ヒヤヒヤさせおって……!」


「いや、爺さん、援護はどうしたよ……。普通に眉間をブチ抜かれたぞ⁉︎」


「てっ、テメェェェッ‼︎ 何で生きていやがる‼︎ 確かに殺したはずだろ⁉︎」


目の前で、眉間を撃ち抜いた相手が、起き上がり仲間を壁にめり込ませた。その現実に理解が追いつかず、ルーザーの一人は取り乱す。


「ガハハハハ! お前はワシの手掛けたマシンの一つじゃぞ⁉︎ 我ながら完璧な改造じゃ! 援護なんかいらんじゃろ?」


「改造は半分だけだがな‼︎ 爺さんはそこで見てろ! すぐ終わらせてやるぜ‼︎」


「ひっ…………‼︎ 引けぇぇぇぇぇぇッ‼︎ 化け物だぁぁぁぁッ‼︎」


ルーザー達は、未知の恐怖に怯えて後退りする。しかし、そんな彼らをスティールが逃がすはずもない。彼らの首を掴むと、口角を引き上げた口を開き、ニタリと笑いながらルーザーに告げる。


「半分だけ改造人間だと言ったが、改造人間になると何が出来ると思う……?」


ーーブンブンブンブン‼︎


首を掴まれたルーザー二人は、高速で首を振る。知らぬ存ぜぬ。だから助けて欲しいと懇願し、目でスティールに訴える。


「俺が改造人間になって、唯一気に入っているのはな……。この腕が騎空艇のインビジブルコアを搭載しているところなんだよ……。

…………すると、どうなると思う?」


ーーキィィィィィィィ……‼︎


首を掴んだ手が光り、仄暗い部屋を青白く染め上げる。インビジブルエネルギーの甲高い音が、スティールの掌から鳴り響いた。


「……手から衝撃波が出せるんだぜ?」


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