プロローグ
鉄の騎空艇に、落雷地点に響くような轟音が轟く。落雷が直撃したわけではない。その音の正体は騎空艇の屋根を貫いた物体にあった。
『深淵鋼鉄式耐爆メイル』それは金属の鎧。
関節駆動の隙間すら見当たらないような、完全防備。
深淵を包み込んだような、黒より黒い色で、重苦しい雰囲気を纏っている。
ーーあれは深淵鋼鉄の自爆姫……。
薄れゆく意識の中で騎空艇兵士は悟る。
自分の命は幾ばくも無く、すぐにでも力尽きるだろうと。
緊急警報が艇内に鳴り響く。
がちゃん、がちゃん、と鉄格子状の床を歩き近づいてくる。
ーー最後に自爆姫、死神と呼ばれる彼女を見られたんだ。よしとしようか……。
諦め。そんな感情だったのだろう。騎空艇兵士は力無く崩れ落ち、その場で絶命を迎えた。
既に事切れた騎空艇兵士を尻目に、尚も歩みを進める自爆姫。悠然と金属音をたてて歩く様は、正に死神といえる。
ぎしぃっ。重苦しい音を立てて、機関室の扉が開く。
「自爆姫。 ……死神様の登場か。お前を見たものは必ず死ぬ、だったか……? ハッ。笑えない話だぜ……」
「言いたい事……それだけ……?」
「死神様も喋るんだな……しかも本当に女かよ……。こりゃ、尚更笑えねぇ話だ…………。いいぜ。やれよ……」
「……ばいばい」
自爆姫は少し会話を重ねると、腰から巨大な爆弾を取り出した。人の頭ほどある四角い形状の巨大な爆弾は、殺傷力ではなく破壊力に特化しているようだ。
彼女は、何の躊躇いも無く、ゆっくりとフラグピンを抜き取る。
時待たずして想像を絶する爆発が起こり、騎空艇は海へと墜ちていった。