閑話 忌子の夢想
後1話。本当に後1話でリーシャ目線終わりますから。
朝起きたら、ユニエがウサギをくれた。
彼女が私の面倒を見てくれるのはすごい嬉しい。誰からも省みられた事のなかったわたしに、ユニエは始めて温もりや優しさをくれた。私、お世話されてばっかりだね。でもユニエは世間知らずな所があるから、私がしっかりしないと。
朝食を食べ終わったら、ユニエが話しかけてきた。
「リーシャ、いくつか質問がある。」
そうだよね。どうやって説明しようかな。
「ーーーー今までは渇水の衝動しかなかったのに、お前の裸を見た時、ムラムラしたんだ。何故だと思う?それからーーー。」
矢継ぎ早にされる質問の中に、聞き捨てならない言葉があった。ムラムラ?それはつまり、私の体に興味があるの?
欲情されるというのは、汚らしく、嫌悪感を感じる。だけどユニエからは、そんなドロドロしたものを感じない。精霊に性欲はないとされる。だとしたら、ユニエのムラムラというのは、私への純粋な好意?そこまで考えた時、衝撃が走った。
あくまでも仮定だけど、それはとっても魅力的な空想で。
「言葉遣いが幼いーーー左耳はーーー」
質問を聞く傍ら、考える。
ユニエが私を想ってくれる。ユニエが私を、愛してくれる。
その甘美な妄想は、私を満たした。
「ーーーーーのはどうやったんだ?」
あ、最後の質問聴き損ねた。いいや、後で聞こう。
「ふふふ、そっかぁ。私にムラムラしたんだ。」
「何度も言わんでいい。で、答えは?」
照れてる照れてる。可愛いな。
「わかってるよ。順番に説明するから。まずは何で依り代をが私の子宮と卵巣になっただけで、満たされて、安心感を感じたのかってことよね。」
ユニエが私の胎内にいる。それを思い出したら、昨日の高揚感が再びやって来た。
子供が最も安らぎを感じるのは、母親のお腹の中にいる時らしい。私は覚えてないけど。だからユニエも、それを感じたよね?
「そうだが、、、安心感なんて言ったか?」
「違うの?」
沈黙。否定しない。やっぱり、感じてくれたんだ!
「ね、そうでしょ。たぶんそれは、私の子宮に包まれているように感じたんじゃない?それと羊水とかそんな感じの物を吸収したから、満足も安心も出来たんじゃないかな。」
例え子供が産めないとしても、私には貴女がいる。
『ふふふ、あはは。これだとユニエは私の娘になったようなものね。ママって呼んでも、良いんだよ?』
昨日感じた愛おしさを、またユニエに抱く。魔力が高ぶるせいで、思わず言霊が発動した。
「なっ、なるほどー。次行こう、次。えーと、何で幼い言葉遣いだったんだ?」
少し硬直させてしまったようだ。だけど、慌てる様子も可愛いなあ。
「それについては、先に私の能力について説明した方がいいかな。ある日ふとした事で、大怪我しちゃたの。それを治すために左耳を代償にしたんだけど、エルフにとって耳はとっても大事な場所で、種族の誇りと言っても過言ではないの。代償魔法は重要な所を犠牲にする程効果があるんだけど、耳を代償にして起きたことは、傷を癒すに止まらないで、私に高い生命力と自然治癒力、そして大きな魔力を与えたの。」
なるべく気にしてないように振る舞う。耳を失った事は今でも悲しいけど、しっかりしないと。私はユニエの親代りなんだから。
「言葉に魔力を乗せて言霊にすると、他者に影響を及ぼせるんだけど、甘えた言葉遣いでそれをすると、庇護欲を掻き立てることができるの。」
こちらは早く忘れたいことね。もう二度とやりたくないな。
「この泉に来た理由だけど、まあていのいい厄介払いかな。ほら、ただでさえ忌子だったのに、耳まで無くなって、しかも妙な力まで持ってる。そりゃあ捨てたくもなるよ。」
そこに来て、聖域に異常が発覚して、その調査に派遣された人は戻ってこない。化け物が泉に住み着いたって噂が流れて、誰も再調査に行きたがらないもんだから、死んでも問題ない私がその任を命ぜられたって訳なの。」
この事は本当に気にしていない。むしろ、ユニエと出会えたのだから、感謝しても良いかもね。
「成る程。だからお前は目を犠牲にして、私から害意を無くし、幼い言葉遣いで私を惑わし、身を守ろうとしたのか。」
「惑わすって、せめて誘惑って言ってほしいね。」
あんまり意味は変わらないか。それにしてもこの言い方だと、
「、、、 やっぱり、調査員や動物を殺したのは、貴女なの?」
「そうだ。私が殺した。」
誤魔化さないんだ。
「何の為に?」
今まで触れ合って確信した。ユニエは殺しや暴力を楽しむ性格ではない。あのガキ大将とは違う。
人を利用したり、謀ったりする事が出来そうにもない。族長とも違う。
「渇きを充たす為だ。」
「渇き?」
精霊には欲求があるらしい。それのこと?
「ああ。渇いて渇いてしょうがないんだ。半日も水を飲まないと我慢できなくなる。だから最初は泉の水を飲んだ。だが水を飲み尽くした時、もう私を潤してくれる物はどこにもなかった。だから血で我慢する事にしたんだ。」
泉の水、、、ここにあるように見えるけど、飲み干した?何か訳があるの?
「血の方が、いいの?」
私はこの子と生きていきたい。例え血を啜る化け物だと言わることになったとしても、私だけはこの子の味方でいたい。
「出来れば水が飲みたい。血は喉越しというか後味というか、、、とにかく水の方が好きだ。」
血を好んでいる訳じゃないのね。
「分かった。なら、私が貴女に好きなだけ水を飲ませてあげる。それが無理だったら例え血でも。だから、私か「マジ!?やったー!」えっ、ええ。だから、私からはな「じゃあ早く行こう!さあ早く!」、、、」
私から離れないで。
言おうと思ってた言葉を二度も遮られて、少しむくれる。
「リーシャ♪」
「なによ。」
弾んだ声で呼ばれる。どうせまた催促するんでしょ。そうですかそうですか、そんなに水を飲めるのが嬉しいんですか。
「これからよろしくな♪」
毒気が抜かれた。ユニエは普段は憂いを帯びた大人びた表情だし、笑顔も苦笑いしか見てないけど、この時ばかりは満面の笑みだった。
「はあぁ、しょうがない。」
私はユニエの親代りなんだし、許してあげる。
「よろしくね、ユニエ。」
これが、惚れた弱みってことかな。