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明日は投稿できなさそうなので、少し早めに投稿しました。

ここから前作で端折った部分が入ってきます。



 川の上流を目指して歩くこと2時間弱、そろそろ日が沈みかけあと1時間もすれば、真っ暗になって何も見えなくなる。寝床を確保しなければ・・・といったところに、丁度良い洞窟を見つけた。人が中腰になって入っていけるぐらいの洞窟だ。


「大抵こういうところは先客がいたりするんだけど・・・」


 木の陰に隠れて様子を見ていると、やっぱりいました。それも最悪なことにゴブリンじゃない。


 二匹・・・ゴブリンの単位の呼び方が分からないから「匹」にしたけど、ボロボロで折れそうな槍をもって洞窟から出てきて周りをうろうろしている。性欲と食欲が強いけれど、多少の知能を持っているから警備をしているんだろう。

 ゴブリンは一匹いたら五十匹はいると思え。といわれているから、最低でも五十匹はいるはずである。ゴキブリ扱いだけど、私からすればゴキブリの方がまだ可愛く思えるよ。それぐらいこの世界のゴブリンは醜悪なのだ。

 兎に角、目先のゴブリンを吹っ飛ばすことにした。その悲鳴を聞きつけ、5匹が表に顔を出したから、更にそれらも魔力を飛ばして吹っ飛ばす。

 風魔法を使えば血が飛び散るし、火魔法を使えばその場に死体が残ってしまう。土魔法だと周りの土がなくなってしまうので、これ以上歩きにくくなるのは嫌という理由で、水魔法でも良かったかな?と思ったけれど、最初に使ったのが魔力の塊だったからついそれを使ってしまった。


 その後にも5匹出てきて吹っ飛ばしたけれど、残りがなかなか出てこない。

寝泊まりするにはいい感じだから、ここを諦めるのは嫌だ。

ちょっと危険だけど火魔法であぶり出すことにした。

 洞窟近くの枯れ葉や枯れ木に火を付け、洞窟内に煙が入るように風魔法で調整する。そして時間がたてば・・・・・・わらわらとゴブリンが出てくる、出てくる!出てくる尻から全部吹っ飛ばすこと30匹ぐらい。まだいるはずなんだけど、出てこないな。


 広がりつつある火を水魔法で消して、仕方ないから洞窟内に入り込んで掃除をすることにした。

 あんまり接近したくないんだけどね。


 入り口は中腰にならないと入れないけれど、中に入ると思ったよりも広く普通に立って歩けるどころか手を伸ばしても届かないぐらいの天井の高さだ。そしてなにげに明るい。

 どうやらこの奥には別部屋があり、そこは上に向かって穴が空いているみたいで、煙はそこから外へと流れ出してしまい、別部屋にいたゴブリン達は出てこなかったようだ。

 十匹以上がこの部屋に集まっていたけれど、天井に空いた穴から全て追い出してやった。今までのようにただ吹っ飛ばすわけに行かなかったから、風魔法の竜巻でゴブリンを巻き上げ穴から放り出した。結構な高さに巻き上げてやったから、上空の風にさらわれ、何処かに落ちたと思う。幸い真下であるこの洞窟辺りには落ちてこなかったようだ。

 ちょっと離れた場所で大きな音がしたけど、目の前にいないのならそれでよし!


 さて、ここからが大仕事である。ゴブリンの住処である洞窟は不潔なのだ。ただゴブリンがいたというだけで、嫌悪の対象になる。なので、洞窟全体を熱湯消毒することにした。

 一度外に出て、入り口から100度近い熱湯を大量に入れ洞窟内を満たした後、熱湯を上空に上げて処理。その内どこかで汚れた雨が降るだろう。

 本当なら洗濯機のように渦を作って洞窟全体を洗いたかったのだけど、そうすると亀裂が入り崩れるかも知れないのでやめた。

 一緒にゴブリン達が集めただろうゴミも一緒に上空に昇っていったのだけど、まぁたいした物でもなかったし大丈夫だろう。


「あの・・・・・・あなた様は名のある魔術師様なのでしょうか?」

「助けていただいて有り難うございます」


 戸惑いながら私に声をかけるその存在を、ゴブリンの寝床を掃除することに力を注いでいてすっかり忘れていた。

 声のする方に振り向けば、いかにも高そうなドレスを着た二十歳前の女性と30半ばの侍女風の服を着た女性が二名いた。

双方とも顔を引きつらせているのはどうしてだろう?


 この女性達はあの別部屋にいたのだ。ゴブリン達にさらわれたのだろうと予測している。身なりは整っているから無体なことはされていなかったようだけど、あのままだと確実に人が住むところには戻ってくることはなかっただろう。


「貴方たちまだいたの?」


 この人達がとらわれていたのはたまたまで、助けたつもりもない。見たくもないゴブリンが住んでいたこの場所からすぐさま逃げ出していたと思っていたけど、いたのね。そして洞窟清掃を見ていたんだ。

 こんなところで、人と出会うなんて想定外だったから、魔法を見られてこちらもどうしていいのやら困惑してしまう。


「助けていただいてそのまま逃げるなんて出来るはずもありません」


 そう言い切る20歳前の女性は、どこかの貴族なのだろう。気品があふれていた。


 これは厄介なことになったぞ。

 でもだからといって人殺しはやりたくないし。あのまま何処かに行ってくれていたら良かったのに・・・とは思うけれど、この女性二人で山を下りることも登ることも出来そうにない。


「私のことは放っておいてくれた方が助かるんだけど。ちなみに貴方たちはどうするつもり?正直、面倒はみれないよ」

「それは・・・・・・」

「いくら助けていただいたと言っても、姫様に対する言葉に無礼がすぎます」


 侍女風の女性は、見た目通りこの女性の付き人だったようで、私の態度と言葉に憤りを感じているらしい。

 だったら姫様とやらを連れて早くこの場を立ち去ればいいのに。


「リーナ!失礼ですよ!」

「ですが・・・・・・はい・・・申し訳ありません」


 あ~あ、侍女さんが怒られてしまったよ。可哀想に。なんとなく侍女さんの悔しさが手に取るように分かるよ。前世では中間管理職だったからね。気持ちが分かるけれど、私は自由に生きると決めたら、態度も言葉も改めないけれどね。


「もう好きにすれば?私は暫くこの洞窟でやることがあるから入るけれど、私の邪魔をしないのなら洞窟で助けを待ったらいいじゃない。でも、私の用が終わったら貴方たちの助けが来なくても旅立つからね」


 どうしてさらわれるようになったのかは分からないし興味もないけど、姫様と呼ばれるぐらいなのだから、捜索隊が結成されるだろう。

 問題はこの人達が、コーネルフに行って私のことを話さないか、と言うことだ。戻るつもりはないけれど、生きているのを知られて討伐隊やアサシンが来られても厄介だからね。

 人型のゴブリンは倒せても・・・正式には全部吹っ飛ばしたから倒した瞬間はみてない・・・人を殺めるのはどうも気が咎める。


「ただ一つだけ約束してもらいたいことがあるの。私とこの山で出会ったことは誰にも内緒にして欲しい。もちろんこれからやろうとしていることを目にしても誰にも話さないで。それを約束できるのだったら、一緒に洞窟に入っていいよ。食料もついでだから調達する」


 彼女達は願ってもない提案だったので、二つ返事だった。まぁそりゃそうだよね。こんな魔物が多発している山で二人だけで帰れ、と言ってもたどり着けるわけがないし、見るからに年下である女の私でも、さっきの魔法を見ていればそこいらの護衛よりは役に立つ。私の近くにいれば助かると思っても仕方ない。ただ私にとっては面倒しかないんだけどね。


 雨風を凌げる最高の洞窟を見つけたのはいいけれど、寝床としてはごつごつとした岩が目立って寝ることは出来ない。さっきゴミとして舞い上げた中には布団として使っていただろう布もあったけれど、ゴブリンが使っていたものを使い気にならないから勿体ないとは思わない。


 女性二人を洞窟に残し、そろそろ日が暮れようとしているぎりぎりの時刻に私は外に出た。お目当ては大きな木だ。大人二人がかりで抱え込むぐらいの幹があるのが好ましい。


「これが丁度良さそうだわ」


 直径にすれば1メートルはあるかしら?

 その大木を根元辺りから風魔法で切り、風魔法をふんだんに使って出来上がったのは横幅1メートルちょっと、縦幅は2メートル弱、厚さ三センチぐらいかな?の板を3枚作った。

 これをベッド代わりにするのだ。

 木って割と重たいのよね。だから二人も呼んできて、運んで簡易ベッドの出来上がりだ。掛け布団はそこら辺に生えている大きな葉っぱを数枚使用。

 荒っぽいけど十分だろう。

 そして余りまくった木でA4サイズの板を多数作る。これが今私に必要なもので、後は枯れ木をとってきて、焼いて炭を作った。ノートと鉛筆の変わりだね。

 あの二人と、川で捕ってきた魚を夕食にして、ようやく私の時間だ。

 この山に入って一番不便だと思ったのは、山を歩くための靴でもなく、邪魔だと思う服でもない。生きていくのに必要な食料だ。

 山には沢山の食料がある。ただ同じだけ毒をもっているのだ。それを見分ける方法が私にはなく、きのこや山菜を見つけても食べられるかどうか分からないのだ。幸い魚は内蔵を食べなければ大丈夫なものが多いから食べているけれど、そればかりだと嫌気がさしてしまう。

 リスもどきが食べていた実は大丈夫だと思うけれど、私が採取した山菜は謎である。そこで【鑑定】が出来れば・・・と考えたのである。

 【鑑定】は弟、ニコラスが切望していた魔法で、女神の加護を持っていないと使えない魔法だ。どういうわけか私には女神の加護を持っているので、扱えるようになるはずだと考え、研究をするためにノートと鉛筆を作った。


 この世界には魔法がある。何もないところから水や火を出すことが出来、とっても便利である。だけど、適性がなければ魔法としてあつかえない。そう、魔法として扱えないのだ。じゃあ適正のない人が扱うにはどうすればいいか、それが魔法陣なのだ。魔法陣に魔力を流し発動させることによって、発動させることが出来るのだ。それを応用しているのが魔法具と呼ばれている。

そしてもう一つ、適性があっても直ぐに魔法を扱えるわけではなく、一つ一つの魔法陣を扱い、身体や脳がそれを一部の間違いもなく記憶することによって、ようやく自分のものとして魔法として扱えるようになる。


 この世界の人達は皆、私も例外なく、魔法陣を教科書として魔法を覚えていった。

そして適正のない人は魔法として扱えずに、魔法陣に頼るしかない。

つまりは、新しい魔法を身につけたいのなら、まずは魔法陣が必要だということなのだ。


「【鑑定】の魔法陣なんてどの書物にも載っていなかったんだよね。さてどうしようか?」


 木材のノートと墨の鉛筆を持って固まっていても始まらないから、兎に角思いつく限りのことを魔法陣に書き込んでいった。


 『鑑定』『女神の英知』『食用の有無』『物の説明』本当に思いつく限りを、魔法陣の基本である円の中に埋めていく。その際に文字数の少ないものを選んでいくから、漢字があったり記号があったり、この世界の文字や古代文字があったりと多種多様の文字となってしまった。でも、これが私の今まで使っていた魔法陣の改良の仕方である。特に漢字は重宝している。文字数が少なくて意味が深い。ただ画数が多い場合があるからその時は英語だったりこちらの言葉だったりする場合もある。

 魔法陣に魔力を注ぐというのは、描かれた陣にそって魔力を流すということで、画数が多すぎると発動までに時間がかかるからだ。


「一応出来上がったけど、結果はどうだろうか」


 魔法の種類にもよるけれど、失敗すると爆発したり発火したりするので、極力魔力を抑えて微々たる魔力を魔法陣に流し込む。

 初めての魔法陣だから、なぞっていくのにも時間がかかり、3分ぐらいしてようやく描くことが出来た。

 結果は・・・・・・無残。中央に乗せていた山菜と魔法陣を描いた木片も何故か塵となってしまった。


「ありゃりゃ、まぁこっちに害がない失敗例だったからよかったわ」


 上手く発動した文字は青く光るので、それだけを抽出して新たな言葉を足していく。そして組み合わせも重要になってくるから、何通りになるか、気の遠い話しである。

 だけど私には時間がたっぷりある。お妃様の修行もなく、学園に行くわけでもない。自分の好きなように時間を使っていいのだから、好きなことに没頭してしまうのは仕方がないと思う。

 あの二人がいなかったら寝食を忘れて研究していただろうと思う。時間が来たら「お腹がすいた」と侍女が言いに来て私が魚を捕ってくる。夜になると「もう寝ましょう」とお姫様が声をかけてきたので、目の疲れと肩こりは激しいけれど、身体の調子を崩すことはなかった。

 結局【鑑定】と呼べる物が出来たのは1週間後だった。その時には既に二人の姿がなかったのだけど、彼女たちが使っていたベッドに炭で「迎えが来たようなので帰ります。有り難うございます」とメッセージが書いてあった。

 はて、いつ迎えに来たのやら?そういえばいつからご飯を食べていないのだろう?かなり空腹だし、睡眠も余り取っていなかったようで目が回っている。

 こりゃ、休んだ方がいいな。


 仮眠を取った後、残っていたウサギの肉を食べて洞窟を後にした。

 魚を捕った帰りにウサギを狩ったのは何となく覚えているけど、皮を剥いで内臓を取った覚えがないから、多分、侍女さんがやったんだと思う。

 仕方なしに一緒にいたけど、助けられたのは私の方かも・・・。もし今度会うことがあれば、借りはきっちりと返すとしよう。でないと私の気が済まない。


 超、簡易な【鑑定】の魔法陣が出来たので、元ゴブリンの巣窟を後のする。



*******


 その頃の姫様達は、迎えに来た騎士達に守られ馬車に乗って国へと向かっていた。一緒に侍女も乗っている。


「助かったのは本当に奇跡ですね」


 お忍びの観光で、山の近くの湖に来たのはいいけれど、山から下りてきた魔物に襲われ、数人の騎士達と隠れる場所を探して山へと逃げた。とこどが、この山は魔物が多く、騎士達とはぐれたところにゴブリンに浚われたという、とんでもない不幸の連続だった姫様達だった。だけど、運良くアリアが来て、ゴブリンに孕まされるというのは避けられ、こうして無事に国へと帰ることが出来るのだから、あのタイミングは奇跡としか言いようがないだろう。


「そうね。あの女性がいなかったら・・・と思うとぞっとしませんわ」

「もし、ゴブリンから逃げることが出来たとしても、野宿で体力を使い果たして今頃は屍となっていましたね。ですが、あの女性は変わった人でした」

「確かに変わっていましたが、良い人ですよ。文句を言いながらも私達の食料や寝床を確保してくれていたのですからね」


『少しは自分たちで食料を調達しようとは思わないの!?』

『眠りたかったら勝手に寝ればいいじゃない』

『覗いたところで何をやっているのか分からないのだから見ないでよ』

『はいはい、ご飯ね、面倒くさいわね』

等々、アーノルト国の姫に向かって、あり得ない暴言を吐きまくっていたが、魚ばかりじゃ飽きるし体力がなくなるからとウサギを狩ってきてくれるし、気分転換にとお風呂まで作り、残り湯で良かったら入ったらいいわ。勿体ないからと。野宿ではあり得ない待遇だった。

春に向かっているとはいえ、朝夕は冷え込む。薪の番をして常に火を焚いてくれていた。薪が少なくなれば、魔法で火を生み出し続けていたし、夜に魔物が入ってこないように風魔法の結界を洞窟の入り口に張ってくれてもいた。


「火と風魔法を一晩中維持出来るなんて凄い魔力量ですね。他にも水と土魔法も使えたようですし、どうしてこんな山にいたのでしょうか?」


 最低でも四属性の魔法を操り、一晩中魔法を使っていても枯渇しない魔力量があれば、国が放っておかず、魔法省のトップに位置いてもおかしくはない。そんな魔法士が山に一人でいるのが不思議でならない二人だった。


「着ていたのはドレスでかなり良いものでしたから、身分もそれなり高いでしょうけど、私達は彼女のことを詮索しない、出会ったことは秘密にするという約束を交わしたので、これ以上は分かりませんね。でも、近いうちに何らかの形で彼女は表舞台に出ると思いますよ。その時に今回のお礼をしましょう」

「そうですね。あの魔法陣が何を作っているのか分かりませんが、新たに魔法陣を作ることが出来て、多種多様の魔法を扱える存在なんてそうそういませんものね。はじめは無礼な人だと感じましたが、私も今は感謝しています。お礼をするときは私も一緒に連れて行ってください」

「もちろんですよ」


 アリアはただ単に自分が快適であればよいと行動したのが、この人達にとっては5日間生き延びたことに繋がった。


「ただ一つ、魔法陣に没頭する余り倒れていないか心配ですわね」

「いつ出来上がるのやら・・・私達が声をかけなかったら、いつまでもやっていそうでしたね。私が書いたメッセージとウサギの肉に気づいてくれたらいいのですけど」


 コーネルフ国に外交で書状を渡すために来ていた姫様のお忍び観光は、一般人でも体験できない冒険で終わりを告げる。


*******



次の投稿は来週の週末を予定しています。

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