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土曜日に投稿するつもりでしたが、残業になり投稿が遅くなりました。
自分が住まう場所は人が来ない場所を予定している。よって人との関わりが極力少なく、気を遣わなくても良いと思うようになってからは、人間恐怖症がなくなった。あれは知り合い全てに裏切られたことによる一時的なものだったのだろう。
なくなったからといって事実が消えることがないので、自分勝手で平気で嘘をつく人は嫌いだけどね。
街道を歩いていると声をかけてくる人もいるが、そういう人には返事をしないのは基本。ただすれ違うときに登山の時のような挨拶をしてくる人には「こんにちは」ぐらいの簡単な返事は返している。挨拶だけなら害もなければ含みもないからね。
街道まで魔物が襲ってきて瞬殺した後、皮を剥いで晩ご飯にしようとしたとき、私のナイフの扱いが下手すぎて、見かねた冒険者が手を貸してくれたときはほんの少し感謝した。
人嫌いで関わりたくないと思っていても、感謝はまた別口だからね。その気持ちがなくなれば力が有り余っている私は、その内人間じゃなくなり魔物になりそうなので最低限の礼節は忘れないようにしている。
魔物の皮の剥ぎ取りを手伝ってくれた冒険者には魔核と自分が食べる肉以外を全てお礼として差し上げた。ビックボア2匹だったから、どう考えても食べきれずに腐らすだけである。埋めて処理するのも面倒だったしね。お礼も出来て一石二鳥よ。感謝されたし、自分が欲しいものは手に入ったし、言うことなしである。
目的地であるミルトレスの森まで三分の二まで来たところで、どうしようもない不便さに痺れを切らし、街道から大幅にそれ、人が来ないだろう森の近くまで移動した。
「急ぐ旅でもないからね。ちょっとここらで研究でもしましょうか」
アリアは他国から来たので知らなかったが、この辺りでは有名な森であり、封印の森と呼ばれ魔物が多発する、もしくは魔物が生まれる場所といわれ冒険者達ですらめったに近寄らない地域だった。
生息している魔物は中級クラスだが、数が半端なく、一匹やっつければ血をかぎ取ってわらわらと魔物がよってくるので体力が持たなくなりレベル上げや腕試しするまえに逃げ帰ってしまうのだ。
広範囲魔法を個人で扱える魔法使いは現在殆どいない。剣士も一振りで何匹も魔物をやっつけるなんて化け物じみた人間もおとぎ話ぐらいにしかでてこないので、この封印の森はほぼ放置状態だった。
溢れかえって町に出てこられても困るので、半年に一度、国の騎士団と集った冒険者達によって、森の浅瀬で討伐をするぐらいだったのだが、ここのところ魔物が急増化して手が付けられない状態にまでいっていた。
そんな封印の森の手前でアリアは悩んでいた。
「数日研究するのなら、誰にも邪魔はされたくないし、森の中の方がいいかしら?でも何故かこの森、魔物の気配が多いんだよね。奥まで入ると面倒くさそうだわ」
どうしようかな?と悩んでいたのだけど、森と草原の境目は目立つので、少しだけ森の中に移動し、奥までは入らないことにした。
アリアの邪魔をする存在は、魔物も人も同列である。
「まずは拠点となる簡易な家でも作りましょうか」
山に放り出されたばかりの時は洞窟を探して寝泊まりしていたけれど、途中から私には土魔法という便利なものがあるのに気づいて、それからは土魔法で簡単な家を作ってそこで寝泊まりしている。
洞窟なんてほいほいあるものでもなく、不便だなぁ、何かいい方法がないかな?と思案していたときに、ふと、前世の記憶の中に好きで読んでいた本の数々を思い出したのだ。その物語は今の私のように異世界転生した者や異世界転移した者の話があり、土魔法で家を作ったという話があったのを思い出したのだ。それからはそれを参考に家造りをしている。とはいっても、土で作ったかまくらのようなものだけど、それでも十分だ。
簡易な家を作り、その周りに風魔法を込めた魔核を埋めて結界もどきを作った後、手頃な木を切り倒して、ノート代わりのものを十数枚作った。
この風魔法・・・あの山で遭遇した女性達は結界だと言っていたけど、私はまだ結界魔法が使えない。これはただの風魔法であり、認めた者以外の魔力を感知すれば攻撃するという魔道具だ。認めた者以外というのはこの場合は私。それ以外は中に入ろうとすればウィンドカッターで切り刻まれるという仕組みである。あの時はまだ魔核を持っていなかったから、指輪に付いていた小さな宝石を使って代用した。
この結界もどきには欠点があり、莫大な魔力を必要とする。宮廷魔導士達でも1時間も持たないだろう。私には有り余る魔力があるけれど、それでもいざという時のことを考えると、いつかは改良すべきとことだが、それよりももっと不便だと感じるものがあるために、結界もどきは後回しにする。
土魔法で作った家は、足を伸ばして横になれる3畳ぐらいの広さを確保できた。寝るだけなら広いとも言えるが、そこに大量の木板を入れたのでかなり狭い。
数日は籠もるつもりだから、空気の入れ換えのための天窓と、出入り口には扉も作ってある。
「準備万端、さあ、引きこもるぞ!!!」
人間恐怖症は一時的だったとはいえ、街道を歩いていると声をかけられる、寝泊まりする近くにテントを張られ、いくら私に害はないといっても、ちょっと鬱陶しく感じていたので、こうして一人で引き籠もることができる環境に自由さを感じて嬉しくなっていた。
その後は昼夜逆転の生活も苦にならず、好きなだけ引き籠もり、お腹がすけば狩りに出て食事をとり、気分転換に風呂に入って一服する。身体を動かしたくなれば散歩を満喫するという自由奔放な日々を過ごしていた。
面倒だったのは獲物を倒せばわらわらと魔物がやってくると言うことぐらいだろう。それは全てぶっ飛ばし、文字通り彼方へと消えてもらっている。
引き籠もる目的だった物は、実は割と早い段階で出来上がっていた。それは携帯小説やファンタジーによく出てくる所謂インベントリーと呼ばれる収納空間だ。
実はこの世界にも収納鞄があるのだが、余りにも高価で一般人には手が出せない物なのだ。それがこの間、とある商人が持っていたのを見つけて、肉を上げる代わりに見せてもらったのだ。
見るだけならと、商人は鞄を肩にかけたまま身体から離さずに中を見せてくれた。その中は空っぽで底が見えるのに商売に必要な物が入っているという。鞄の中に書かれている魔法陣が収納空間を作り出しているのが直ぐに分かった。
暫くその魔法陣を見せてもらい、記憶したのだ。アリアの脳は記憶力に長けている。それを再現するだけなら簡単だったのだが、容量が思っていたよりも少なく、改良するのに時間を少々要した。
魔法陣を描くというのは魔力量も関係していて、魔力量が不足していると魔法陣が書けないということなのだ。この収納鞄の魔法陣は緻密であり、尚且つ魔力がかなり必要なため、上位の魔法士が数ヶ月かかって書き上げるぐらいの魔力が必要になる。
それをアリアは数日で改良までこぎ着け完成させているのだから、とんでもないチートな魔力量を持っていることになる。
実験にどれ程の物が入るのかを試したところ、一般に出回っているのよりも数倍大きくなものを収納出来た。3メートル級のビックボアが3匹入ったので、暫くはこれで持つと思い、違う研究に入った。だけど、こっちの方が収納鞄を改良するより時間がかかってしまった。
見渡すといつの間にか、草原と森の一部が砂漠と化していたのだ。
それだけじゃなくて私を囲うように集まっている魔物の群れ。群れ。群れ。
魔物同士仲が良いとは言えないのに、互いに争うことなく私に向かってじりじりと距離を詰めてきていた。
研究に没頭していたのが、この魔物の殺気に集中力を切らされ周りの状況を把握できたのだけど、気づいたのはちょっと遅かったみたい。すでにぐるりと囲まれていた。
「これはちょっと調子に乗りすぎたみたいね」
研究のためとはいえ、草原と森の一部を砂漠化してしまったために、魔物達の住む場所を奪われかねないと、原因である私を排除しようとしているとみた。でないと本能に従う魔物達が連携して私を囲うなんてありえないもの。
見える限りの範囲でさえ100を超えそうな数である。一人で太刀打ち出来る数を遙かに超えているが、アリアは魔物に囲まれているというのに、平然としていた。
「ふふふ、魔核がいっぱい。これだけあれば私の仮説を検証できそうだわ!」
いや、魔物に囲まれているという現実よりも、身体に内蔵されている魔核を乱獲できることに歓喜していた。いくら実力があったとしても、とんでもない精神力である。目先の魔物の群れよりも、研究のことに目を向けるのは、狂気を逸しているマッドサイエンティストと呼んでもいいだろう。
「ここまで砂漠化しているのだったら、大きな魔法を使っても問題ないわよね!さぁ、私に魔核を頂戴!」
本来なら抑えるだけ抑えている魔力を解放して、360度、全方向にまずはウィンドカッターをお見舞いする。
『『『ギャウッ』』』
たった一度の魔法で、最前列に位置していた魔物が真っ二つに裂かれ、飛び跳ねて難を逃れた魔物もいたが、その後ろの魔物が切られていく。
これを皮切りに魔物達がいっせいにアリアへと向かっていく。
「次はファイアー!・・・・・・あ、これは悪手だった」
全方向に火魔法をかけたけれど、ファイアーはあり得ない数を生み出したものの、隙間が多く、すり抜けた魔物が全速力で駆け寄ってきた。
いくら魔法に長けていて魔力チートであっても、素の力は一般女性と変わらない。魔物に噛まれたら一巻の終わりである。
「ちょっと不安定にないそうだけど、ストーンウォール!」
瞬時に自分の周りに石の壁を生み出した。同時に自分の足下にもストーンウォールをかけ、飛びかかれない位置にまで地面を押し上げた。
スピードを殺せなかった魔物が石の壁に激突する。石壁が完成するまでに飛び越えて近寄ってきた魔物は、飛び越えられない石柱の上にいるアリアに威嚇をする。
「ごめんねぇ。楽しく自由に生きると決めたから、そう簡単には死にたくないのよ。だからその為に魔核を頂戴ね」
真下で唸っている数匹の犬型の魔物に向かって避けられない数のウィンドカッターをお見舞いして大人しくしてもらった。
そこからは・・・いや、初めから一方的な惨殺となっている。
ちまちまとやっつけるのも面倒になったから、何十、何百という空を隠すほどのライトアローを生み出し、地上へと降り注ぐことにより一発で終演を導こうとした。
魔物にとって聖なる光は弱点の一つであり、扱える者は少ないと言われる光魔法は絶大で周りには魔物の死骸しか残っていなかった。
しかしこの魔法のお陰で新たな魔物が呼び出されてしまったのである。
魔物に対し過剰と思えるライトアローは魔物だけでなく、砂漠化した範囲を超え、森の一部まで破壊した。そこには光魔法でしか封印が解かれない封印の碑石があったのだ。それまで見事に粉砕してしまったのをアリアは知らない。
これでまた暫くは研究に没頭できると思っていたのに、森の奥からとんでもない魔力量をもった生き物がこちらに向かってくる気配を感じて、アリアはそちらに視線を向ける。
『お前か、我を封じ込めていた祠を壊したのは。礼を言うぞ』
現れたのは体長三メートルはありそうな黒い狼だった。首の周りの鬣だけは白く、瞳は紫で尻尾が三つあり、明らかに他の狼とは違う特徴を持っていた。
どこをどうみても魔物だわ。
威厳と風貌、それだけでも今まで吹っ飛ばしてきた魔物とは格段に違う。何より言葉を発していることから格が違うのが分かった。が、アリアは怯えることもなかった。
「あなたは言葉が分かるのね。だったら話は早いわ。お礼なんていいから何処かに行ってくれない?私は忙しいの」
自分で作った石柱に階段を作り、そこから降りながら新たに現れた魔物には目もくれない。
『なんと。我を見ても顔色も変えず、平然としているとは・・・お前は馬鹿なのか?我をただの魔物と思っているようなら後悔するぞ。我は200年の封印から解き放たれて暴れたいのだ』
「そう、だったら他で暴れたらいいじゃない。私に迷惑をかけなければ何だっていいわよ」
この魔物が言うとおり、200年封印されていたのは見て取れる。溜に溜め込んだ淀んだ魔力が魔物の身体を包み込んでいたからだ。
少しでも刺激を与えれば爆発しそうな濃い魔力に下手に突っつくと本当になりそうなぴりぴりとした空気をまき散らしていた。
体内に留めておけないほどの魔力って、かなり上位の魔物のようだわ。よくこんな魔物を封印できたわね。
『我を封印した奴らを皆殺しにするつもりだが、その前にお前を殺して余興とするぞ』
「・・・・・・」
この魔物は言葉を介し知性があったとしても、所詮は本能で狩りをする魔物であったよだ。――いや、少々違う。知性、理性に蓋をかけ、封印を施した人間に対して怒りを溜め込んでいたのだ。
「私の研究の邪魔をするのなら受けて立つわよ。あと少しで完成できるというのに、鬱陶しいわ!」
もし見物者がいたのなら、この世の終わりが来たと絶望することだろう、アリアと魔物との戦いが始まる。
次の投稿は来週末を予定していますが、昨日のこと(残業)もあるので未定ということで。