新たな日常
独り言以外喋れるのって、いいことですね。
いつも通り狩りを終えて、水遊びをしていたある日。薄っすらと霧を展開して、周囲の警戒を欠かしたことはなく、その日は異常がなかった。
なのに、わからなかった。霧に引っかからなかった。気付いたのはお互いに目があってからだった。
「女の子?」
呟きが漏れた。自分より少し年上ぐらいの少女。汚れてボサボサの赤髪。褐色の肌。こちらを興味深そうに見つめる紅い眼光。ここに来るまでについたのか、泥だらけのボロキレを身に纏っていた。
「だあれ?」
質問された。思ったより舌足らずだな。
「おーーー」
この姿で俺はおかしいか。
「私はーーー」
答えにまた詰まる。俺は、いや私は、なんなんだ?少なくとも人間の男ではないな。
「せいれいさん?せいれいさんなの?」
せいれいさん、精霊か。まあ、水を操れるし、
「そう、私は水の精霊である。」
精霊なら少し偉そうな感じがいいかな?
「わたしリーシャ。せいれいさんのおなまえはなんていうの?」
名前、名前か。前世のを名乗るのも変だしな。正直に言うか。
「名前はまだない。」
「ほんとう?じゃあじゃあ、わたしがつけてもいい?」
「えっ…まあ良かろう。」
すごいグイグイ来るな、この子。まあ自分で付けた名前を名乗るのもなんだか恥ずかしいし、いっか。
「やったー!えっとねえっとね、あなたのなまえは…ユニエ!ユニエだ!」
「ユニエ、ユニエ、ユニエ…うむ、いいだろう。私はユニエだ。」
ユニエ、何か意味がある言葉なのか?
「なあ、何か「よろしくね、ユニエ!」…ああ、よろしく、リーシャ。」
嬉しそうだし、今は置いておくか。
幼い笑顔を見ていたら、どうやって霧のセンサーをすり抜けたのか、子供が一人でどうしてこんな所にいるのか、気にしないことにした。
そう言えば、 独り言以外で喋ったの、初めてだ。
グゥー
「ねえ、ごはんない?」
「えっ」
メインヒロイン登場