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始まりのお話

シュッ、シャン、と響くのは剣が空を切り裂く音。その音に合わせて動くのは、燃えるような赤茶の髪。


「コナル? …こんなに朝早くから起きていらしたなんて」


なんの前触れもなくそこに入ってきたのは、類希な美貌と悪魔でさえも心を開くと言われる美しい心を兼ね備えた女性、リアノンだ。


「女王陛下…。おはようございます」


そちらの方を見て驚きを見せた赤茶髪のコナルと呼ばれた少年が頭を垂れる。そう、彼女は一国を治める女王なのであった。すると、それを見たリアノンが声を上げた。


「コナル、堅苦しいのはやめてと頼んだはずです。…貴方はいずれもっと上の称号を他にいれることが約束されているのですよ。今からそれでは困ります」


仕方なく、といった形で顔を上げたコナルだが、まだ不服そうな様子だ。


「陛下、そうは言っても私は一介の騎士に過ぎません。出過ぎた真似をするわけには行きません」


それに…、と少し顔を歪めつつ続けた。


私はまだ”英雄騎士“では無いのですから、と。


そんな彼の様子を見て、リアノンは眉尻を下げて困った様に笑った。…彼と同じだ、と。そんな切ない想いを抱えて。


「本当に真面目ですねえ、コナル。…分かりました。ですが、その時が来たら貴方は私と近しい立場になるのです。………分かりますね?」


「…それは、分かっています」


彼の剣の柄を掴む手に力が入ったのは、おそらく無意識だろう。責任、使命、そして決意の表れでもあるはずだ。


「なら、良いでしょう。…朝食はしっかり採ってくださいね」


踵を返す彼女の背中に迷いはなかった。…けれど、少しだけ寂しげに見えて、コナルは眉を寄せた。


*********


レールティア王国。それが、女王リアノンの治める国である。最大の都市であるシュペールは毎日活気で溢れており、その中心にはレールティア城がそびえ立っている。


レールティア城に住まう人々は、大きくわけて三通りだ。一つ目は、勿論のこと王族。そしてメイドや執事といった使用人たち。これが二つ目。最後の三つ目は、王国騎士団の団員たちだ。


団員は見習い、下っ端から始まり幹部、そして団長…と膨大な人数が存在し、全ての人数を把握しているのは団長だけだとか、団長さえもすべては把握しきれていない、だとか言われているが、真偽のほどは定かでない。そして、コナルはここの見習い団員である。


時刻は現在六時半。団員たちが朝食を摂り始める時刻だ。


団員たちの朝の会話は、雑貨屋の看板娘が綺麗だとか、その娘には許嫁がいるだとか、はたまた隣町では空き家から謎の音が聞こえてくるから何か起こるんじゃないか、だとか、もっぱら誰かが聞いてきた街の噂の交換に尽きる。そのほとんどはくだらない内容なのだが、たまに重要な話や意義のある話も混じっているため、団員たちはこの時間をとても大切にしている。


「おいおい聞いたかお前! 笛吹きの精霊の話!」


興奮気味に口を開いたのは、団内でも有数の情報通である中堅のファーガスだった。朝からそんな大声を聞いて、彼の後輩であり一番のお気に入りのオスカルは思わず耳を塞いだ。


「先輩…耳元で大きな声を出さないでくださいよ。朝ですからね!」


「おい、聞いてんのかお前!」


オスカルの話を聞いているのかいないのか、ファーガスは再び話しかける。


「あー、…ほら吹きの小人でしたっけ?」


「違うわ!」


またやってるよ、と他の団員は呆れたり笑ったりしながらその横を通り過ぎる。なんせ、朝からファーガスに絡まれたら面倒くさい。そんな感じでかなり軽く扱われているファーガスだが、腕は確かなため本心では慕う後輩も多い。


コナルもそんな一人であったため、先を行く先輩に混じって本日も茶番劇の横を通り過ぎようとした…のだが。


「よう、コナル! お前は知っているよな?」


「は、はい?」


ふいにファーガスがコナルの方を振り向き、話を振ってきた。無論、そんなことを予期していないコナルは間の抜けた返事をした。


「だから、“笛吹きの精霊”の噂だよ!」


「ふ、ふえふき…?」


_ああ、面倒くさいことになった。コナルとファーガスを除いた団員たちは皆同じことを思った。コナルは街の情報に関して、ファーガスとは正反対の位置にいる人物なのである。…つまり、団内有数の情報知らずであった。


「ファーガスさん? あの、本題に入りましょうか。僕も聞くんで」


これは駄目だとさすがに思ったのか、オスカルが助け舟を出した。彼が目配せすると、コナルは小さく頭を下げて、朝食の乗ったトレーをオスカルの横に置いた。


「なんだオスカル、今日はやけに素直じゃないか。 よし、じゃあ話してやる! よく聞けよ〜?」


いつもよりノリノリで、ファーガスが話し始めた。

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