新たな依り代
体を磨いたリーシャは、息を飲む程美しかった。ボサボサだった髪は一つの乱れもなく、色も燃え盛る炎のように鮮やかだ。垢と泥だらけだった体はクリームを垂らしたコーヒーの様な褐色で、傷ひとつない玉肌。そして瞳は紅く光り輝いていた。
幼女から少女になろうとしている肉体は、生命に満ち溢れている。なんかムラムラしてきたぞ。
「おーっ、ふくもピカピカ。」
はっ、いけないいけない。
「そろそろ昼だな。」
雑念を振り払うために頭を振って、朝の残りを焼き直して食べる事を勧める。
渇水以外欲求が無くなったと思っていたが、どうなのだろうか。考え込んでいたら、いつの間にか時間がたっていた。日が傾いている。
「ユニエは、ずっとここにすんでるの?」
食べ終わって暇になったのか、リーシャが話しかけてきた。
「へ?あ、ああ。生まれた時からな。」
「ひとりで?」
「そうだ。」
「…さびしくないの?」
「そうは言っても、この泉からは出られん。出られるものなら、出たいさ。」
今の会話から何か思うところでもあったか、黙り込んでしまった。
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あれ?喉が渇いて来た。そう思った瞬間、衝動が湧いた。どこかに水、無い無い無い。血は、ああ、目の前にあるじゃ無いか。日が沈んで暗くなった中、一つの赤い光が誘蛾灯のように妖しく光っている。水を放つ。捕まえたたら首を
「ユニエ、私が貴女を外に連れて行ってあげる。」
獲物が何か言った。
「だからーーーー」
捕まえた。首に…
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何かに包まれいる。水?じゃ無い。もっと暖かい何か。温もり、充たされて、何もかも塗り潰すような安らぎだ。ここにいれば大丈夫だと本能が囁く。そうだな、きっと大丈夫。満足だ。
「…!」
誰かが呼んでいる。だけどどうでもいい。今幸せなんだ。
「..エ!」
溶けて消えてしまいそう。
「ユ.エ!」
あっ、やばい。喉渇いてきた。
「ユニエ!」
目が覚めると、女の子がいた。紅く輝く一つの目。確か…
「リーシャ。」
「ユニエ!良かったっ!生きててくれて!」
ポロポロと涙が落ちてきて、顔にかかる。それを吸収して渇きが収まる。しょっぱい。血よりは美味しいけど。
しばらくして落ち着いたのを見計らって声をかける。色々聞きたい事があるけどまずは
「なんで左目が無くなっているんだ?」
紅い二つの光の内、片方が消えていた。
「全部、全部話すね。」
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地面に座って対面する。浮かんでいてもよかったが、何となく目を見て話さないといけない気がした。
「私は忌子なの。エルフは普通金髪碧眼で色白、なのに私は全部違う。
でもそれだけならまだ良かったかも知れないけど、私は特別な魔法が使えたの。代償魔法って言うんだけど、体の一部を犠牲にして、望みを叶えるのに適したように肉体を変革させるの。この左目はその代償。」
「何を願ったんだ?」
「周囲の人の害意とか、欲望をなくす事。期限は一日だけなんだけど。」
ああ、それでこの子を殺して、血を吸おうと思わなくなったのか。衝動も消えていたけど、その効果が切れたから一気に強まったのか。何もかも忘れる程に。
「 さっき、何をしたんだ。すごい幸せな気持ちになったんだが。」
衝動が来てリーシャに襲い掛かったが、あと一歩というところでいきなり意識が暗転して、何かに包まれている感覚を味わった。
「代償魔法を使ったの。ユニエを外に連れ出してあげたいって思ったから。」
「?代償魔法は体を変化させるのだろう?何をどうしたら…」
「貴女が泉から出られないのは、ここが貴女の依り代だからだと推測したの。だから新しく依り代を作れば、泉の外にもいけるんじゃないかなって。それで正解だったみたい。」
マジで!
「おおぉ!本当だ、出られる!」
ひとしきり泉から解放された事を味わっていたら、疑問が湧いた。
「そもそも依り代ってなんだ?」
「精霊が自己存在を保つのに必要な物だよ。石や木だったり、この泉だったり、形は色々だけど。依り代からは一定の距離以上離れられないの。だから新しい依り代を作れば、外に出られるよ。」
「新しい依り代を代償魔法で作ったということは…もしかして、お前自身が依り代なのか!?」
「その通りよ。正確には、私の子宮と卵巣だけど。」
「えっ。シキュウトランソウ?」
「子宮と卵巣。もしかして知らないの?子宮と卵巣っていうのは「いや知ってる説明しなくていい!」…そう。」
どうしよう。聞き間違いがじゃなかった。
「その、なんていうか、いいのか?子供ができない体になっても。」
「大丈夫よ。だって、これからはずーっと、貴女と一緒に居られるんだから。それに…」
最初はニッコリ笑顔で言って居たのに、最後の方は無表情でブツブツ呟やいて聞き取れなかった。うーん、聞きなおそうかな?でも私もよく独り言言ってたし、良いや。
「ほら、もう夜遅い時間だ。続きは明日にしよう。」
「ふふふ。そうだね、おやすみ。」
何故か不安を感じる。