朱翼の騎空団
「うん! 本当だよ‼︎」
「ああ、本当じゃ‼︎」
「…………なら、よかった……」
「お前ら、ラビに翻弄されてどうする…………」
呆れ果て、見兼ねたスティールが会話に割って入る。ラビの肩をポンと叩き、操縦席へとエスコートした。
「…………ミアミア、ゴルド、エーリ……こんにちは」
「お疲れ様、そして、いらっしゃいラビちゃん」
【ミア・ミアーナ】
21歳。銀髪の長い髪と、すらっと細く、姿勢の良い身体。小綺麗な服に身を包む中央操縦席を担当する、騎空艇レッドハートのまとめ役。
彼女の怒りに触れた者は酷い事になるという、艇内限定の都市伝説まである。
「ラビたん〜、お疲れぇ〜。見事だったよぉ〜。 ぐひっ」
【ゴルド・ワイルドレフト】
18歳。茶色の短髪で、小太りな身体。左舷操縦席を担当し、かなりの機械マニア。騎空艇の修理や武器開発も彼が担当する。
常に何かを食べていて、団員からは太っていると馬鹿にされる事が多い。
座右の銘は、僕は動けるぽっちゃり系。
「ラビ……ナイス自爆、グッジョブ…………そして眠い……」
【エーリ・ライトネル】
17歳。灰色のショートカットで、背はミアよりも低い。右舷操縦席に座り、いつも睡魔に襲われている。
普段の気の抜けた感じからは想像し難いが、一度集中状態になると、どんなに困難な事も余裕でこなしてしまう。
団員からは『眠り姫』などと呼ばれている。
「ラビちゃん、もうすぐディドバルさんの所に着くからね」
「……うん。ミアミア……わかったよ」
「おい! デブっ! ドーナツポロポロこぼしてるだろっ‼︎」
指令席にいるスティールがゴルドに一喝を入れる。綺麗好きな彼の性格や、自分の騎空艇を汚される事をよく思わないのか、苛立っていた。
「デブじゃないよぉ〜! 僕はぽっちゃりだよぉ〜! カリカリしないでよぉ〜、スティールゥ〜……」
「お!ま!え!が!カリカリさせてんだっ!」
ーーさっ、さっ、さっ、さっ……。
床に散らばるドーナツの食べこぼしを、ラビがクリーンモップで清掃する。
一生懸命に掃除するラビを、ゴルドは目を輝かせて見ていた。
「ぐひひっ。ラビたんマジ天使ぃ〜……。優しいなぁ〜」
「おい、デブっ‼︎ だから、ラビにやらせんなって‼︎」
操縦室入り口の扉が、油圧エアー音とともに開き、貴族のような格好をした男が歩いてくる。
「こらこら、ラビ姫の前で汚い言葉はノンノンだぞっ?」
【ルーク・エルトール】
20歳。セミロングの金髪で、女性に対しても、男性に対しても王子のように振る舞う。
朱翼の騎空団、戦闘員としての実力は未知数である。
彼は知らない。言動が気持ち悪いと言われている事を。
彼は知らない。騎空団員に呼ばれている自分のあだ名が『ドブ川のプリンス』だという事を。
「……ルーク、こんにちは」
「こんにちは、ラビ姫。君の王子様……だよっ?」
「…………あ、うん。 王子? ……ありがとう……?」
「ーーほら、ラビちゃん! ディドバルさんのお宅に着いたわよ! 私達も騎空艇整備のために寄らせてもらうわね」
困惑するラビをかばうようにミアが会話に割り込む。
ラビは終始、ルークが話す脈絡の無い会話に、クエスチョンマークを浮かべていた。
騎空艇が減速行動をとり、空中にしばらく静止する。着陸時に騎空艇が安定するように位置どり作業中の事だった。
「あぁ〜、まずいんじゃないかなぁ〜……」
ゴルドが苦い顔で、右舷操縦席側の全面ガラス窓から何かを発見した。他の団員達も窓を覗き込むと、その理由はすぐに明らかとなる。
地上で土煙を巻き上げ、広い敷地の建物目掛けて突進して行く集団が見えた。
「ルーザー共か‼︎ このまま行くとディドバル爺さんの所だな……。 大方レアパーツ狩りだろう。 ……スカーレット! ドレイク!」
スティールは外を見て、スカーレットとドレイクに指示を出した。
『ルーザー』、持たざる者という意味で使われ、騎空艇には乗らず、地上で窃盗や強盗を繰り返す集団である。
「はいよっ! ボクの出番だねっ! ドレイク、援護してあげりゅ」
「任された! ちょっくらぶった斬ってくるかのぉ! ワシに当てるなよスカーレット!」
スカーレットは巨大なアンチマテリアルライフルを担ぎ、ドレイクは帯刀された刀の位置を確かめると、二人して操縦室を飛び出した。
「……スティール、私も……」
ラビがちょこんと、上目遣いでスティールを見つめている。彼女は見るからにディドバルの事を気にかけていた。
「ラビ、お前はレッドハートに待機だ。耐爆メイルも手入れしたばかりなんだ。汚すことはない。それにな……お前には俺たちがいるんだ。ちったぁ信じろ。……行ってくるから留守番を頼む」
「……ありがとう、スティール。お留守番してるね……」
「おやおや? プリンスの事は誘ってくれないのかな? サー、スティール」
「ああ、お前どうせ行かないだろ」
「ふふふ。このプリンスが行かないと思っているのかい? ………………その通りだよっ! さすがサー、スティールだねっ!」
ルークはおどけた後、操縦室扉横にある壁にもたれかかった。いつもの事ながらにウンザリした様子でスティールが飛び出して行く。
「サー、スティールの無事を祈っちゃおっ! 存分に戦ってきたまえ! ポーン達‼︎」
操縦室にはミア、ゴルド、エーリ、ルーク。そしてルークの事を、不思議な目で見つめるラビ。
彼らはお留守番として、上空から地上戦の様子を眺める事にした。