我慢しても
もう直ぐエルフが出せる!仲間が増えるよ、やったねたえちゃん。
泉の縁には苔が付いているが、それよりも明らかに水面が下がっている。この世界に来てから数日経った。その間雨は降っていない。この泉が干からびたら、死ぬのか?まだたくさん水はあるが、今のうちからなんとかしないと、取り返しのつかないことに、、、
それから色々なことを試した。一度吸収した水を再度吸収したり、泉の底を探り、どうやったら最も効率よく渇水の欲求を鎮められるか調べたり。
結果としては、吸収した水はまた吸収しても何も変わらない。泉の底は岩盤の様なもので、湧き水があるのではない、雨だけで溜まった大きな水溜りの様だ。前回我慢した時の経験も踏まえて、半日で大体3Lあれば耐えられそうだ。我慢すればするほど必要な水が増える。
馬鹿なものだ。一度にたくさん吸収できて効率がいいと思っていた、過去の自分に悪態を吐く。
落ち込んでる暇はないな、他にできることは
「泉から出ることはできないのか?」
このあいだ試した時と違い、ちゃんとした体を持っている。もしかしたら今度は出来るかもしれない。そう思い岸まで移動し、水面に降り立った。普段は泉に使っているか、ふよふよ浮かんでいるだけだったから、立つのは久しぶりだ。
「いざ、初めの一歩。 ぐ、動けない。」
体が金縛りにあったかの様に動かなくなった。前に水の体だった時も失敗したが、前回はなんとなく体が重くなっただけで、こんなにひどくはなかった。
どれくらいそうしていただろう、泉に倒れこんだ。全身から吸収される水を感じ、充足感を得て色々と気にしていたことがどうでもよくなった。やはり我慢してから吸収する水は格別ーーーん!?
「よくない!」
慌てて水中から飛び出す。 危ない危ない。充たされて判断力が鈍ってしまった。
「水がないとダメのか?」
今度は周囲をに水を撒いて、再度外に出ようとするもまた体が動かなくなり、さっきと同じことを繰り返した。失敗。
打つ手なしだ。雨による自然回復を待つ他ないか。
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2週間は経った。当初 半日3Lと思われてた必要量は日に日増加し、今では20L以上必要だ。
増加の仕方を地面に計算式を書いたりして求めたところ、最悪なことに2次曲線の増え方で、雨が降ることによる自然回復は期待できない。
水位ははっきりと下がり、残りの水量はよくわからないからが、多くても5000L程度かと思われる。水を吸収し続けることで、知覚能力が飛躍的に上昇したことで判明した。
水を操る力も増加し、今までは自分のすぐそばでしか水を操ることができなかったが、半径10mぐらいまで水を操ることが出来る様になった。水を霧状に散布して、その動きから背後はもちろん木の裏側がどうなっているかわかる様になった。
「色々出来ることが増えて楽しーなー、、、」
現実逃避する事しかできない。成長した能力が、このまま干からびる運命なのだと告げている。
諦め、水の中に潜る。 泉に全身を浸していると、不安も何もなくなる。ただ満ち足りることの喜びがある。我慢したり衝動を充たす時程ではないが、緩やかな充足を感じる。
「ずっと満ち足りている。幸せって、こういう事なんだなあ。」
限られた時間をゆっくり味わおう。
恐怖も焦燥も捨てて。
1000Lは1m^3です。案外多くないんですね。