未知の思い
私が適当にウサギを捕まえて、リーシャに渡した所、彼女は魔法で火をつけて丸焼きにして食べようとした。慌てて止めて、湖の底からナイフを持ってきて毛皮を剥いだ。血抜きをせずに焼き始めたけど大丈夫なのか?
「大丈夫なのか?」
「うん、おいしいよ!たべる?」
「いや、いらん。というか、もっとしっかり焼け。」
笑顔で生焼けのウサギ肉を差し出してきたので、引きつった笑顔で遠慮した。血が滴る肉を頬張る姿は、まるっきり野生児である。
一通り食べて満足したのか、眠そうだった。
「おや…すみ……」
「おいおい。」
寝てしまった。なんなんだこの子は。こんなところで寝ては風邪をひくぞ、まったく。火を絶やさないようにしないとな。俺ーーーおっと、私には火がつけられない。泥やら埃やら、明日の朝になったら体を洗ってやらなきゃな。
そこまで考えて、気がついた。
「なんで俺ーーー私が保護者をしてるんだ!」
「うにゅぅ」
はっ、大声を出したらこの子が目を覚ましてしまう。じゃなくて、
「今までだったらほっとくか、血を吸う為に殺してたはず…」
子供だから躊躇っている?そんなことはありえない。今更気にしない。それに、そろそろ渇いてきてもおかしくないのに、ちっともその気配がない。ウサギを食べる時に血を見ても、吸収したいとすら思わなかった。
「えへへ、ユニエェ」
だらしのない寝顔を、戦慄を持って見た。
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朝までずっと考え込んでいたが、何も分からない。
半日以上たっても衝動が来ない。渇水の消失が何よりも恐ろしい。生まれ変わった時から渇きだけは共にあった。それが無くなる。明確な異常事態だ。
泉を飲み干し、どうにもならなかった時と同じぐらいの恐ろしさだ。
「おはよ〜」
「お、おはよう」
挨拶を返す。それだけのことで嬉しそうにする。
「朝ご飯はいるか?」
「くれるの?ありがとう!」
水を吸収し続けた時は、何もかもどうでもよくなり、充足の中に包まれていた。
それと同じぐらいの魅力を、この子は持っているのかも知れない。一晩中悩む程の不安が霧散していた。しばらく一緒にいよう。ウサギ狩りをしながら、結論付けた。
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「さ、体を洗うぞ。服を脱げ。」
「はーい」
服は服で水球にいれて、渦を作ってかき混ぜた。洗濯機である。
体の方も水球の中いれて水流で揉んだ。どれほど汚れていたのか、すぐに水が黒くなる。何回か水を入れ替えて、やっと黒くならなくなった。
「次は髪を洗うぞ」
「おねがいしまーす」
女の子だからな、髪は丁寧に洗ってやろう。ボサボサの髪をこれまた水球にいれて手洗いする。その時気がついた。こいつもエルフだったのか。耳が長かった。耳も洗ってやろうと手を這わせたら
「きゃあ〜。くすぐったい。」
「こら、じっとしてろ。」
右耳を捕まえた! 左耳はどこだ?
「ない…」
左耳が見当たらない。髪をかき揚げてよく見たら、根元から千切れるように無くなっていた。動きが止まってしまった。沈黙が降り立つ。
「ねえ、まだー?」
「あ、ああ、もう直ぐだ。」
いずれ聴こう。或いは自分から話してくれるまで待っていよう。
「ほら、終わったぞ。」
「ピカピカー?」
「ああ、ピカピカだ」
「ありがとう〜」
水を吸収する時以外にも、穏やかな気持ちになれるんだな。
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